阻む者③
響いた、ジークの言葉。
それをメイリンは笑う。
「そんなことデキるの? 収納? ふふふ。ソレが君の力の名前なんだネ」
余裕に満ちた表情。
それを晒し、一歩二歩と後ろに下がるメイリン。
そして月を見上げ、楽しそうに声を溢す。
「ワタシは勇者にだって負けない。勇者にも負けないワタシを君が倒す? できっこ」
ないよね。
瞬間。
レオナの身。
それが闇に包まれ、ジークの内に収納される。
そしてジーク自身もまた、己の闇に同化し己の内に収納されていく。
【収納物】という名の空間。
その中に。【メイリンを見た全てのモノ】の言葉に含まれ例外なく。
【収納物】
メイリンを見た者×1539995
レオナ×1
メイリン×1
ジーク×1
〜〜〜
王城の長い廊下。
そこを悠々と進む、勇者。
鼻歌を囀り、自身の身から【神の抱擁】という名のオーラをたぎらせながら。
窓から差し込む、月光。
それに足を止め、アレンは窓の外を見つめる。
月明かりに照らされた、アレンの顔。
黒の髪に、青の瞳。整い、見る者全ての者を魅了せし容貌がそこにはあった。
そしてそこに宿るは、最強の自分に対する自尊と悪意に満ちた笑み。
世界は俺の為に存在している。
この世界に自分より上など存在しない。
魔王無き今。それは盤石なもの。
"「楽勝すぎだろ、俺の人生」"
刹那。
アレンの足元に広がる闇。
それは、ジークの収納がもたらしたアレンへの影響。
メイリンを見たモノ。
そこに、アレンが含まれていた結果だった。
それを見下ろし、しかしアレンは鼻で笑う。
そしてその闇に、「失せろ、闇。俺のモノに手を出すな」と吐き捨て"言葉"だけでアレンは闇を霧散させる。
王都に居る者。そして、ジュリアとイライザ。
それに伸びたジークの闇。
それらも全て、アレンの先の一言で全て霧散。
そして三度、アレンは歩き出す。
何事もなかったかのように、「あのゴミの仕業か? 闇?」と呟き、再び鼻歌を囀りながら。
〜〜〜
殺風景な空間。
色も無く、無限に広がる白の世界。
そこに、メイリンは元の姿に戻され佇んでいた。
周囲を見渡し、匂いを嗅ぎーー
「匂いもない。なにもない。ここは一体どこかな?」
野生を思わせる状況観察。
それをし、メイリンはいつものように頭の後ろに手を組み、飄々としている。
メイリンの後ろ。
そこには、メイリンに一度肉体と精神を支配され倒れ伏したレオナの姿もあった。
「コレがさっき言ってた収納の力ってやつ? はははっ。すごいな。ますます」
背後に感じる、ナニカの気配。
それに口角をあげ、「わたしは、君が欲しくなっちゃった」そう、メイリンは声を響かせる。
刹那。
「……」
闇を纏い、ジークはそこに現れる。
それを仰ぎ見、微笑むメイリン。
「ねぇ、君。その力のこと、わたし知りたい」
身体を反転させ、メイリンはジークと相対する。
天賦の肉体。それが為しえる所業。
それは、意識の先読み。
ジークが脳で考え力を行使する前に、
「わたしは君の意識を超える」
姿を消し。ジークが力の行使を意識する前にメイリンはジークの眼前に現れる。
光の速さ。それさえも凌駕して。
「これ。さっきのお返し」
と微笑み、ジークの顔面にお返しとばかりに拳を叩き込もうとするメイリン。
だが、それをジークは受け止める。
そして、呟いた。
「収納物」
「お前はココではただの"物"に過ぎない」
「この空間。ここでは俺は」
ゴキッ
「収納物を取り出す者」
物が壊れるように、メイリンの拳が砕かれる。
ジークが軽くその拳を握りしめただけで。いとも簡単に。
取り出す者ーージーク。
【収納物】
その空間でジークに抗える者など、誰一人として存在しない。