故郷⑤
首を失い、ジークにたどり着く前にふらふらと地に伏していく騎士だった者たち。
水溜まりのように点在する血溜まり。
その中に沈む、惨たらしい亡骸の数々。
まさしく、地獄絵図。
しかしその中でその男だけは無表情でそこに佇んでいた。
眉根ひとつ動かさず、血にその身を染めたジーク。
闇を纏いゆっくりと己の手のひら下ろす存在だけが、そこには立っている。
その、異様な光景。
そのあり得てはならない、現実。
それにレオナの視界がぐらつく。
「ぅぐ……っ」
込み上げる、吐き気。
口元を抑え、懸命に吐瀉を堪えるレオナ。
その目は涙で潤み、その身は小刻みに震えている。
"「レオナ様ッ、我ら騎士団はなにがあっても負けること等ありません!」"
"「この剣は国の為に!! そしてこの命はッ、守るべき大切な者の為に!!」"
"「レオナ様ッ、今日も稽古お願いします!!」"
昨日まで、そんな風に声をあげていた騎士たちの面影。
それを思い出し、ぽたりと。
レオナの頬をつたう、涙。
つい数時間前まで、自分に忠誠を誓い敵倒すと決意していた騎士たちの姿。
それが、それが。
「みんな。死ん、だ」
レオナの口。
そこから漏れる、自身の言葉。
刹那。
レオナの全身。
そこから力が抜け、レオナは糸の切れた人形のように地に両膝をつく。
戦意などもはやない。
あるのは、視界に広がる光景に対する恐れと佇むジークに対する畏れ。
震えが止まらない、レオナ。
「怖い、こわい。こ、こわい。あいつが、怖い。化け物、化け物。こわい、こ、こわい。わたしは、守れなかった。大切な。部下を、誰、ひとり」
譫言のように響く、レオナの震え声。
呼応し、涙が滴り落ち続ける。
まるで壊れた蛇口のように。止まることなく。
そのレオナを見据え、ジークは歩を進める。
一歩、一歩。
闇で地を濡らしながら。
そしてレオナの眼前に辿り着き、呟いた。
「収納する。お前の正義。そして忠誠。そして、心を」
刹那。
レオナの両目。
そこから光が消え、闇に染まる。
同時に、ジークは行使する。
後ろを仰ぎ見、首無き死体に向け、己の力を。
「収納する、お前たちの死を」
ジークの言葉。
それに呼応し、首無き騎士たちはその身を起こす。
ぽたぽたと血を滴らせ、その身をふらつかせながら。
その騎士たちに、壊れたレオナは歓喜した。
「みんな、生きていた。貴方がみんなを、生き返らせてくれた。嬉しいな。嬉しいナ。うれしいな」
立ち上がり、狂気に満ちた笑いを響かせるレオナ。
その笑いを聞き、ジークはレオナに告げた。
「命をくだせ、騎士たちに」
「皆殺しの命を」
そのジークの言葉。
それにレオナは、応える。
騎士たちの前に立ちーー
「これよりッ、各地に向け進軍する!! 目的は皆殺しッ、一人の残らず、殺すこと!!」
そう声を紡ぎ、壊れた笑いを響かせたのであった。