心の闇③
死した、ガイラス。
その亡骸を、ジークはゴミのように投げ捨てる。
べちゃッ
と音をたて、石畳に叩きつけられるガイラスの亡骸。
そして滲む、血。
そこには、生前のガイラスの面影は欠片もない。
それに表情ひとつ変えず、ジークは踵を返す。
血に染まった地。
そこはもはや、聖なる地などではない。
ジークの力で汚され、そして。
マリアの加護を失ったその地は、ただ死体が転がり血の臭いの充満する不浄の地と成り果てたのであった。
〜〜〜
ココネ。ガルーダ。ゴウメイ。マリア。
そして、次は。
「わたし」
声をこぼし、室内を行ったり来たりするジュリア。
その顔に余裕は無い。
あるのは、処刑を待つ罪人のような焦燥。
そして、ジークに対する畏れだった。
整った顔。
見る者全てに「美しい」と評されるその美貌と、引き締まった体躯。
勇者に見初められ、初級治癒師であるにも関わらずその仲間に加えられた存在。それが、ジュリアだった。
初級治癒師といえど、その腕は良かった。
傷を治す。
その程度のことなら、当たり前のようにできた。
しかし勇者とその仲間たちは治癒が必要ない程に強く、むしろジュリアは目の保養として仲間たちに受け入れられていた。
古臭い故郷。
それを捨て、ジークを裏切り、勇者の下で華やかしい人生を歩む。いや、歩めるものだと。
そうジュリアは信じていた。
だが、今となってはーー
立ち止まり、胸を抑えるジュリア。
その身は震え、その口から漏れるは自身の行為に対する後悔とジークに対する懺悔。
ではなく。
「くそっ、くそ。どうしてわたしがここまで追い詰められないといけないの? そ、それもこれも……弱すぎるあいつらが悪いのよ。あいつらがさっさとジーク。いえ、あのゴミを始末してくれたら」
ココネ。ガルーダ。ゴウメイ。マリア。
その四人に対する愚痴。
そして、「しかもなに? この国の兵や騎士たちの弱さ。なにやってるのよ、一体」国に対する不満。それをジュリアは、紡いでいく。
"「あーぁ、こんなことになるってわかってたなら。勇者様に進言すれば良かったわね。もっと強大な国。そこに、身を置こうって」"
胸中で呟き、窓際へと歩み寄ろうとするジュリア。
っと、そこに。
「入るぞ、ジュリア」
響く、アレンの優しい声。
それにジュリアは、いつものように答えた。
「はい、勇者様。どうぞお入りになってください」
先程までの苦虫を噛み潰したかのような表情。
それを花のような笑顔に変え、ジュリアは小走りに扉へと駆け寄る。
ガチャっ
開けられる、扉。
そしてそこに立っていたのは、勇者。
いつもの、アレン。
その姿に、ジュリアは抱きつく。
「アレン様」
「ジュリア、心配をかけてすまない。ジークの始末。それに時間がかかってしまって」
「いえ、わたくしはアレン様を信じております。アレン様ならきっと、あのゴミを始末してくれると。わたくしは信じております」
「あぁ、必ず。俺は奴を始末する」
「勇者様」
抱きしめ合う、二人。
しかし、ジュリアは気づかなかった。
アレンの瞳。
そこに宿る、いつもとは違う光。それに一切。
そしてどこか、「ジュリア。俺はジュリアだけは守る。この身を犠牲にしてでも」そのアレンの声が無機質になっていることも、ジュリアは全く気づくことができなかった。
〜〜〜
時を同じくし。
「ココネ。ココネ。ココネの仇はわたしが」
「立つ時。それが、来たようだ。大聖堂。それが、堕ちたとなれば」
魔聖と剣聖。
その二つの存在が、声をあげた。
それぞれの国。その城の中で。
ジークに対する敵意。それをその顔に露わにしながら。
〜〜〜
王都。
それを見下ろす、崖の上。
そこでジークは、呟く。
王都を見据えーー
「収納する。勇者の結界を」
吹き抜ける風。
それに髪を揺らし、その双眸に闇を蠢かせながら。
そして、更に。
「出てこい」
ジークは、大量の魔物たちを【収納物】より取り出す。
闇が広がり、ソコから魔物たちは姿を現した。
ジークの意思。それに応えるようにして、ソコに現れたのであった。
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