聖なる地②
神への信仰を糧に繁栄を築き、発展した聖なる地。
長年に渡り敬虔な信者たちが集い創り上げられた街並み。至るところに神への聖女への信仰を象徴する像が佇み、信仰の中心となったその場所。
そこが、今や。
暗闇の中、火の手があがる、景色。
轟く、闇に魅入られた聖騎士たちの声。
神など居ない。
聖女など殺してしまえ。
そんな声が響き、街は無慈悲に破壊されていく。
点在する神を崇める教会。
そこにも火が放たれ、その中から飛び出し逃げ惑う、信者たち。
皆の顔。
それは焦燥に満ちーー
泣き叫び、「神よッ、聖女様よ!! 我らを助けたまえ!!」と懇願する神官。そしてその周囲に両膝をつき、信者たちは助けを乞い続ける有様。
燃え上がる炎。
それにゆらゆらと照らされ、神と聖女へと。
声の限り、心からの叫びをあげながら。
その者たちに脇目も振らず、聖騎士たちは大聖堂へと殺到する。
闇の蠢く双眸。
その中に、聖女への殺意を宿しながら。
「出てこいッ、聖女!!」
「今までは神の存在を畏れッ、お前に従っていた!!」
「だがッ、今となっては神など恐るるに値しない!!」
神への信仰と、聖女への忠誠。
それを無くした、聖騎士たち。
そんな彼等に恐るモノはなにもない。
閉じられた頑丈な木製の巨扉。
それを打ち鳴らし、聖騎士たちは中へとなだれこまんとすふ。ある者は体当たりをし、またある者はその扉に剣を突き刺して。
その光景。
それを大聖堂の最上の窓から見下ろす、メティス。
その表情に宿るは、焦燥ではなく怒り。
「愚か者共め。闇に支配されよって」
「今のあやつらは聖騎士などではなく、ただの獣」
拳を固め、メティスは信仰と忠誠を失い闇に染まった聖騎士たちを蔑む。
そしてそのメティスの周囲には、同じく怒りに満ちた特級治癒師たちが佇んでいた。
老いも若きも。皆、メティスと同じ感情を抱き聖騎士たちを冷たく見下ろしている。
「だが、このメティスは慈悲深き心を持つ治癒師。おいそれと、奴等の命を奪いはしない」
そう声を響かせ、「奴等の心の闇、それを祓うのじゃ」と声を発し、窓を開け、聖騎士たちへと手のひらをかざすメティス。
倣い、他の治癒師たちも目の前の窓を開け彼等の闇を祓おうとした。
神級治癒師。
その力は、あらゆるモノを治癒する。
そして他の特級治癒師も、メティスには劣るがその治癒の力を持っていた。
目を見開き力を行使しようする、メティス。
「この闇も、このメティスが治癒してやろう。聖騎士共の心を治癒し……その後に、日の光。それを治癒してな」
刹那。
メティスは見た。
突如として、聖騎士たちの中に現れた二人の姿。
それをはっきりと。
燃え盛る炎の揺らめき。それに照らされ、男と女こちらを見つめ佇む。
剣先をメティスに向け壊れた笑みを浮かべる、レオナ。
そして。
千里眼を取り出し自身に付与しメティスを見つめ、手のひらをかざすジーク。
ジークは距離を収納し、レオナと共にそこに現れていた。
その二人の姿。
それに、メティスは焦燥し声を響かせた。
「みッ、皆の者!! 急ぎッ、聖騎士共の信仰と忠誠を治癒するのじゃ!!」
「このメティスは日の光をーーッ」
「収納する。あいつらと俺たちの距離を」
行使される、ジークの力。
瞬間。
メティス率いる治癒師たちとジークたちの距離。
それが収納され、メティスたちは外へと引きずりだされる。
目に見えぬ力。
それにより、有無を言わせずに。
「……っ」
聖騎士たちに囲まれ、先ほどまでの勢いを消失させるメティスたち。
しかし、メティスは更に叫ぶ。
ジークを見据え、怒りに任せーー
「舐めるなッ、舐めるな若造!! このメティスは長年ッ、聖女様に仕えし神級治癒師!! 貴様のようなッ、聖女様の勇者様の足を引っ張り続けッ、その代償として故郷を滅ぼされた輩とは次元が違うのじゃ!!」
「昨今の混沌ッ、それもお主がやったと聞く!! 魔王にでもなりたいのか!? このッ、若造が!! 魔王になったところで無駄じゃ!! ど。どうせお主はッ、勇者様と聖女様に敗れ去るだけなのじゃからな!!」
青筋。
それを額に浮かべながら。
ジークはしかし、表情を変えない。
ただ静かに、「収納する。お前たちの力を」と声をこぼし力を収納するジーク。
【収納物】
あらゆるモノを治癒する力
そして、拳を固めメティスの元に歩み寄るジーク。
訳のわからぬ喚き。
それを散らし、メティスはその場で唾を飛ばし続ける。
メティスの眼前。
そこに辿り着き、ジークはメティスの胸ぐらを掴む。
なおも。
「わッ、若造!! ここでこのメティスに媚を売れ!! さすれば、聖女様に口聞きしてやらんこともない!! まッ、まだ!! 死にたくはないであろう!!」
メティスは声を響さんとした。
だが、それをジークは遮る。
「死ね、ゴミ」
そう吐き捨て、天賦の拳をその皺だらけの顔に叩き込んだのであった。