アレンの傀儡①
〜〜〜
澄み切った青空。
そして日の光。
それを受け、アレンはそこに佇んでいた。
ジークが収納し、消失したはずの日の光。充満していたはずの闇の帳。それが、アレンがそこに現れただけで元の光景に戻り、平和な姿を晒す。
「ゆ、勇者様」
「やはり勇者様は我々の味方」
「……っ」
残った人々。
その者たちなアレンの背を見つめ、歓喜し、或いは涙ぐむ。
真紅に包まれた、アレンの身。
そこから漂う圧倒的なチカラのオーラ。
それに人々は手を合わせ、その場に膝をつく。
そんな人々を仰ぎ見、アレンは微笑む。
「後は俺に任せてください。皆さんははやくここから離れ、遠くのほうへ」
柔らかな笑み。
それをたたえ、人々へと声をかけたアレン。
その足元。
そこには、転がっている。
アレンにより屠られた闇に堕ちた者たちの亡骸。
それが、無数に。
その己が瞬殺したモノたち踏みつけ、アレンの表情はしかし一切変わらない。
「さぁ、はやく。いつまた、このゴミのような輩が現れるかわかりません。大聖堂を守り聖女に仕えるという使命。それを放棄し、闇に堕ちたこのゴミ共のような連中。それが、いつ」
微笑み、自分以外の人々に【転移】の意を示すアレン。
瞬間。
人々は真紅に包まれ、その場から消えていく。
「あ、ありがとうございます、勇者様」
「闇。闇からこの世界を救ってくだされ」
「わたしたちは最後まで勇者様を信じております」
そんな言葉を残し、結界の張られた王都へと一人残らず送られる人々。
その、人々の姿。
それが消えるまでアレンは微笑みを崩すことはない。
しかし、人々の姿が視界から消えた瞬間。
「さて、殺るか。金の為に」
吐き捨て、アレンはその顔から笑みを無くす。
視線の先。
そこに聳える、大聖堂。
その闇に染まった建物を見据え、その一歩を踏み出すアレン。
既に手は打っている。
レオナ。
かつてアレンも見たことがあった、女騎士。
騎士団として、その礼を受けたこともアレンはあった。
そのレオナを、アレンは利用した。
こちらに剣を向けたレオナ。
それに指を鳴らし、真紅の剣を突き刺しーー
"「あのゴミのところへ。向かえ」"
という命を下して。
本来ならレオナを消し、アレンはジークの憎悪を肥大化させるつもりだった。より一層、悪としてその存在を大きくしてやるつもりだった。
しかし、ジークはアレンの予想をいい意味で裏切ってくれた。
レオナの視界。
それを通じ見た、アレンの力。
"「収納する。レオナという存在を」"
「収納。聞いたことねぇ力だ。そのチカラで、俺の駒共を葬ったってわけか。いいぜ、ゴミ。てめぇのおかげで、俺は更に世界に必要とされる存在になった」
ジークに対する歪んだ感謝。
それを胸中で呟き、アレンは嗤う。
〜〜〜
そして、そのアレンの視線の先。
そこに、ジークは現れる。
漆黒に包まれ、ただその瞳にアレンに対する殺意のみを宿して。
そのジークの姿。
それをアレンは嗤う。
「来たか、ゴミ。待ってたんだろ、このオレを」
真紅のオーラ。
それを纏い、「その力。見せてみろ、ゴミ。このオレが価値を定めてやる」そう声を発し、ジークに手のひらをかざすアレン。
それに、ジークは呟く。
「収納する。奴の全耐性を」
「収納する。距離を」
刹那、アレンの眼前に現れるジーク。
そして、ジークはアレンに叩き込んだ。
アレンの反応。
それが示される前に、その【天賦の拳】を容赦なくアレンの顔面に叩き込む。
のけぞる、アレン。
それにジークは更に追い討ちをかける。
アレンの胸ぐら。
それを引き寄せ、その顔に手のひらを押し付けーー
「死ね」
【収納物】
神の手1→0
神の手。
それを取り出し天賦の手のひらに同化させ、躊躇いなくアレンの頭を握り潰したのであった。