聖なる地①
降り注ぐ、聖騎士たちの残滓。
それをその身で受け、ジークは呟く。
「収納する。このクレーターを」
闇に包まれ、消失するクレーター。
そしてジークは何事もなかったかのように先へと進む。
聖騎士等、はじめから居なかった。
そんな表情で。淡々と。
そんなジークの側。
そこにある程度の距離を置き、レオナもまたジークに続き後を追う。
壊れた、レオナ。そこに宿るのは、ジークに対する忠誠のみ。その他の感情は一切ない。
進む、二人の姿。
その周囲に馴染むは、深淵の闇。
冷たく、ジークの意に応える【万物収納】の力の宿った無機質な闇。
それだけが、ただそこに広がっていた。
〜〜〜
「メイリン様の街に向かった、聖騎士たち。その反応が一瞬にして消失。他の聖騎士たちに現場への直行指示。しかし、間に合うとは思えません」
大聖堂。
その中にある、指揮室。
そこに、知的な声が響く。
そしてその声を聞き、椅子に座る団長は声を発した。
側に佇む、女エルフ。その姿を見上げながら。
「メリル」
「はい、団長様」
純白のローブ。
それを纏った緑髪のエルフ【メリル】。
その手には仄かに輝く小さな水晶玉を持ち、いくつもの小さな光が浮かんでいる。
そしてその光は、派遣された聖騎士たちの魂の輝きでもあった。
「此度の敵。その者はーー」
「必ず殺してください。我が同胞を無惨に弄んだ輩。ゴミクズ。生きる価値のない負け組。その皮を剥ぎ八つ裂きにしてもなお、わたしの怒りは収まることはないでしょう」
殺意にこもった声。
それを漏らし、怒りで唇を震わせるメリル。
「死ね。死ね。死ね」
「ゴミクズ。そんな歪んだ性格だから、勇者様に故郷を滅ぼされたと気づけ。ゴミ。ゴミクズ」
ジークに対する憤怒。
口汚くそれを吐き出し、メリルは爪を噛む。
そんなメリルを、クリスは諭す。
「落ち着け、メリル。ジーク。あの者は必ず、我らが亡き者にする。マリア様のご意向。それを叶える為に」
「はい。はい。そうしてください。必ずそうしてください。ゴミクズの始末。それを徹底的に」
クリスの言葉。
それに何度も頷き、爪を噛み続けるメリル。
その姿。
そこには、純血高貴なエルフの面影など欠片もなかった。
〜〜〜
舗装された石畳。
そして、両脇に立ち並ぶ歴代聖女の銀の像。
その聖なる地へと続く巨大な一本道に、ジークとレオナは辿り着いていた。
日は既に高くのぼり、日中。
そしてそれは、最も聖女の力が高まる時間でもあった。
普段なら信者たちの往来で賑わうその通り。
しかし、今は閑散としていた。
代わりに広がっていたのは、厳戒態勢という名の光景。
聖女の加護。
それを受け、大聖堂を守る者たちの戦列が幾重にも道の先に広がり、まるで戦争の様相を呈していた。
「ジークさま」
「……」
レオナの声。
それに答えず、ジークは軍勢に手のひらをかざす。
そして呟いた。
「収納する。マリアに対する信仰心を。そして、神に対する忠誠を」
途端。
軍勢たちの心に闇が広がる。
そして、声が轟いた。
「敵は大聖堂の中だ!!」
「一人残らずぶち殺せ!!」
「聖女も例外ではない!!」
「大聖堂こそ諸悪の根源!! 神? クソ喰らえだ!!」
全ての軍勢。
それが踵を返し、大聖堂へとその矛先を向ける。
それに呼応し、ジークもまたさらに力を行使した。
「収納する。大聖堂に降り注ぐ陽の光を」
こうして大聖堂周囲は闇に閉ざされ、一方的なジークの蹂躙が幕をあけたのであった。