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ジュリア⑤

「どうかなさましたか?」


額を抑え、震えるジュリア。

その姿にモナは問いかける。

そして更に言葉を続けた。


「頭が痛いのですか? でしたら、少し横に」


「だ、大丈夫。すぐ治ると思うから」


鮮明に響いた、ジークの殺意に満ちた声。

そして、ジュリアの身体を包むは悪寒。

寒くはない。しかし、ジュリアは己の身を抱きしめた。


「きっと。疲れているだけ」


努めて、ジュリアは表情を明るくする。


「そう、きっと疲れてるだけ」


そう自分に言い聞かせ、モナに笑顔を向けたジュリア。

それにモナは笑わない。

どこか、ジュリアの心を見透かすような瞳。

それをもってジュリアの顔を見つめ、


「もしかして、ジークですか?」


そう声を発する、モナ。

ぴくりと。ジュリアは身体を震わせる。

それを見逃さず、モナは静かに頷く。


そして。


「ジュリア様。ココを離れましょう」


「なんだか、とても。嫌な予感がします」


ジュリアの元。

そこに駆け寄り、その手を握ろうとするモナ。


瞬間。


「ジュリア様」


「剣聖様がお呼びでございます」


閉じられた扉。

その向こうから、二つの声が響く。

それに、ジュリアは答える。


「剣聖様がわたくしを?」


未だ痛む、頭。

それに手を当て、更に問いかけるジュリア。


「どんな用件なの? わたくしはここで、勇者様を」


ジュリアの言葉の続き。

それを二人は、遮る。


「勇者様は闇に敗れました」


「ですので、もっと安全は場所。そこにジュリア様をお連れしろとの、剣聖様のご意向です」


響いた抑揚のない言葉。

同時に聞こえるは微かに怒気のはらんだ声。


「ここは剣聖様の都。貴女は剣聖様のご厚意で匿っていただいている身。少しは謙虚になられたほうがよろしいのでは?」


「どんな用件なの? そのような上から目線のお言葉。聞く者によれば、この扉を蹴破り無理矢理にでも貴女をお連れするやもしれません」


その二人の声。

それに、しかしジュリアは反論しようとした。


「わたくしをーー」


だが、それを。


「ジュリア様」


モナは制し、扉の前へと進む。

そして、声を響かせた。


「わたしは、モナ。勇者様からジュリア様の身の回りを世話するよう依頼を受けた者」


「もし用件があるのなら」


刹那。


「言ったはず。その上から目線の言葉、聞く者によれば」


「この扉を蹴破ると」


声の余韻。

それが消えぬ間に、荒々しく扉が蹴破られる。


響く、破砕音。

飛び散る、木の破片。


吹き飛ばされ、モナは壁に激突する。


ぐったりとし、モナは見た。


その手に剣を握る二人の姿。

冷たい殺気。

それを瞳に宿しーー


「貴女たちに有無はありません。剣聖様のお言葉に従って頂きます」


「抵抗するようなら。気絶させてでもお連れいたします」


黒髪のレオンと銀髪のコルネは、声を響かせる。


その時。


「ハはは。ははは」


何者かの小さな笑い。

それが室内に染み渡る。


「ん? なんだ、この声は?」


「どこからーー」


周囲を見渡す、レオンとコルネ。

そして二人の視線が倒れ伏したモナに向けられた、瞬間。


ジュリアは身を翻し、窓へと手を伸ばさんとした。

だが、それは叶うことはない。


「言ったはずだ。無理矢理にでも、と」


素早く懐から短刀を抜き、ジュリアの手のひらへと投擲するレオン。

あがる、悲鳴。

その場に立ちすくみ、ジュリアは己の手の甲を抑える。

ぽたぽたと滴る、鮮血。


そして二人を仰ぎ見、ジュリアは叫ぶ。


「わッ、わたくしにこのようなことをしてタダで済むと思っているのですか!?」


「まだ騒ぐのですね」


無機質に歩みを進め、ジュリアの眼前に立つコルネ。

そして慣れたように、「静かにしてください」と呟き、ジュリアの腹に拳を叩き込む。

己の気を込めた、拳。それを躊躇いなく。


「……っ」


意識を失い、ジュリアは軽々とコルネに担がれる。


「こいつはどうする?」


動かない、モナ。

それを見つめ、レオンはコルネに問う。


「連れていくか?」


「えぇ。意識を取り戻し余計なことをされると厄介ですので」


コルネの言葉。

それに頷き、モナを担ぐレオン。

そして二人は部屋を後にする。


だが、二人は気づかなかった。


担がれた、モナ。

その瞳に宿る深淵の闇と、浮かべられた笑み。

それに一切。気づくことはないのであった。


〜〜〜


「あそこか」


その目に千里眼と透視を宿し、呟くジーク。

剣聖の都。

その入り口にあたる、大門。

その前に佇み、ジークは視線の先に聳える剣聖の聖堂を見据えていた。


門の前に立ち並ぶ、剣士たち。

皆、その顔を険しくし都の警護にあっている。


それにジークは興味を示さない。

目的。

それはジュリアの死。


「収納する。ジュリアとの距離を」


力を行使し、漆黒に包まれるジーク。

そして、ジークはジュリアの居る剣聖の聖堂へと向かったのであった。


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