王都④
その姿。
それを見定め、声が響く。
「ごッ、ゴブリンの群れだ!!」
甲冑姿の男。
その騎士の叫びが、轟く。
「ぐぎゃッ!!」
「なッ!?」
一匹のゴブリン。
それが大きく跳躍し、騎士へと覆い被さる。
そして押し倒し、その鋭利な爪をもって、男の顔面を弄ぶ。
ぐちゃっぐちゃッ
「うッ、うわぁぁぁ!! やめろッ、やめてくれ!!」
「ぎゃっぎゃッ!!」
笑い。男の目玉を抉る、ゴブリン。
「ギャァああ!!」
その騎士の叫び。
それに、そこは混乱の境地に陥いる。
だが、中には武器を構え、ジークに向かってくる者たちも居る。騎士とは違う街の人々。その無力な集団が。
しかし、平和ボケし騎士と勇者に頼り切っていた連中にできることなどなにひとつない。
「死ね。死ね。シね」
吐き捨て振り返り、ジークはゴブリンたちの蹂躙を見つめる。
「ぱッ、パパ!! たッ、助け」
「ぎゃッ」
「ひぃっ」
数体のゴブリン。
それに囲まれ、服を引きちぎられる少女。
「い、いやぁッ、やめてッ!!」
「ぐるるるっ」
「ぐぎゃッ!!」
ぶちぃッ
「おごぉっ」
胸の突起。
それを引きちぎられ失禁し、その場で白目を剥く少女。
それに囲み、楽しそうに少女を棍棒でなぶり殺しにしていくゴブリンたち。
"「この街だけ幸せならそれでいい」"
"「そうね。他の所なんてどうでもいいわ」"
"「他の所のみんな。その貧民たちはもうちょっとがんばって働いて欲しいな……この王都の為に。そうすれば、ぼくたちは新しいおもちゃがもらえるんだ」
壊れた村。
その話を聞き、笑いモノにした子どもたち。
「い、いやだ死にたくない」
「〜〜♪」
壁ぎわ。
そこに男の子を追い込み、ゴブリンは鼻歌混じりに棍棒を振り上げる。
「あっ、あっちにいけ!! ぼぼぼ。ぼくはなにも」
「ぐぎゃ?」
ぶちぃッ
「ぃだいっ、いだいッ!!」
「ぎゃッぎゃッ」
両耳を引きちぎり、嬉しそうにソレを振り回すゴブリン。
その光景。
それはまさしく、阿鼻叫喚の地獄絵図。
「く、くそぉッ!! ゴブリン共めぇ!!」
「まッ、街を守るんだ!! 魔物共からッ、この街を!!」
「「おぉーッ!!」」
叫び、街の男たちはゴブリンへと立ち向かっていく。
その手に鍬や鎌。つるはしを握りしめて。
転がる、人々の無惨な姿。
それに我を忘れ、男たちは恐怖を忘れ、ゴブリンたちへと駆け寄っていく。
その姿。
それに、ジークは呟く。
「そうやって。抵抗したはずだ」
ジークは続ける。
「そうやって、そうやって。みんなも抵抗しただろうな」
轟く、ジークの声。
そこに込められているのは、王都に対する憎悪。
「舐めるな。その程度の抵抗でなにができる……そんなことも抜かしたんだろうな。俺の故郷を滅ぼす時に、てめぇらの王様は」
死した騎士。
そこから記憶を収納し、拳を固めるジーク。
そして目を見開き、ジークは命じた。
ゴブリンたち向け、一切の躊躇いも容赦もなく言葉を吐き出す。
「手加減などするな。ここはお前たちの狩場だ。 一人残らず殺し尽くせ。一人残らず、惨たらしく弄び。殺せ」
「収納する。お前たちの理性を」
「ぐぎぁッ!!」
ジークの命。
それに嬉々とした咆哮をあげ、ゴブリンたちはその理性のタガを外す。
そして更に、ジークは声を響かせた。
「ダークウルフ。ダークフェアリー」
己の中。
そこに居る魔物たちの名。
それを呼ぶ、ジーク。
それに応え、ダークウルフの遠吠えとダークフェアリーの無邪気な笑い声がジークを囲むように反響する。
「いッ、いやぁぁぁ!!」
「ま、ママッ!! こわいッ、こわいよ!!」
泣き叫ぶ子ども。
その手を握り、赤子を抱きながら逃亡を企てる親子。
しかし、魔物たちはソレを許さない。
「きゃははは!!」
「ままーままーこわいよー」
二匹のダークフェアリー。
その二匹は、嗤い。子どもの声真似をしながら、親子の周りを飛び交う。
「どいてッ、そこを退いて!!」
ダークフェアリーたち。
その小さな魔物に、母は叫ぶ。
それをダークフェアリーは、けらけらと嗤う。
そして。
「それっ」
「きゃははは!!」
浮遊魔法。
それを使い、子どもと赤子を空高くへと誘うダークフェアリー。
母は血相を変え、泣き叫ぶ。
「かッ、返して!! 子どもたちをーー」
かえして。
その言葉。
それを遮り、ダークフェアリーは子どもと赤子を空高くから墜落させる。
ぐちゃっ
瞬間。
母はその場に崩れ落ち、慟哭。
それを、ダークフェアリーたちは嗤う。
「死んじゃったッ、死んじゃった!!」
「きゃはははッ、きゃはははは!!」
「でも。自業自得だよね」
「うんっ。こいつらも同じようなことしたんだし」
「わッ、わたしたちが何をしたと言うの!?」
「自分たちには関係ない。わたしたちのほうがあの村の連中より上。そう思ってたんでしょ?」
「そッ、そんなの!! この街のみんなが思っていることよ!!」
ダークフェアリーの嗤い声。
それに子を失った母は、叫ぶ。
怒りに身を任せ、叫んだ。
「きゃーこわい。怒ってる」
「こわーい。こわーい」
泣き叫ぶ母。
その姿を茶化し、しかしダークフェアリーたちの目は笑っていない。
その眼光。そこに宿るは、魔物に戯言を抜かす人間に対する殺意。
「なッ、なにもしてない!! わたしはなにもーーッ」
しかし、その声をゴブリンの呻めきが遮る。
母のすぐ後ろ。そこで、数匹のゴブリンたちは鼻息を荒くし血みどろになった棍棒を振りかざしていた。
その気配。
それを感じ、母は息を飲む。
「ぐぎゃッ」
理性のタガを外した、ゴブリンたち。
皆、目を血走らせ、怯え震える目の前の獲物へ飛びかかっていく。
そして、響く金切り声。
ごきっ
ぐちゃッ
押し倒され、ゴブリンたちの玩具にされるかつて母だった者。
更にその目の前で、ダークウルフは子と赤子の亡骸を貪り食う。
餌になる、我が子の亡骸。それに手を伸ばし目を虚にし、母は与えられた絶望に絶叫する。
だが、その絶叫もゴブリンたちの楽しそうな鳴き声にかき消されていく。
ダークフェアリーたちは、嗤う。
けらけら。けらけらと。
その光景。
それを見据え、しかしジークは微塵も情など抱かない。
「見えるか? 聞こえるか? 王。てめぇの王都の有様が」
表情を変えず、王城を見上げ呟くジーク。
そのジークの足元へと一匹のダークウルフが擦り寄る。
唾液の滴る、口。そこに、引きちぎった子どもの首を咥えたまま。
「ぐるるる」
唸りをあげる、ダークウルフ。
だがその瞳は、ジークに対する忠誠で彩られていた。