女騎士②
三つほど家屋を修復し、ジークは村の中央で思い出の椅子に腰を下ろし空を見つめていた。
空は青く透き通り、雲ひとつない。
そしてそれは、ジークの闇で曇った心とは正反対だった。
吹き抜ける、風。
その中にジークは感じた。
仄かな温かさ。それを微かに。
それに身を任せ、瞼を閉じようとするジーク。
"「ありがとね、ジーク。井戸の水を汲んできてくれて」"
"「すごいな、ジーク。すっかりお兄さんじゃないか」"
靄のかかった、両親の顔。そして声。
それを思い出し、ジークは呟く。
「俺も、すっかりお兄さん。母さん。俺、立派な冒険者になって、この村のみんなを幸せにしたい」
譫言のように響く、そんなジークの言葉。
そこに感情はなく、どこまでも無機質。
「俺、みんなの為にがんばる。一人残らず、始末して。みんなの為にがんばる。ジュリア。あの雌もぶち殺して、がんばる」
呼応し、ジークを中心に広がる闇。
それはまるで意思をもつ獣のように、村全体を漆黒へと染めていく。
そしてジークは立ち上がりーー
「収納する。俺のあの頃の思いを」
力を行使し、ジークはかつての自身の温かな思い出に浸るのをやめる。
徹底的な復讐。
それを成し得るまで思い出に縋ること。
それを、ジークはやめる。
同時に響く、集団の足音。
数は多い。
それこそ、先ほどのレオナの騎士団とは比較にならないぐらいに。
瞳から光を消し、こちらに近づく無数の気配にジークは意識を向ける。
そしてその眼光を鋭くし、己の視線の先をじっとじっと見据えたジーク。
果たして、そのジークの視線の先に現れたのはーー
既視感のある黒の甲冑。
そして野生に満ちた褐色の肌に、獲物を狩る狩人を思わせる殺気を帯びた吊り目。
引き締まった体格に、弱者を蔑む表情。
「久しぶりだなッ、負け組!! この私がッ、ガルーダ様がッ、てめぇに会いに来てやったぜ!! そのくだらねぇ力に目覚め!! ココネをぶち殺しッ、いい気になってんじゃねぇぞ!!」
女騎士ガルーダ。
アレンのパーティーの一人がそこに現れる。
千里眼×2
透視×2
あらゆるモノを剣にする力×1
を持つ、ガルーダ。
間違いなくこの世界における、最上位のさすらい騎士。
それがガルーダだった。
加えて、そのガルーダの側に佇むは、ジークの知らないエルフ少女シルフ。
「貴方がゴミの負け組ですか? ガルーダ様からよく聞いています。アレン様のもたらした平和の恩恵を潰そうとする、輩。このわたしが許しません」
白銀の髪。
それを揺らし、ジークを小馬鹿にする上級治癒士。
範囲治癒×1000
千人を一度に治癒することができる力。
それをシルフは持っていた。
更にその二人の後ろに居並ぶは、自我なき軍団の姿。
アレンの【軍団召喚……無限に兵を召喚し使役する】により召喚された、甲冑姿の人形たちだった。
対する、ジークは一人。
だが、ジークの表情に恐れはない。
手のひらをかざし、ジークは呟く。
「収納する」
「お前たちの力を」
ジークの足元。
そこから闇が伸び、彼等の足元に及ぶ。
そして、数秒後。
【収納物】
千里眼×2
透視×2
あらゆるモノを剣にする力×1
範囲治癒×1000
アレンの軍団召喚×∞
ジークは、視界にうつる全ての力を己の内に収納したのであった。