聖騎士②
「ジークさま。つぎ、次はどちらへ?」
何事もなかったかのように、行き交う人々。
それを目で追いつつ、レオナはジークへと問いかける。
その問い。
それにジークは答えた。
「聖なる地」
「マリアを殺しにそこに向かう」
短く。
それでいて明確な殺意の宿ったジークの言葉。
「聖女。そいつはココネ、ガルーダ、ゴウメイに一目置かれていた存在。神の加護を受け、勇者に並ぶ信仰対象として多くの人々に崇められし者」
「アガめられしもの」
ジークの声。
それを反芻し、空を見上げたレオナ。
空は青く。どこまでも透き通っている。
その青を見据え、レオナは更に続けた。
「ジークさまも。アがめられるべき。レオナを、助けてくれた。から」
響く、そんなレオナの声。
ジークはそれに反応を示さず、同じく空を見つめ淡々と呟いた。
「俺は、俺だ。誰かにとっての俺じゃない。ただ、俺はーー奴等を根絶やしする。それだけだ」
呼応し、ジークの目に蠢く闇。
同時に陽の光を遮るように握りしめられる、ジークの手のひら。
倣い、ジークの足元に闇が広がり、その意思を悦ぶ深淵の闇。
そんな、闇を纏いしジークの姿。
それをレオナは、「はい、ハイ。その通りです」と呟き、自身もまた、その手を掲げ陽の光を握りしめたであった。
〜〜〜
大聖堂の地下。
そこに存在する異端断罪の間。牢獄が円形に並びあらゆる罪人が揃ったその場所には、日の光が一切届かない。
そして、その場所には幾人もの異端者と罪人たちが【神を愚弄した罪】により幽閉されていた。
「出せッ、俺たちはなにもしていない!!」
「こんなことをしてなにが聖女だッ、ふざけるのも大概にしろ!!」
「此度の聖女は聖女じゃなくただの悪魔だ!!」
「お前もだッ、このクソ女!! いっつもそこで楽しそうに鼻歌を囀りやがって!!」
轟く怨嗟の声。
それを瞼を閉じ聞くのは、一人の女。
円形に広がる牢獄。
その真ん中に置かれた、椅子。
そこに一人座り、その女は「マリア様は聖女様。聖女様はマリア様。神様はマリア様。マリア様は神様」と呟き、鼻歌を囀っていた。
漆黒のドレスに、闇色の髪。
生気を感じさせない真っ白な肌に、色を無くした虚な瞳。
見る者が見れば、人形だと勘違いしてしまいそうな人間味のない容貌と体躯。
「わたしは、ルーシア。マリア様のルーシアさん。なんでも壊す、なんでも壊す。悪魔さん」
人々の負の感情。
それを受けルーシアはその力を増す。
勇者に敗れ、そしてマリアの管轄する大聖堂の地下に幽閉されたルーシア。
しかし、マリアはそれを利用。
甘い言葉でルーシアに取り入り、いつかアレンにルーシアを指し向ける為、力を与え続けていた。
人々の怨嗟の感情。
それをルーシアに向けさせ続けることによって。
「ルーシアはマリア様の。ルーシアは、ルーシアは」
そこで、ふと。
ルーシアは、感じる。
「ナニか来る。なにか、来る。闇。深淵の闇。ソレが来る」
椅子から立ち上がり、こちらへと迫る闇を感じるルーシア。
そして興奮し、ルーシアは近くにあった牢に駆け寄り腕を差し入れる。
刹那。
「ぎゃああぁッ」
ぐしゃッ
ルーシアに頭を掴まれ、握りつぶされる囚人。
その血飛沫を受け、ルーシアは嗤う。
その嗤い声。
それは、悪魔の本能そのものだった。
〜〜〜
マリアの命。
それを受け、各地へと進軍を開始した聖騎士。
目的はたった一人の男の抹殺。
そしてその中の一部。
メイリンの街に向かっていた聖騎士たちは、その道中、遭遇してしまう。
「そこの者ッ、止まれ!!」
響く、偉そうな声。
それは自分たち聖騎士は、他の者とは一線を画しているといわんばかりの態度の現れ。
「そのフードを脱げ!!」
「見たところッ、マリア様より伝わった姿!! それによく似ている!!」
「逆らうと断罪だ!! 神を愚弄した罪でな!!」
剣を抜き、ジークとレオナに刃先を向ける聖騎士たち。
しかしジークは声を発さない。
それに、聖騎士たちは苛立つ。
そして。
「おいッ、返事をしろ!!」
そう叫び、先頭の一人がジークのフードを取ったーー
瞬間。
「収納する。お前の首を」
呟かれる、言葉。
そして、その場は一瞬にして血の海と化す。