阻む者①
ゴウメイの姿。
それが消失したことを確認し、ジークは虫の息になった少年少女たちを見つめる。
痛々しい姿。中には既に息絶え、ぴくりとも動かない者も居た。
それに、ジークは手のひらをかざす。
そして、力を行使した。
【収納物】
範囲治癒×1000
それを取り出し、子どもたちに治癒を施すジーク。
白い光。それに包まれ、癒されていく子どもたち。
そしてその眩い光の中、レオナはジークの側へと帰還を果たす。
それは、時間が元に戻り本来居るべきところにレオナが戻された結果だった。
「ジーク、さま。ナニを?」
「……」
レオナに答えない、ジーク。
しかしその頬には確かに一筋の涙が伝っている。
"「ジークっ。これ、つくったの。このお花のおおかん。ソフィがつくったんだよ」"
"「ソフィちゃん、じょうず」"
"「ぼくもつくる!!」"
ロッカスの屋敷。
そこで刹那に思い出した、故郷での記憶。
それが滲み、ジークの視界が潤んでいく。
そのジークの姿。
それにレオナもまた、子どもたちの側へと歩み寄っていく。
そして、ゴウメイに投げられ壁に激突し冷たくなった少女の前で膝をつき、「子ども。こども」と呟き、優しくその頬を撫でたのであった。
〜〜〜
痛い。
痛い。
締められる、自分の首。
それにジュリアは懸命に抗う。
しかしその力は強く、憎悪に満ちた殺意が宿り決してジュリアの首から離れることはない。
意識が遠のき、死を悟った瞬間。
ジュリアは見た。
闇に埋もれた双眸でこちらを見つめる、ジークの顔。
それをはっきりと。
「!?」
夢から覚め、ジュリアは瞳を潤ませる。
「ま、またあの夢。じ、ジークがわたしを殺す夢」
震え声を発し、豪奢な天蓋付きのベッドから身を起こすジュリア。
その身は汗でびっしょりと濡れ、その顔は恐怖で引き攣っていた。
頭を抱え、しかしジュリアは自分へと言い聞かせる。
「だ、大丈夫。わ、わたしにはアレンがついている。そそそ。そうよ。勇者様がついている。あ。あんな負け組に、わたしが殺される? ない。ない。そんなの、あり得ない」
呟き、嗤うジュリア。
「ジーク。あ、貴方はずっと負け組。わたしは、ずっと勝ち組。ふふふ。は、ははは」
その嗤い声。
それはどこまでも歪みきっていた。
〜〜〜
王都。
王城の中の一室。
そこに、アレンはイライザと共に佇んでる。
王からの言葉。
「城の。わ、我のすぐ近くで待機しておれ」
という言葉に従って。
「勇者様」
「ん?」
「聖女様が、お話があるそうです。たった今、念話が」
自身の額。
そこに手を当て、イライザはアレンに声をかける。
「マリアが? 俺に?」
「えぇ。なにか思い詰めたご様子で」
「は? 思い詰めた様子? あのマリアがか? 精神だけは図太いあの聖女様が思い詰めるわけねぇだろ。世界を救った後の取り分。それを巡ってこの俺に楯突いた女だぞ? お話が違います。とか言い放って」
聖なる金色のオーラ。
それを纏い慈悲深き笑顔で人々を導いていた、マリア。
しかしそれは表の顔。
人々の前以外ではーー
「怠いって。なにがご慈悲をわたしたちにも、よ。この力はあんたらのモノじゃないっての」
と吐き捨て、マリアは悪態をついていた。
そんなマリアが思い詰める。
アレンはそれを信じない。
「いいぜ、マリアにつなげ。念話回路を俺につなげろ」
「かしこまりました」
瞬間。
"「アレン様。わたしは心配なのです」"
アレンの脳内に流れ込む、マリアの声。
それにアレンは答える。
"「なにがだ?」"
"「ココネと、ガルーダ。その死により、貴方様だけに富が集中するのが。ここでゴウメイまでも死んでしまったら……くそっ。アレン様がお一人で富を独占するやもしれません」"
"「そこで、です。アレン様」"
声のトーン。
それを変え、マリアは続ける。
"「わたしがあのゴミクズ【ジーク】を始末した暁には、富を8割わたしに。そういただけたら、あのゴミをすぐにでも始末いたします」"
それにアレンは嗤う。
そしてーー
"「いいぜ。俺の手を煩わせてくれねぇってなら、8割どころか富を全てやる」"
"「流石、勇者様。お話がはやい」"
交わされる、二人の念話。
そこには悪意という名の感情がはっきりと宿っていた。
〜〜〜
ゴウメイの始末。
それを終え、ジークとレオナは外に出る。
時は既に夜更け。
周囲に人影はない。
だが、その二人を待ち受けていたのは、銀髪の女拳聖だった。
「あのさ、ここはわたしの街なの。なに勝手な真似してくれちゃってるの? 拳聖がたった一人で? って顔してるね。わたし夜行性で一人でぶらぶらするのが好きなんだ」
「それに、ん? 君、ジーク? アレンのパーティーの荷物持ち君だよね? ご愁傷様〜〜。君の故郷。アレンの意で壊滅しちゃったらしいじゃん」
頭の後ろ。
そこで手を組み、メイリンは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
中性的な童顔。猫目。
しかしその体つきは生まれ持っての才に磨かれ、すらりと引き締まっていった。
「あの時の村の壊滅。その時、わたしも参加したんだ。あー……楽しかった。誰のお咎めも無しで、弱者を痛ぶれる。最高の体験だったよ」
呼応し、姿勢を低くするメイリン。
「だから、さ。君もわたしと」
「収納する。俺とお前の距離を」
瞬間。
メイリンの眼前。
そこにジークは現れる。
風を置き去りに、距離を収納して。