聖なる地⑤
砕け散る、クリスの剣。
同時に後ずさる、クリス。
そのクリスに、ジークは手のひらをかざす。
そして呟いた。
「聖女の玩具」
それにクリスは叫ぶ。
「せッ、聖女様を愚弄するな!! 俺の前であのお方を愚弄するな!!」
「あのお方はッ、あのお方は!! 俺にーーッ」
マリアへの思い。
それを吐き出そうとする、クリス。
しかし、ジークに聞く耳等ない。
「収納する。お前の声を」
声を失い、クリスは目に涙を溜める。
そのクリスの眼前。
そこに三歩ほどで近づきーー
「お前の思い。んなもん、どうでもいい。俺は奴を殺す。ただ、それだけだ」
そう吐き捨て、軽くクリスの額を天賦の指で弾くジーク。
瞬間。
クリスの身体。
それが勢いよく、後方の壁に叩きつけられる。
血反吐を吐き、クリスはその場に崩れ落ちていく。
その様を見つめ、ジークは更に言葉を続けた。
「拳聖の力。天賦の肉体」
クリスの元。
そこに歩み寄る、ジーク。
「俺の力は、あらゆるモノを収納し自分のものとする」
"「あらゆるモノを、収納し。自分のモノとする」"
響いたジークの言葉。
それをなんとか立ち上がり、クリスは胸中で反芻する。
しかしその身は震え、もはや戦意などない。
「収納する。距離を」
三度、クリスの眼前に現れたジーク。
そしてその髪を掴み、ジークは光無き闇の双眸でクリスの目を見据える。
「ミえるか? てめぇに」
「俺の中に蠢く奴等の姿が」
【収納物】
世界中の魔物×∞
ルリとマリが喰われ続ける光景×1
崩れ落ち絶叫あげ再生を繰り返すゴウメイ×1
死の間際の断末魔×∞
………
……
…
ジークの瞳。
その奥に蠢くモノたち。
それに、クリスの精神が壊れていく。
"「かッ、神よ!! 聖女様!! 助けッ、このクリスを助けてください!! こッ、この化け物から!! このクリスを!!」"
口をパクパクさせ半狂乱になり、頭を抱え、ジークの眼差しから逃れようとするクリス。
しかし、ジークはその手を離さない。
「助けて欲しいか?」
「なら、希え」
【収納物】
神の手×1→0
ジークの背後。
そこに現れる、巨大な手。
それは紛れもなく、神の手のひら。
それに、クリスは願う。
心の底から、自分の救済を願った。
その胸中で、全ての思いをその贄として。
果たして、ジークはそれに応える。
「救済。俺からの救済」
「それはーー」
「てめぇが死ぬことだ」
目を見開く、クリス。
離される、ジークの手。
刹那。
ぐちゃッ
ごきぃッ
クリスの身体。
それが尋常ならざる力をもって壁に押し付けられ、肉片すらも残さず赤の染みとなってしまう。
そしてそこには、巨大な手形がくっきりと残り、まるで虫を潰したかのようになっていた。
それを見届け、ジークは踵を返す。
呼応し、神の手は再び収納されそこから消える。
足を前に進める、ジーク。
その意思の矛先。
それは既に、視線の先の扉の向こう。
そこ居る聖女に向けられていた。
〜〜〜
主祭壇。
そこに佇み、マリアは嗤う。
こちらに近づく、闇の気配。
それをその身に感じながら。
「ジーク。よくもまぁ、あのゴミクズがここまで」
響く声。
そこに慈愛などない。
あるのは、歪んだ思いのみ。
「まぁ、でも。ここでわたくしがあの負け組をブチ殺せば、世界は思いのまま。ふふふ。加えて、勇者様にひとつ貸しができますわ」
その声の余韻。
それを破るは、ジークの声。
「収納する。扉を」
マリアの視線の先の扉。
それが闇に包まれ消失し、ジークはそこに現れる。
ぺろりと唇を舐め、「ゴミ。ようやく、来たな」と呟き、獲物を見定めた獣のようにその眼光を鋭くするマリア。
マリアの身。
それを包む、金色の輝き。
それは、【神の裁き】を行使する聖女の力の具現化。
「来い、こいよ。さっさと、来い。ゴミ」
中指を立てる、マリア。
「いい気になるなよ、荷物持ち。てめぇはずっとゴミ。負け組。それは不変の理なのです。ご自身の理。それに抗ってはなりません」
汚い口調と綺麗な口調。
それを織り交ぜ、マリアはジークを小馬鹿にしたように拍手をし再び中指を立てた。
それに、ジークは呟く。
「収納する。その中指を」
途端。
立てられたマリアの中指。
それが闇に包まれ、消失。
同時に響く、マリアの悲鳴。
「ぎゃあああ!! 痛いッ、いだい!! ぐっくそ!! てめぇッ、なにをしやがったぁ!! このマリア様にぃッ、なにをしやがった!! 負け組ぃッ、なにをしやがったァ!!」
そんな悲鳴が響かせ、マリアはその顔に汗を滲ませる。