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ジュリア⑥

「ランスロット様。ジュリア様をお連れしました」


響く、コルネの声。

それにランスロットは、声の響いたほうを仰ぎ見る。

己の視線の先。

そこに佇む、ジュリアを担ぐコルネ。

その姿。それに、ランスロットは小さく頷く。


ランスロットの頷き。

コルネはそれに応える。

冷たい石畳。そこにジュリアを降ろし、片膝をつきランスロットの言葉を待つコルネ。

その表情に宿るは曇りなき忠誠。


呼応し、レオンの声もまた響く。


「もう一人、お連れいたしました」


少女モナ

その小さな身体を足元に降ろし姿勢を元に戻す、レオン。


「ジュリア様のお連れ。名は、モナ。勇者様の命でジュリア様のお側に」


「モナ」


呟く、ランスロット。


どこかで聞いたことのある、名。

しかし、ランスロットはその名をさして気に止めることはなかった。

今はそのようなモノよりーー


小刻みに揺れる、空間。

同時にランスロットは感じた。

肌に突き刺さるような殺気と、意思持つ闇の気配。

それをはっきりと。


ジーク


染み渡る、ランスロットの声。


刹那。


吹き抜ける、闇。

漆黒を纏い、そのモノはそこに現れた。

ただ一点にジュリアを見据える、ジーク。

その姿がソコに。


レオンとコルネ。

その二人もまた身を翻し、ジークを見る。

無機質に。

その心を無にして。


だが、ジークは意に介さない。


「コロす」


呟き、ジークは意識を失ったジュリアへと歩を進める。淡々と。

周囲の光景。それをその己の意識の中に置くことなく。


ジーク。

それを見つめ、レオナとコルネは静かに剣を抜く。


「ランスロット様」


「見たところ。あの者に話は通じません」


響く、二人の声。


「それにあの闇。遥かに、先の闇を凌駕」


「ココネ様。ガルーダ様。ゴウメイ殿。そして、マリア様。おそらく勇者様をも包んだ闇。いずれ、世界をも」


こちらに。

いや、ジュリアへと近づくジーク。

その姿に、二人は敵わぬと悟る。

だが、二人は固めていた。

命を捨ててでも闇に抗う決意。それを二人は己の心に固めていた。


しかし、ランスロットはジークを見つめ別の思いを抱く。


「悲しき闇。その中に痛みを隠し、終わらぬ殺意に身を委ねし者。何故、お前が。そこまでの闇に囚われたのか、俺は知る必要がある」


【心眼】

それを己の瞳に宿し、ランスロットは見る。

ジークの闇に濡れた心の奥。

そこを目を見開いて。


〜〜〜


温かな笑顔。

太陽の下、走り回る幼き少年の姿。


暗転する光景。


勇者アレンに蔑まれ、仲間たちに小馬鹿にされ、ジュリアに裏切られ、袋叩きにされ、「故郷は滅んだ」と告げられ、大切な人を魔物の餌にされ、弄ばれーー


涙を枯らし、壊れてしまった一人の男の姿。


全てを殺し、復讐を。復讐。復讐。


オレは、復讐を。


〜〜〜


「レオン、コルネ」


名を呼ぶ声。

それに、二人はランスロットのほうを仰ぎ見る。

その二人にランスロットは命を下す。


「剣を収めろ」


と。


呼応し、ジークは呟く。

ジュリアの側。

そこに佇み、その姿を見下ろしーー


「収納する。ジュリアの気絶を」


途端。

ジュリアは気絶から覚める。


ゆっくりと開かれていく、ジュリアの瞼。

そして、ジュリアが目を開き、こちらを見下ろす存在を認識した瞬間。


「じ、ジーク」


息を飲む、ジュリア。


「ゆ、勇者様。勇者さまはどこ? も、モナは? イライザさんは? み、みんなどこに行ったの?」


震え、ジュリアはふらつきながらその身を起こす。

しかしその顔に浮かぶは、笑み。


ジークから後退り引き攣った笑みをたたえ、ジュリアは声を絞り出していく。


「ジーク。わ、わたしよ、ジュリアよ。あ、貴方の幼馴染の、ジュリア。し、知ってるわよね?」


「……」


「なにその怖い顔。は、ははは。そんな顔で私を見ないでよ。あっ、そ、そうだ。ジーク。貴方の力。そ、それがあれば故郷を元に戻すこともできるわよね? そ、そしたら。んーっ。ま、また。わたしとジークはやり直せる」


「……」


「故郷のことは、その。ゆ、勇者様に押し切られて。その、断り切れなくて。身体を許したのも、アレなの。じ、ジークがわたしに構ってくれなくて。さ、寂しくなっちゃったんだ。悪いのはわたしじゃなくて……勇者様だと思わない?」


「収納する。距離を」


離れていく、ジュリア。

その眼前にジークは身を置く。


「ひぃっ」と悲鳴をあげる、ジュリア。


その頬に、ジークは叩き込む。

敢えて力を抑えた手のひら。

それを躊躇いなく。


べきッ


頬を叩かれ、ジュリアは叫ぶ。


「なッ、なにをするの!? ジークッ、わ、わたしを殴るなんて!!」


そのジュリアに、ジークは吐き捨てる。


「楽にシねる。そう思うなよ」


そして、ジークはジュリアの腹に叩き込む。

次はその拳を、容赦なく。

己の力のみで、今までの思いを吐き出すようにして。


10万文字超えました!

これからも応援よろしくお願いします!

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