万物収納はあらゆるモノを収納する①
あれから何時間経っただろう。
仰向けに倒れ、うっすらと開けられた瞼。
その隙間から夜空を見つめ、ジークはここが外だということを知る。
顔は痣だらけ。
骨も何本も折れたのだろう。全身の至るところが痛い。
しかしアレンはそれにも増して痛むところがあった。
"「ジーク。この旅が終わったら結婚しようね」"
花ような笑顔。
それをたたえ、微笑んだジュリアの姿。
"「負けないで、ジーク。アレンもきっと、貴方の為を思って敢えて厳しく接しているだけだと思う」"
ジュリア。
あの笑顔。あの言葉。
全部。全部、嘘だったのか?
軋む心。
胸を抑え、ジークは壊れた蛇口のように涙を滴らせる。
もう、死のう。
ジュリアも。故郷も失った今、俺に生きる希望なんてない。
そう決意し、立ちあがろうとするジーク。
しかし、そこに。
「よぉ、兄ちゃん。そんなとこで寝てたら風邪ひくぜ?」
「へっへっへっ」
柄の悪そうな声。
それが響く。
「金目のモンを寄越せ」
「出したら命だけは助けてやる」
仰向けのジーク。
痣だらけのジーク顔を見下ろし、二人組はにやにやと笑う。
その嫌らしい笑顔。それを見つめ、ジークは呟く。
「同じかお」
「あ?」
「同じ顔をしている」
つい先刻。
自分に向けられたアレンたちの笑み。
それと同じような笑顔が、今自分に向けられている。
「何言ってんだ、てめぇ」
「いいから金目のモンを寄越せ」
「なけりゃてめぇをバラしてそれを」
売ってやる。
刹那、二人は見た。
こちらを見つめる、ジークの眼差し。
そこに込められた言いようもない殺気。それをはっきりと。
後退る、二人組。
それに呼応し、アレンは自身の内でなにかが弾けるのを感じる。
【万物収納】
【あらゆるモノを収納する】
己の脳内。
そこに羅列される言葉。
「万物、収納」
「あらゆるモノを、収納する」
雰囲気の変わったジークの姿。
それに、二人組はその場から逃げ出そうとした。
「な、なんだこいつ」
「訳のわからねぇことをぶつぶつと」
背を向ける、二人組。
呼応し、ゆっくりとその場から立ち上がるジーク。
そして、二人の姿を見定めーー
「足を収納する」
そう呟き、二人の足を見定める。
刹那。
「「!?」」
駆け出そうとした二人の足。
それが漆黒に包まれ、跡形もなく消失。
途端、二人はその場に転倒し顔に汗を滲ませ這いつくばってしまう。
なにが起こったのか。
二人にはわからない。
しかし、こちらに近づいてくる足音。
それに二人は恐怖する。
「た、助けてくれ!!」
「どうか命だけは!!」
だが、闇に染まったジークの心にその二人の懇願は届くはずもなかった。