横流しの代償②
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ココネとガルーダの死。
そして、ディアナの屋敷と一つの街の消滅。
加えて、レオナ率いる騎士団の消息不明。
短期間の内に立て続けに起こった、それらの事象。
それらを城から駆け付けた伝令から聞き、しかしアレンは笑うばかり。
「随分と色んなことが起こったもんだ。この調子だと、ゴウメイとマリアもあの負け組にヤラれちまうかもな」
窓際。
そこで呟き、変わらぬ日常を過ごす街並みを見つめるアレン。
王都はアレンの施した結界に守られ、物騒な出来事とは距離を置いている。
「勇者様」
アレンの背。
それを見つめ、ココネの代わりに新たに仲間に加わった女賢者は問いをなげかける。
薄縁眼鏡に、知的なオーラ。
その身を漆黒のローブに包み、漂う魔力はココネを遥かに凌駕していた。
「何故、この地にだけ結界を?」
「そりゃ、簡単なことだ」
鼻で笑い。
イライザを仰ぎ見、アレンは答える。
「頼まれたからだ、王に。この地だけは平和を保ってくれってな」
「左様でございますか」
頷く、イライザ。
そのイライザにアレンは更に言葉を続けた。
「まっ、俺もそこまで悪魔じゃねぇ。王に言ったさ。この力は有限。それ相応の報酬をくださいってな。魔王を倒すまでは慈善活動。そっから先は、金が発生する」
「素晴らしい、お考え。強者は弱者を守るべきという思考停止な風潮。それはわたしも好きではありませんので」
笑う、イライザ。
それにアレンはもまた笑う。
「あのゴミが平和を乱せば乱す程、世界は俺を求める。そうすりゃ金は無尽蔵ってわけだ。加えて、俺はあのゴミ屑にぜってぇ負けねぇ。何故かって? そりゃ、俺は無限の力を生み出せる勇者様だからな」
「流石、勇者様」
パチパチと響く、イライザの拍手。
それを聞き、アレンは前に向き直る、
そして、胸中で呟く。
「負け組。もっと、暴れろ。俺の為に、な」
と。
〜〜〜
ロッカスの屋敷。
そこへと続く、両脇を森林に囲まれた砂利道。
その先に聳える、古びた屋敷。
それを見据え、ジークは歩みを進める。
そしてジークの後ろには、甲冑の上にローブを纏ったレオナの姿があった。
っと、そこに。
「止まれッ、そこの者!!」
「ここから先はロッカス様の領地!! 通行書無き者はの立ち入りは禁止されている!!」
「近頃物騒なことが多い!! その為の措置だ!!」
「ここは女連れの来るところではない!! とっとと立ち去れ!!」
響く、野太い声。
同時にジークの視界の両脇から、大人数の柄の悪い男たちが現れる。
彼等は、ロッカスに雇われた傭兵。その手には既に、それぞれの武器が握られていた。
足を止める、ジーク。
それに男たちはーー
「よし、いい子だ」
「女を置いていけ」
「金目のモンも渡せ」
「ついでにそこで土下座しろ」
「そうすりゃ、命だけは助けてやる」
と笑い、ジークへと手を伸ばそうとした。
刹那。
剣を抜き、レオナは斬りかかる。
一番前に居た、男。
その薄ら笑いを浮かべていた男に対し、容赦無く。
「えっ?」
と呆けた表情を晒し、レオナに切り伏せられた男。
そしてそのまま足で踏みつけられ、男はぐちゃッぐちゃッと剣を突き立てられ続ける。
飛び散る鮮血。
響く、絶叫とレオナの狂笑。
それに残った男たちは後退りをはじめる。
顔を青ざめさせ、汗を滲ませながら。
その男たちに、ジークは手のひらをかざす。
そして呟いた。
「収納する。お前らの心臓を」
途端。
男たちはその場に崩れ、絶命。
その死体をゴミのように踏みつけ、ジークは無表情で前へと進む。
ジークに良心はない。
あるのは、視線の先に聳える屋敷の持ち主とソレとつながる武闘家に対する殺意のみ。
「これ、おいしい。コレ、おいしい」
男からくり抜いた目玉。
それを飴玉のように口に含み、壊れたレオナは笑う。
そんな、壊れた二人。
その二人が屋敷に向かうのを止める者。それは、もう誰一人として残っていなかった。