万物収納はあらゆるモノを収納する④
「わ、わたしの槍術を収納だと?」
響いたジークの言葉。
それを反芻し、カチカチと歯を鳴らすエレン。
もはや逃げることさえ忘れ、エレンはこちらに近づいてくるジークを見据えることしかできない。
四つ這いの格好で。
まるで屠殺を待つ家畜のように。
化け物。
その言葉しか、エレンの頭の中には浮かばない。
そして、エレンは問う。
自らの眼前。
そこで足を止め、無機質に槍を振り上げるジークに対し問いかけた。
「お、お前は何者だ?」
その問い。
それにジークは答えた。
エレンの絶望に満ちた顔。
それを見据えーー
「ジーク」
そう短く答え、ジークは容赦なくエレンの背に槍を突き立てる。
飛び散る鮮血。
それを浴び、ジークの表情は変わらない。
響く、エレンの断末魔。
それさえもジークは収納する。
「収納する、エレンの断末魔を」
良心を収納した、ジーク。
そのジークは死など厭わない。
自分を貶め、全てを奪ったモノたちへの復讐。
それを果たすまで、決してジークは止まること等ない。
消える、エレンの命。
それを見届け、ジークはエレンの背から槍を抜く。
同時に、ジークは収納する。
「収納する、こいつの死体を。どこかで使えるかもしれないからな」
闇に包まれ、収納されるエレンの死体。
【収納物】
良心×1
男たちの足×4
エレンの断末魔×1
エレンの双翼×1
エレンの死体×1
その文字の羅列。
それを脳内で見つめ、ジークは身を翻す。
「どこからでも、こい。俺は逃げも隠れもしない」
そう呟き。
自分の命をとらんとするモノたちを全く恐れず、一歩一歩、ジークは森の中を進んでいくのであった。
〜〜〜
「エレンが帰ってこない」
「なんだと!? あのエレンがか?」
「くそっ。だから先走るなと言ったのに」
アレンに雇われた傭兵たち。
そのモノたちは皆、森の入り口で帰らぬエレンのことを心配していた。
「あれほどの槍術を持つエレン。その者が帰ってこぬとなれば、一大事。今すぐ、アレン様に報告を」
傭兵たちのリーダー。
双剣のディルクがそう声を響かせる。
だが、その声を遮りーー
「次は俺が行く。俺はエレンの数倍は強いからな」
ずいっと前に躍り出るは、巨漢の男。
坊主頭に丸太のように太い腕。
そして筋肉に包まれたその巨体は見るモノを圧倒する。
「やめておけ、ザール。ここは様子を」
「黙れッ、俺が負けるとでも思ってんのか!?」
叫び、静止を振り切り森へと向かっていくザール。
その背を見送り、ディルクたちも後を追うように森の中へと向かっていったのであった。
〜〜〜
エレンの断末魔×1
「いたいッ、いやだ!! 死にたくない!!」
それを取り出し、ジークは奴等を誘う。
場所は開けた、草原。
「ここなら見つけやすいだろ」
そう呟き、闇をたぎらせながら。