アレンの傀儡②
ぼたぼたと滴る、アレンの血肉。
しかし、ジークの表情は変わらない。
この程度で、アレンは死なない。
そうジークは確信していた。
そして、そのジークの確信。
それは、現実のものとなる。
「思ったよりやるな。その手、誰のモンだ? マリアのお下がり。階級の低い、神のモンか?」
ジークの脳内。そこに響く、アレンの声。
呼応し、異物を握りしめたような拒絶反応がジークの手のひらに伝わる。
まるで、棘が刺さったかのような微かな痛み。それが、じくじくと。
潰れたはずのアレンの頭。
しかし声は収まらない。
「最初の一撃。あれ、メイリンのモンだろ? 腰が入ってたぜ。中々、いい拳だ」
「収納する。てめぇの命を」
響き続けるアレンの声。
それにジークは、力を行使する。
一瞬、動きが止まったアレン。
だが、次の瞬間。
「離せ、ゴミ」
べきッ
ジークの手。
神と天賦が宿った、ジークの手のひら。
それが見えぬ力で逆方向に折れ曲がり、強制的にアレンの頭からソレが離される。
途端。
散らばったはずの血肉。
それがまるでひとつひとつが意思をもっているかのように収束し、アレンの潰された頭を元のカタチへと復元していく。
まるで割れたガラスが元に戻るかのように。そして、時が逆再生を行ったかのように。
こきっ
と首を鳴らし、瞳孔を開くアレン。
その両目に光は無い。
あるのは、光とも闇とも違う異様な灯火。
そのアレンの眼差し。
それを受け、ジークは動じない。
「なぁ、ゴミ。いや、ジークと呼んでやる。てめぇのその力。いつ目覚めた?」
ジークの周囲。
そこを歩き、ジークへと問いかけるアレン。
「あの日。俺たちがてめぇを半殺しにした日か? それとも、もっと前か?」
「収納する」
「答えろ、ジーク」
パチンっと指を鳴らし、アレンは真紅の剣をジークの片足に穿つ。
それにジークはその場に膝をつき、漆黒を己へと収束させていく。
その様。
それを、アレンは鼻で笑う。
「まだなにかやりてぇのか? いいぜ、やれよ。次はなにを収納する? 俺の心臓か? 存在か? この世界全てか? それとも、もっとすげぇモンか?」
「ーーす」
「あ?」
「コロす」
「殺ってみろよ、ジーク。口先だけならいくらでも言えるぜ? あぁ、そういや。こいつをてめぇに渡そうと思ってたんだ。ほれ」
歪んだ笑み。
それをたたえ、懐からナニカを取り出すアレン。
そしてそれをくしゃりと潰し、アレンはソレをジークへと放り投げる。
ぽとりと。
ジークの眼前に落ちた、ソレ。
それに、ジークの闇色の目から涙が溢れる。
ぽたぽたと。
まるで壊れた蛇口のように。
血で真っ赤に染まった二つの花の冠。
"「あれん。これね、みんなでつくったの。じゅりあとあれんの分。わたしたちは、みんな。あれんとじゅりあがだいすき」"
"「へいわになったら。また、みんなで畑でおしごとしようね。また、みんなでおりょうりをして、おいしいおいしいってたのしくしようねっ」"
"「ばいばいっ、あれん」"
収納したはずの記憶。
それが今まで違い、鮮明にジークの脳内に溢れ出る。
自身の収納という名の力の堤防。
それが決壊し、ジークの心の痛みが理性を凌駕した。
「イたい。痛い。いたい。ぃだい」
嗚咽に似た、声。
それをあげ、手を伸ばすジーク。
足の痛み。
それを忘れ、ジークは真っ赤な花の冠を手に取ろうとする。
しかし、ソレをアレンは許さない。
「無様だな、ジーク。さっきまでの勢いはどうした?」
三度。
指を鳴らし、ジークが手に取ろうした花の冠に真紅の剣を穿つアレン。
瞬間。
ジークは嗤う。
「ははははッ、ハハハ!!」
泣いたまま、嗤うジーク。
呼応し、世界が揺れる。
アレンもまたソレを笑う。
「来いよ、ジーク。次はなにをーー」
刹那。
アレンの頬にはしる、傷。
そして、アレンは聞いた。
「収納する。世界中の全ての意思を」
そしてジークはソレを取り出し、行使する。
「全ての意思。ソレが全てオマエに向けられる」
「意思が俺に? てめぇ、なにをほざいてーー」
瞬間。
轟音と共に、アレンに降り注ぐ無数の巨大な雷。
そしてそれは、自然の意思ひとつ【雷】がアレン一人にその矛先を向けたことを意味していた。