女騎士④
シルフの欲に満ちた最後の叫び。
それを聞き、ガルーダはしかし後ろを振り返ることはない。
お互いに利用する仲。
シルフが死んだからといって、ガルーダは決して情を抱くこと等ない。
ただ、思うことはひとつ。
「ざまぁねぇなッ、シルフ!! こっから先ッ、こっから先はこのあたしだけが甘い汁を啜ってやる!! 勇者のもたらした平和ッ、その中でたっぷりな!!」
甘い汁。
それがシルフの分まで享受できる。
そんな欲に満ちた思いのみ。
「楽しみだッ、全く!! あーッ、なにをして遊んでやろうかな!?」
狂笑に彩られた、ガルーダの顔。
その歪みきった、ガルーダの心。
それは決して善に向くことなど無い。
ぶつかり合う、軍勢とガルーダ。
押し寄せる、軍勢。
それを嬉々として、ガルーダは斬り捨てていく。
力などなくても、この程度の機械的な人形ならガルーダの相手にならない。
鍛え抜かれた、身体。そして剣術。
さすらいの騎士として勇者に見定められる程の強者。
それが、ガルーダだった。
「はははッ、ははは!! こいよッ、負け組!! ビビっちまったのか!?」
壊れ、地に散らばった人形の破片。
それを踏み躙り、ガルーダはジークへと剣先を向ける。
そのガルーダに、ジークは近づいていく。
表情を変えず、淡々と。
それに、ガルーダは舌舐めずりをした。
「来いよ、ゴミ。一瞬でその首、刎ねてやるからよ」
そんなガルーダの挑発。
ジークはそれに、答える。
「収納する。てめぇ足の骨を」
【収納物】
ガルーダの足の骨×2
瞬間。
ガルーダの足。
それが自重に耐え切れず、押し潰されてしまう。
同時に響く、金切り声。
顔に汗を滲ませ、ガルーダは前のめりに倒れ伏せる。
そして両腕で身をもたげーー
血の気の失せた顔。
それをもって、眼前で足を止めたジークを見上げるガルーダ。
「てッ、てめぇ!! あたしになにをーーッ」
「収納する。てめぇの腕の骨を」
「ぐぅッ」
粘土のように柔らかくなり、自重に潰されるガルーダの両腕。
その地に顔を埋めたガルーダに、ジークは声を落とす。
「おい、ガルーダ」
べきッ
ガルーダの後頭部。
そこに足を押し付け、冷徹な顔を晒すジーク。
「俺に良心があったなら、てめぇを瞬殺してただろうな。心臓、或いは脳みそ。それを収納してな」
「しゅう、のう?」
ジークの言葉。
それにガルーダは潰れた問いを返す。
しかし、ジークは答えない。
代わりとばかりに、ぐりぐりとガルーダの後頭部をにじるジーク。
地に押し付けられ続ける、ガルーダの顔面。
潰れた蛙のような悲鳴。
それをあげ、「じーくっ、あ、あたしに。ごんな……こと。して、ゆるされると」そう、ガルーダは未だに悪態をつき続ける。
それに、ジークは力を行使した。
あらゆるモノを剣にする力。
それを使用し、「お前の内臓を剣に」そう意思を表明する。
そしてガルーダを足蹴に、仰向けにするジーク。
瞬間。
「あたしッ、あたしはまだ死なねぇ!! 舐めるなッ、舐めるなよ!! このガルーダをッ、このガルーダ様をぉ!!」
轟く狂った叫び。
そのガルーダの顔。
それは、既に人ならざる異形のモノ。
「あたしが死ぬ時ッ、それは世界中の快楽を味わった後だ!! てめぇのようなッ、てめぇのような負け組の手!! それで死ぬなんてことッ、あっちゃーー」
ならねぇ!!
最後の叫び。
それを響かさんとした、ガルーダ。
しかし。それが響く前にガルーダは内から無数の剣に貫かれる。
飛散する、血肉。
そしておびただしい鮮血。
白目を剥き、ガルーダは痙攣する。
しかしそれもすぐに収まり、ガルーダは壮絶な表情を晒し絶命したのであった。