横流しの代償③
返り血で身を染め、二人は屋敷にたどり着く。
本来なら、ノックをし出迎えを受けるのが普通。
しかし、二人は壊れている。
足を止めることさえ、ジークは煩う。
「収納する。扉を」
歩きながら呟き、扉を収納したジーク。
収納され、扉は消滅する。
そしてそのまま、ジークとレオナは屋敷の中に入る。
瞬間。
「なに奴!?」
「侵入者かッ、ノックもせずになんの用だ!!」
「無礼者め!!」
「今すぐつまみだせ!!」
「礼儀がなってないわね!!」
そんな怒声が響き、先ほどの柄の悪い傭兵とは違うロッカスの護衛の者たちが血相を変えて飛び出してくる。
皆、腕に覚えのある冒険家。或いは騎士だった者。
魔法を使える者も居れば、剣術に長けた者。
武術に長けた者や、治癒に長けた者も居る。
装備も充実し、皆、それなりの身なりをしていた。
その者たちを見渡し、ジークは問う。
無機質な声音。それをもって、淡々と。
「ロッカスをどこだ?」
「なにを言っている!! 今すぐ出て行け!!」
「まだ死にたくはないよね? だったら早くッ、回れ右しなさい!!」
剣を抜く者。拳を鳴らす者。ジークとレオナに手のひらをかざす者。
全員自分の実力を疑わず、ジークとレオナをただの侵入者と決めつけていた。
しかし、ジークは動じない。
「ロッカスはどこだ?」
三度声を響かせ、ジークはその足を一歩前に踏み出す。
それに護衛の一人は、「話の通じぬ奴だ!!」と叫びジークへ殴りかかろうと前へと身を乗り出す。
刹那。
「収納する。お前の右腕を」
染み渡る、ジークの声。
倣い、振りかぶられた男の右腕が消滅。
血が吹き出し、男は自らの血でその身を染めていく。
「うっ、うわぁぁぁ!!」
「収納する。お前の左腕を」
闇に包まれ、消滅する左腕。
男は両腕を無くし、「助けてッ、助けて!!」と叫び身体を反転させ、その場から忌避を図ろうとした。
だが、ジークはそれさえも許さない。
「収納する。お前の肺を」
「う……ぐっ」
呼吸ができず、その場に倒れる男。
窒息し、男はじたばたともがく。
それを見つめ、先ほどまで威勢に満ちていた者たちはその手から武器を離していく。
ぽたぽたと汗を滴らせ、その顔面を蒼白しながら。
その者たちに、ジークは三度問う。
「ロッカスはどこだ?」
視線を前に向けたまま、先程と同じ声音をもって。
呼応し、レオナは剣を抜く。
そして壊れた笑顔で、周囲を見渡す。
答えなければ次は自分の番。
そんな雰囲気を醸し、口の中の眼球をぺっと吐き出して。
転がる、眼球。
その眼差しを受け、護衛たちは恐れに満ち声を張り上げていく。
「ロっ、ロッカスは一番上の階に居る!!」
「そッ、そうよ!! 一番上の一番端ッ、一番大きくて装飾が豪華な扉の先に居るわ!!」
「たッ、頼む!! 命だけはッ、命だけは助けてくれ!!」
そんな心の底からの叫び。
それを聞き、ジークは上へと視線を向ける。
無言で。無機質に。
それに、護衛たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ去っていく。
自尊心や誇り。それらを全て捨て去って。
そしてその中には、失禁して泣き叫ぶ者さえ居たのであった。
〜〜〜
「なんだか騒がしいな。なにかあったのか?」
騒がしい階下。
それに眉根をひそめ、ロッカスは側に佇む秘書に声を投げかける。
窓際を背に置かれた豪奢なソファー。
そこに両足を広げて座り、ロッカスは偉そうな態度を晒していた。
「今すぐ確認を。どうせまた、金をせびる貧困領民共の押しかけでしょう」
ロッカスの問い。
それにそう返し、執事服に身を包んだアリアは足早に真正面の扉のほうへと駆け寄っていく。
部屋にはロッカスとアリアの二人だけ。
ゴウメイは既に屋敷を去っていた。
扉に駆け寄る、アリア。
そしてアリアが扉を開いた、瞬間。
ぐちゃッ
間髪入れずレオナの剣が突き出され、アリアの胸を貫く。
口から血を吹き出し、瞳から光を無くすアリア。
抜かれる、剣。
同時に膝から崩れ落ち、アリアはその場に倒れ伏せる。
目を見開き、立ち上がるロッカス。
果たしてそのロッカスの視線の先。
そこにはーー
「居た。イた。殺す」
「……」
頬についた返り血。
それを手で伸ばし嗤うレオナと、冷たい殺気を漂わせるジーク。
その壊れた二人の姿があった。
「き、君たちは一体」
何者だ。
そう言おうとする、ロッカス。
だが、ジークはそれさえも許さない。
「収納する。お前の口を」