表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/96

アレンの傀儡③

途絶える、アレンの声。

しかし、ジークには見えていた。

いかずちの轟音と光。

その中に佇み、唇を吊り上げるアレンの姿。

それをはっきりと。


「風の意思」


呟かれる、ジークの言葉。

呼応し、龍のカタチをした突風。

それがアレンへと襲いかかる。

触れたモノ。それ全てを切り刻む、風の猛威。

それに飲み込まれ、アレンは一歩二歩三歩と後退するのみ。

そして風にその髪を揺らしーー


「もっとヤレよ、ジーク。この程度か? てめぇのそのくだらねぇ力の行使は」


声を響かせ、指を鳴らすアレン。

ぱちんッという乾いた音。

それが響き、無数の真紅の剣が現れジークを穿たんとする。

アレンの愉悦。それに応えんとして。


「収納する。剣を」


涙を拭うことなく、ジークは呟く。


漆黒に包まれ、消える真紅の剣。

瞬間。

ジークの視界がグラつく。


【収納物】

 真紅の剣×21


ジークの足に刺さった剣。

そして穿たれようとした剣。

その二つがジークの【収納物】に収納された、その時。


【収納物】

 @@/&&_@


ジークの内。

そこに宿った力が、混濁する。

頭を抑え、呼吸を荒くするジーク。


その姿。

それに、アレンは楽しそうに声をかけた。

蔑みの感情。それを込めながら。


「言ったよな、ジーク。もしかしてもう忘れちまったのか? 俺のその剣のチカラ」


突風が竜巻になり、しかし微動だにしないアレン。

真紅のオーラに包まれ、腕を組むその姿。

それは、まさしく【勇者】そのもの。

魔王を討伐し最強と評された、勇者そのもの。


「仕方ねぇな。もう一回、教えてやる」


「俺のその剣は」


「あらゆるモノに、絶対的な死を与え。そして」


「無に帰する」


瞳孔を開き、アレンは声を発した。

無機質に。まるで、遥か下方を見下す、巨人の如く。


途端。

ジークの瞳から闇が消えていく。

そしてそれは、【収納】の力が無に帰することを意味していた。


「てめぇのそのくだらねぇ力。俺の剣は、それさえも無に帰する。俺の剣を収納した時。その瞬間から、てめぇは終わりなんだよ。わかったか? ゴミ」


吐き捨て、三度アレンはジークに向け剣を穿たんとする。

ぱちんっと指を鳴らし、己の背後に無限に等しい数の剣を創造して。


その、刹那。


「コロす」


響く、声。


「コロす。殺す。オマエを殺す」


染み渡る声。

それは、明らかに先ほどまでのジークの声ではない。

しかし、アレンは動じない。


「なんだ、ジーク。まだ喋れる余裕があったのか?」


「コロす。コロす」


色を無くした虚な瞳。

それをもって天を見上げ、ジークは涙を流し続けた。

呼応し、【雨】の意思がジークに応える。


降り注ぐ、雨。

それを受け、ジークはその身を濡らす。


無に帰っていく【収納】という名の力。

そして、それに倣いジークの心もまた無に帰っていく。

アレンの創造した真紅の剣。

その力で、なにもかもが無に帰結していく。


「無様だな、ゴミ。それかてめぇの最期か」


ジークの姿。

それを鼻で笑い、真紅の剣をその手に握るアレン。

そして、その歩を進めーー


「せめてもの情けだ。最期はこの俺の手で、その存在ごと無にしてやる。よかったな、ゴミ。いや、ジーク。この勇者様の手で最期を迎えることができてな」


アレンは歪んだ笑みをたたえた。

しかし、その笑みは一瞬にして無くなる。


完全に心を無くしーー


「コロす」


そう呟いたジークの眼差し。

それに、アレンは見た。

得体の知れぬ力の気配。

それを、鮮明に。


「てめぇ。なんだ、その目」


「シね」


「死ぬのはてめぇだ」


ジークの言葉。

それに駆け出し、ジークに剣を振り下ろさんとするアレン。


しかしその剣を、ジークは掴む。

そして、呟いた。


「シね」


砕ける、剣。

その真紅の欠片に、アレンは目を見開く。


【収納】の力。

それは、ジークの力を抑えていた枷。


あの時。

心を壊されパーティーに捨てられ、ジークは力に目覚めようとした。【万物収納】とは違う、新たな力。

それを【天上のモノ】が抑え込む為に、芽生えさせた力。

それが【万物収納】という名の力。


だとすればーー


「て、てめぇ」


後退る、アレン。

その表情に先ほどまでの勢いはない。


自らの手。

それをもって、ジークの枷を外してしまったアレン。


そのアレンを、ジークは見る。

そして、呟いた。


「シね」


刹那。

アレンの身は、瞬きの間に砕け散る。

真紅のオーラ。

女神の加護。あらゆるモノからその身を守り、そして無に帰す武器を創造せし力。

それさえも凌駕して。


その残滓。

それを踏みつけ、ジークは更に呟く。


「シね。俺の中の女神の加護ゴミ


呼応し、ジークの【収納物】の中にあった真紅の剣は消滅。そして、三度、【万物収納】の力はジークの中に蘇る。


倣い、ジークはその場に倒れ伏せる。


己の闇の中に。

深き眠り。その中に。蘇った故郷の温かな記憶を思い出しながら。


〜〜〜


「……」


「アレン様」


窓際に佇む、アレン。

その背にイライザは声をかける。

その声に、アレンは瞼を開け応えた。


「やはり、あの俺じゃ相手にならなかったか。あのゴミ。想像以上だな」


「はい?」


「いや、なんでもない」


「それより、イライザ」


「はい」


「王に伝えろ。今すぐ大聖堂に兵を、と。今ならあのゴミを始末できると」


「かしこまりました。勇者様はどのように?」


「……」


イライザに応えず、再び窓の外を見るアレン。

そのアレンに頭を下げ、イライザは部屋を後にする。


扉が閉まる音。

それを聞き届け、アレンは呟く。


「初めてか。この俺が殺されたのは」


そう、楽しそうに呟いたのであった。

そしてその声を、隣室の扉の向こうで聞くのはジュリア。


「ゆ、勇者。さま? わ、わたしはほんとに貴方を。し、信じてもよろしいのでしょうか? い、いいえ。わたしのした選択はひとつも間違ってなどいませんわ。あ、あのゴミクズ。あ、あいつさえ……居なくなれば、それで。それで」


そう胸中で呟き、自分のした選択が間違ってなどいないと改めて己に言い聞かせたのであった。


〜〜〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このビッチ、今更ナニ抜かす。(•▽•;)(猿亀合戦で一番搾りしたあとで出来た猿児得ル共々、賛同悪無君に胸から下を美味しく召しやがられる未来図が君にはまっているよと。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ