ジュリア②
拳の勢い。
それにより、本来ならその場に留まることさえできない衝撃。常人ならば、瞬時に塵になり原型を留めることさえ叶わない、ジークの拳。
しかし、アレンは声を発する。
「無駄だってわかってんだろ、ゴミ。まだわかんねぇのか」
ジークの手首。
それを握り、尋常ならざる力でそれを引き離すアレン。
そして、ジークは見た。
痣ひとつない、アレンの顔。
天賦と神。
その二つの力が宿った拳を受け、しかし何事もなかったかのように笑みを浮かべるアレンの姿。それをはっきりと。
「収納する。心臓を」
「意味ねぇって言ってんだろ」
ジークの呟き。
それに余裕をもって答え、自身もまた拳を固めるアレン。
「あの時よりつえぇぞ、俺は。"女神の加護を受けた俺"より」
笑みを無くし。
「数段、上だ」
呼応し、ジークの腹に叩き込まれるアレンの拳。
途端。
ジークの中に広がる、内臓の痛み。
視界が揺れ膝をつきそうになる、ジーク。
しかしアレンはそのジークの髪を掴み、吐き捨てた。
「ゴミ。てめぇが世界に混沌をもたらせばもたらす程に、俺は無尽蔵に強くなる。【勇者】っつう存在はそんなもんだ。魔王無き今。てめぇがその代役ってわけ。わかったか? 俺の玩具風情が」
真紅ではなく、純白。
その光をその身に宿し、アレンはジークを嘲る。
「あの時、確かにてめぇは俺を殺った。【女神の加護】を受けた俺を殺った。だがな、ゴミ。いつから俺が【一人だけ】だと思っていた?」
「本体はこの俺か? それとも、また別のところでこの様を嘲笑っているかもしれねぇな。いやそれとも、別の次元。別の時間軸にホンモノの俺が居るかもな」
三度、拳を振り上げーー
ジークの顔にソレを叩き込もうとするアレン。
ジークはしかし、動じない。
「収納する。痛みを」
自身の痛み。
それを消失させ、ジークをアレンを見据える。
そして、呟く。
「なら、一人残らず」
「コロすまでだ」
ジークの殺気に満ちた声。
それをアレンは嗤う。
「殺ってみろよッ、ゴミ!! まぁッ、今のてめぇならこの目の前の俺すら殺せねぇと思うけどな!!」
【武神】の力。
それをたぎらせ、瞳孔を開くアレン。
アレンの背後。
そこに現れるは、かつて世界を包みし膨大な魔を祓いし武神の幻影。
純白を纏いーー
「出てこい、魔物たち」
ジークの呼び声。
それに応え、世界中の魔物たちは咆哮を響かせる。
ジークの背。
そこに魔物たちはその姿を現す。
闇を纏い。神さえも畏怖せずに。
「……っ」
息を飲み、身を震わせるイライザ。
もはや自分がどうこうできる次元ではない。
そう悟り、イライザは二人の有様を見つめることしかできない。
吹き抜ける、闇と白を帯びた風。
それに髪を揺らし、自分の身を抱きしめながら。
「はははッ、おもしれぇ!!」
「その有象無象の魔物共でなにがーーッ」
「収納する。魔物たちの力を」
アレンの声。
それを掻き消し響く、ジークの声。
それに倣い、ジークは世界中の魔物たちの力を自身に付与。
そしてそれが意味すること。
それは即ちーー
ジークの身。
そこに世界中の魔物たちの力が収束し、全が一になったことを意味していた。