魔物使い③
赤と青の幼い二人組。
それが、このダークウルフたちの親玉。
であるなら、慈悲をかける必要などない。
千里眼にうつる、疾走するダークウルフの姿。
速度は速く、既にこの場所から随分離れたところへとその身を置いていた。
時間にして、数分。
ジークは瞼を開ける。
ダークウルフの進行方向。
その先へと千里眼を向け、ジークはダークウルフの目的地を特定した。
辺境の村。
そこはかつて、ジークが訪れた村だった。
そこにたどりつく、ダークウルフ。
安心しきり、その場に立ち止まった瞬間。
それは、起こる。
「収納する。俺と村との距離を」
行使される、力。
途端、空間が歪み辺境の村はジークの居る場所のすぐ側に現れる。
「!?」
逃げたはずの場所。
そこにダークウルフは戻され、焦燥する。
加えて、自分の真後ろに感じるジークの気配。
身を震わせ、仰ぎ見。
そして、再びダークウルフが逃げようとーー
「収納する。お前の心臓を」
「……っ」
たった一言。
それのみで目から光を無くし、その場で絶命する最後のダークウルフ。
そのダークウルフを踏み締め、ジークは見渡す。
赤と青。
その魔物使いの色を探した。
っと、そこに。
「ジーク、じーく様」
聞き覚えのある声が響き、レオナがジークの視線の先に現れる。
「また、お会いデキました。うれしい、うれしい」
壊れた笑み。
それを浮かべ、ふらつきながらジークの元に近づいてくるレオナ。
その姿に、ジークは問う。
「なにがあった?」
「いいえ、ナニも」
レオナは微笑む。
「でも、少し。オかしいんです。ナンだか、ちょっと。オかしくて」
レオナが歩く度、ぽたぽと滴る血。
しかし、レオナの表情は崩れない。
ただ笑い。ただ、ジークの元へと近づこうとしている。
「ジークさま。ミて。いただけませんか? わたしのカラダ。どこか、オかしいですか?」
「ジークさま。ジーク、さま」
目を逸らさない、ジーク。
ジークの目。
そこにはうつっていた。
レオナの腹部。
そこが鎧ごと食いちぎられ、内臓が漏れ出しているのがはっきりと。
「ワタシは。レオナ。誇り高き、キシ団の、レオナ」
染み渡る、レオナの声。
そこに生気はない。
あるのは、消えかけの弱々しい感情のみ。
そのレオナの姿。
それに、ジークは手のひらをかざす。
「収納する。お前の死を」
瞬間。
レオナは闇に包まれ、死という概念を無くす。
しかし、傷口は塞がらず血は止まることはない。
「ありがとうございます。ジーク。じーく、さま」
微笑み、ジークに手のひらを伸ばすレオナ。
しかしその頭上。
そこに、ソレは現れる。
「ねぇっ、お兄ちゃん。見た? 今のやつっ」
「見たよ。なんだかとても、素敵な力じゃないか」
巨大な影。
それを落とし、村全体を包む双翼。
轟く羽ばたき。それは大気を震わせ、大地までも振動させる。
そしてその巨大な口。鋭利な牙が並ぶそこには、咥えられた首なし騎士たちの姿。
その姿に、ジークは呟く。
「ダークドラゴン」
それに応え、ダークドラゴンは首なし騎士たちを咀嚼。
ぼたぼたと落ちる、肉片。
それに、レオナの身が赤黒く染まっていく。
それを嗤う、ルリとマリ。
ダークドラゴンの頭の上。
そこで二人は胡座をかき、歪んだ笑いを響かせる。
「残った女、子ども。それじゃ腹のタシにもならなかったっ。でも、こいつらなら食べても死なない。食べ放題っ、食べ放題っ」
「お前のその力、ぼくたちの為にもっと使ってくれ。そうすれば、餌には困らない。死なない人間なんて、最高の生き餌だからね。魔物誘引。その力があれば、いくらでも魔物を呼び寄せることができるんだけど、餌の問題だけは解決できない」
呼応し、二人は更に魔物たちを呼び寄せようとする。
魔物誘引×∞
生きている限り魔物を呼び寄せ、操る力。
それを二人は持っていた。
しかし、ジークの表情は変わらない。
「クソ餓鬼が二匹」
吐き捨て、ジークは力を行使する。
「収納する。世界中の魔物を」
【収納物】
スライム×63698369
ダークウルフ×133693
フェアリー×123663
ガーゴイル×123693
ワイバーン×23669
ダークラビット×36699
………
……
…etc
どこまでも続く、そんな言葉の羅列。
その魔物の数。
それは、ルリとマリが魔物誘引で呼び寄せることができる魔物の数と比べ物にならないほどだった。