心の闇②
そのジークの視線の先。
そこには、【完全防御】の力を備えし盾を構える兵たちの姿がある。
その数、およそ千。皆銀色のオーラを纏い、強者のオーラを漂わせていた。
鋭い音。
それと共に盾に弾かれる、貫通の矢。
同時にそれらはパラパラと砕け散り、彼等の足元の砂と化し風に流され飛んでいく。
そして、響くは声。
「ジークッ、世界を混沌へと導かんとする者!! これより貴様を王と勇者様の命によりッ、断罪する!!」
「光は決してお前などに屈しない!! 数多の命ッ、それを慈悲無く奪ったその所業!! それはまさしく万死に値する!!」
「死にたくなければその場で両手をあげろ!! そうすれば、王と勇者様に口は聞いてやる。半殺しで許してあげてはいかがですか? そう進言してやっても構わない!!」
我らが正義。
そう言わんするその声音。
あたかも自分たちが光でお前は闇だ。と言わんばかりの自信に満ちた声の質。
次々と剣をを抜き、その刃先をジークへと向けていく面々。
後は長であるガイラスの号令。
それさえあれば、彼等はジークに対し無慈悲な攻撃を加える。
一切の慈悲や躊躇いもない攻撃。
それを、有無も言わさずに。
しかし、そこに響いたのは号令ではなくーー
「ジークッ、我はガイラス!! この兵たちを束ねッ、貴様を討てと命を下された者!!」
ガイラスのジークに対する言葉。
「だが少し話がしたいッ、互いに剣を収めようではないか!! 言葉で語り合えばッ、少しはわかりあえるはずだ!!」
「ガイラス様!!」
「なにを仰っているのですか!?」
「あのモノに言葉などーー」
だが、ガイラスは部下たちを制し更に言葉を響かせる。
「故郷を滅ぼされッ、大切な人を奪われたお主の気持ち!! それを無碍に扱うこと等ッ、しない!! 復讐に身を委ねるお主の考えッ、それも理解できる!!」
一歩、二歩。
前に踏み出し、ジークへと近づきつつ声をかけ続けるガイラス。
その姿。
それを見つめ、部下たちは成り行きを見守る。
「ジークッ、もし俺がお主と同じ立場なら!! きっと復讐を誓うだろう!! だがッ、ジーク!! 復讐を果たした先になにがある!? お主の心はソレで晴れるのか!? 滅ぼされた故郷。そして、大切な人々。その者たちは喜ぶのか!? お主が闇に染まりッ、その身を鮮血で染めることを!!」
吹き抜ける、風。
それにガイラスは聞いた。
「収納する。距離を」
というジークの無機質な声。
それをはっきりと。
そして、ガイラスの眼前に現れたジーク。
ガイラスはそのジークの肩に手を乗せようとした。
「ジーク。話がしたい」
そう言葉をかけようとした。
しかし、返ってきたのは無機質な声。
「ナニを言った?」
ガイラスの手。
それを掴み、闇色の瞳でゴミを見据えるジーク。
「オマエ、さっき。オレにナニを言った?」
めきッ
ガイラスの手。
それを握り砕き、ジークは殺意をたぎらせた。
それに、ガイラスは汗を滲ませる。
「ガイラス様!!」
「ガイラス様ッ、今助けに!!」
「ガイラス様から離れろ!! ジーク!!」
叫び、ジークとガイラスの元に駆けつけようとする兵の面々。
その気配。
ジークはそれに応える。
視線さえ向けず、吐き捨てるようにして。
「収納する。首を」
途端。
あたりは血の海と化し、首を無くした兵たちが次々と死体となって倒れ伏していく。
その音と、残るは自分一人という恐怖。
「……っ」
ガイラスは怯え、震える手で剣を抜こうとした。
しかし、ジークは呟く。
「ゴミ。てめぇ、ナニを言った」
「オレにナニを言った?」
「ひ、ひぃ」
ガイラスの首。
それを掴み、ジークは力を込めていく。
「舐めるなよ、ゴミ。知ったような口を叩きやがって」
ごきッ
「あがっ」
首を掴む、天賦の手。逆手に神の手。
それを纏い、ジークは目を見開く。
そして、ガイラスが耳障りな悲鳴をあげる前にーー
ぐちゃッ
ごきぃッ
ガイラスの首。
それを握り潰し、その顔面にジークは逆手に纏った神の拳を叩き込んだのであった。