聖なる地③
「「めッ、メティス様!!」」
一斉に声をあげ、降り注ぐメティスの残滓に涙目になる特級治癒師たち。
きらきらと。鱗粉のように降り注ぐソレはメティスのなれの果て。大地さえも沈ませる拳の威力。その結果だった。
「くッ、くそ!! こうなった以上ッ、わたしたちの命も危ない!!」
「我らが聖女様やメティス様に従っていた理由ッ、それは神を信じれば死さえも超越すると教わっていたからだ!!」
「しッ、しかし!! このザマはなんだ。我らに教えを説いていたメティス様があっという間に旅立たれてしまったではないか!!」
「い、命乞いをするぞ。こ、こんなところで死ぬぐらいなら闇に降ったほうがマシだ」
口々に思いを吐き出し、右往左往する特級治癒師たち。
皆、既にジークに対する敵意はない。
あるのは、今まで信じていたモノが全て偽りだと知り絶望する者たちの姿だった。
「ジークさま」
「このモノたちは?」
特級治癒師たち。
その姿を目で追い、ジークに問いかけるレオナ。
「コロしますか? それとも」
刹那。
ずしりと、大気が重くなる。
それに、特級治癒師たちは目を見開き上を見る。
光が失われた空。
闇に包まれた、大聖堂の真上。
その仕草。
それにジークもまた視線を上に向けーー
吹き降ろす、突風。
それに髪を揺らしながら、呟いた。
「収納する。その身にかかる圧力を」
レオナの身。
それを咄嗟に抱き寄せ、ジークは力を行使。
刹那。
目に見えぬ、力。
それが空から振り下ろされる。
それはまるで巨大な手が虫を押しつぶすかのような、そんな感覚。
天上に住まうモノ。
それが天罰の意思を表明したかのようだった。
「まッ、マリア様!! おッ、お許しを!!」
「わッ、わたくしたちは貴女様の忠実なる僕!!」
「かッ、神への冒涜!! そ、そのようなお気持ちは一切ーー」
ございません!!
響かんとした、特級治癒師たちの声。
しかしそれを嘲笑うかのように、その力は彼等を押しつぶす。
「へぎぅ」
潰れた悲鳴。
それと共に、耳障りな音が響く。
べきッ
ぐちゃッ
骨が砕け、肉体が石畳の装飾となる位の高い特級治癒師たち。そしてそこには、巨大な手形がくっきりと残っていた。
「ひっ、ひぃぃぃ」
「死にたくないッ、死にたくないです!!」
「た、助けッ、お助けください!!」
叫び、残った地位の低い治癒師たち。
中には幼い身の者や女の姿もあった。
皆、我を忘れジークに縋り、泣き叫ぶ。
ジークの力。
それにより難を逃れた、聖騎士たち。
その者も皆、ジークの側に集まり、マリアの表明した【天上の裁き】に息を飲む。
三度、吹きつける突風。
それに、頭を抱え蹲る者たち。
レオナもまたジークに身を寄せ、「こわい。コワい」と呟き、天上を畏れる。
しかし、ジークに畏れはない。
ただ一人、闇に染まった空を見つめるジーク。
「マリア。舐めるなよ、この俺を」
呟き、ジークは迫る裁きに力を行使した。
その瞳に闇を纏い、神さえも恐れぬ殺意をもって。
「収納する。神の手を」
刹那。
風が轟く。
それはまるでナニカの悲鳴のように、世界を震わせる。
同時に降り注ぐ、雨。
それに身を濡らし、ジークは吐き捨てた。
「次は足をいくぞ」
それに、風が止み雨が収まる。
収まった、裁き。
それを感じ、ジークに縋った者たちは顔をあげ、ジークに感謝を述べていく。
「あ、ありがとうございます」
「あ、あ、あなた様こそ命の恩人」
だが、ジークはそれに応えることはない。
静かに視線を前に向け、「マリアを殺す」とだけ呟き、その足を前に進めるだけだった。
ただ無機質に。ただ、マリアに対する殺意のみをその瞳に宿しながら。