収納するモノ①
そんなジークの思惑。
そしてその通りに事は運ぶ。
ジークの視線の先。
丁度、ジークが通ってきた道。
そこを進み、こちらに向かう人影。それをジークはその目に捉える。
数は一人。
体格は岩のように大きい。
坊主頭に、丸太のように太い腕。
見るからに柄の悪い見た目。
だが、ジークは恐れない。
いや恐るるに値しない。
そして、ジークの視線の先にその男【ザール】は現れる。
「おいッ、てめぇがジークか!?」
「……」
響いた怒声。
それに反応を返さず、ジークは風に髪を揺らすのみ。
「俺は剛腕のザール。アレン様の傭兵にしてッ、最強の拳を持つ者だ!!」
鼻息荒く、声を轟かせるザール。
ジークとザールとの距離。
それはおよそ、数十歩分。
「なんだよッ、おい!! こっちは自己紹介をしたってのにてめぇはナシかよ!?」
「……」
「ちッ、舐めやがって」
舌打ちをし、ザールは拳を鳴らす。
「なら見せてやる!! 俺の強さをな!!」
叫び、ザールはその場で拳を撃ちつける。
地面に向け。渾身の力を込めて。
瞬間。
地が揺れ、草原全体が揺れる。
「どうだッ、見たか!? これが俺の力だ!!」
「この拳ひとつッ、それで俺はアレン様直属の傭兵団に入ることができた!!」
誇らしげに笑い。
悠々とジークの元へと歩み寄っていくザール。
その姿を見つめ、ジークもまたザールとの距離を詰めていく。
ザールに対する、恐れ。
そんなものジークの顔には宿っていない。
あるのは、ただひとつ。
「もう一匹」
混じり気のない殺気のみ。
そして二人は相対する。
数歩の間。
その距離感で二人は佇み、互いを見る。
ザールはジークを見下ろし、ジークはザールを見上げる格好で。
先手を打つのは、ザール。
「一撃だッ、一撃で決めてやる!!」
拳。
それを振り上げ、ジークへと振り下ろさんとするザール。
地面を殴るだけで地震を起こす、拳。
それを人間が受けたならひとたまりもない。
しかし、それは受ければの話。
「収納する。あんたの拳を」
「!?」
闇に包まれる、ザールの拳。
手首から上。
それが消滅し、ザールは絶叫する。
「なッ、なにが起こってーーッ」
「アレン様直属の傭兵団、か。笑わせてくれるな……おい」
吐き捨て、【収納物】からジークはザールの拳を取り出す。
そしてそれを自身の拳へと変換しーー
メキッ
容赦なく。
ジークはザールの腹に、その拳を叩き込むのであった。