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魔物使い④

「ねーっ、お兄ちゃん。あの人、なにをしてるの?」


ジークの仕草。

それが意味することを理解できず、小首を傾げるルリ。


「もしかしてこのダークドラゴンにビビっちゃったのかな? そうだよねっ、そうだよねっ。きっとそうだよ。ふふふっ。怖いなら怖いって言えばいいのに」


一人納得し、ルリはジークを嘲る。

しかし、そこでルリは疑問を抱く。


「それにしても、お兄ちゃん」


周囲を見渡しーー


「魔物たち、こないね。いつもならすぐに駆けつけてきてくれるのに」


魔物誘引×∞


それを使ったにも関わらず、一向に現れない魔物たち。

その現実。

それに、ルリはマリの袖を引っ張り問いを投げかける。


「ねぇ、お兄ちゃん。どうしてか、知ってる? 魔物のみんなっ。調子が悪いのかな? お兄ちゃんの可愛がってた、ケルベロス。その子も、来てないし」


その無邪気な問い。

マリはそれに、焦りを悟られないように答えた。


「う、うん。魔物のみんな、調子が悪いみたいだ。だ、だから。今は、こ、このダークドラゴンだけであの人間の相手をしよう」


マリには、わかっていた。

こちらを見据える、ジークの姿。

その背から漂う、漆黒の闇。

その中に無限に等しい魔物たちの気配が蠢いていることを。


そしてそれは、ダークドラゴンも同じだった。


世界中の魔物の蠢き。

それをジークの中に見定め、ジークから少しでも距離を置こうとするダークドラゴン。

先程までの勢い。それを完全に喪失させて。


「る、ルリ。こ、ここは一回、違うことをして遊ぼう」


「えーっ、やだ。だって、あの人。わたしたちこと舐めてるもんっ」


兄の言葉。

それに拗ね、ふくれっ面を晒すルリ。


「あれー? もしかして、お兄ちゃん。あのこわがりさんに怯えてるの? 臆病だねっ、お兄ちゃん」


「お、怯える? こ、このぼくがかい? そそそ。そんなことーー」


ありえない。


そう響かんとした、声。

しかし、それを遮ったのはジークの殺気に満ちた意思の表明。


「出てこい」


【収納物】

 世界中の魔物×∞


その中から、ジークは取り出す。


ワイバーン×300

フェアリー×200

スライム×150

ケルベロス×35

サラマンダー×30

スケルトン×100

ゴブリン×250


ジークの足元。

そこに広がる、闇。

そこから、収納されし魔物たちはその姿を現す。


「わーっ、すごい。あの人も魔物を呼べるんだ」


能天気なルリ。

しかし、その能天気さとは対照的にマリは唇を震わせ顔を真っ青にする。


「に、逃げろ。逃げるんだッ、ダークドラゴン!!」


「グァォォン!!」


マリの命。

それに応え、ダークドラゴンはその場から飛び去ろうとした。


だが、ジークはそれすらも許さない。


「収納する。魔物誘引を」


【収納物】

 魔物誘引×∞


ルリとマリの力。

それを収納し、ジークはそれを取り出し使用する。


刹那。


ダークドラゴンはルリとマリを見放し、頭の上から振り払わんとした。

激しく羽ばたき、旋回し、まるで自分に付着したゴミを捨て去らんとするかのように。


「おッ、お兄ちゃん!!」


「くッ、くそ!!」


いとも簡単に振り落とされ、地へと落下する二人。

しかし幸いにも、二人は無傷だった。


だが、それは二人にとって最悪の幕開け。


「クソ餓鬼が二匹」


眼前でこちらを見下ろす、ジーク。

そして周囲を取り囲む、魔物の群れ。

加えて、ジークの側には血を滴らせ壊れた笑みを浮かべるレオナの姿。


「ひっ、ひぃ」


「……っ」


互いに抱き合い、ルリとマリは涙目を晒す。

その姿。それは、天敵に囲まれた被捕食者そのもの。

そんな二人は、しかし悪びれることはない。


「な、なにをそんなに怒ってるのっ? わ、わたしたちはなにもしてない。た、ただ餌を与えただけだもんっ」


「そ、そうだ。か、かわいいペットに美味しい餌を与えたい。そう思うのは飼い主として当然のことだろ!! む、むしろ感謝してほしいくらいだ。餌になった村人たちにはね!! ぼ、ぼくたちのぺ、ペットたちの餌。そそそ。それになれたことを」


「……」


「ほ、ほら。なにも言えないじゃないか。なにか言いたいことがあるならーー」


「なら、てめぇらも餌になれ。新鮮な生き餌に」


吐き捨て、ジークは行使する。


「収納する、お前らの死を」


漆黒に包まれ不死身になる、二人。

そして更に、ジークは行使した。


魔物誘引×∞


を取り出し、魔物たちを見渡し「餌の時間だ」と声を響かせる。


瞬間。


魔物の群れは一斉にルリとマリに襲いかかる。

絶叫する、二人。

しかし二人は死なない。


加えて。


【収納物】

範囲治癒×2


ジークはそれを取り出し、二人に施す。


その結果。

二人は食われる度に再生を繰り返し、喰われ続けることしかできなくなってしまう。


「ころしてッ、ごろしてください!! あぐぃッ」


「ぃダァいッ、しにたいッ、じにたい!!」


そんな叫び。

それを響かせながら。

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