故郷④
街が消え去り、空洞となった穴。
それを見つめ、ジークの表情は変わらない。
良心があった頃。
その頃なら、力に目覚めてもここまでのことはしなかっただろう。
しかし、今のジークには良心や葛藤等ない。
他者の幸せなど、どうでもいい。
あるのは、自分を苦しめた全てのモノに対する揺らぎのない復讐心だけなのだから。
〜〜〜
廃れた家屋。
その中でレオナは、テーブルに置かれた額縁写真を手に取っていた。
色褪せた写真。
そこにうつるのは、笑顔の少年と優しそうな父と母。
そしてその少年の隣には、花のように笑う少女が写っていた。
レオナはそれに直感する。
この少年がジークだということを。
唇を噛み締める、レオナ。
レオナの胸中。そこにわだかまるは、複雑な思い。
そしてその額縁をテーブルに戻し、部屋から出ようとした瞬間。
「れッ、レオナ様!!」
慌ててふためいた声。
それが響き、同時に部下の一人が駆け込んでくる。
それを仰ぎ見、レオナは問う。
「なにかあったの?」
冷静な返答。
部下はそれに、対照的な声音で答えた。
「ジークがッ、ジークが現れました!!」
響いた部下の言葉。
それに目を見開き、騎士団長【レオナ】は表情を引き締めて臨戦態勢をとる。
「ジーク。数は一人だけ?」
「はッ、はい!!」
「陣形を整えろッ、数が一人なら恐るに値しない!!」
「かしこまりました!!」
レオナの指示。
それを受け、部下は外へと飛び出す。
それに続き、レオナもまた外へと向かう。
吹き抜ける風。
それに自身の黒髪を揺らし、レオナは見た。
「なんの用だ、ココに」
そう声を響かせ、漆黒を纏う男の姿。
それをはっきりと。
「ジークッ、お前はココでおしまいだ!!」
「我らが騎士団の誉高くも勇ましき剣ッ、それをもってすればお前など相手にならぬ!!」
「降伏するのなら今のうちだ!!」
一斉に剣を抜き、ジークへと敵意を露わにする騎士たち。
その表情。
そこに宿るは、たったひとりの男に自分たちが負けるわけがないという自信のみ。
しかし、レオナだけはわかっていた。
視線の先。
そこに佇む、男。
その身から溢れる殺気を帯びた、闇。
「……っ」
本能的に後ろに下がる、レオナの足。
そしてレオナは命じようとした。
「皆の者ッ、気をつけろ!! あの男はーーッ」
しかしそれも虚しく、ジークに向け突撃していく騎士たち。
雄叫び。
それをあげ、ジークの元へと迫る騎士の群れ。
ゆっくりとかざされる、ジークの闇を帯びた手のひら。
そして、呟かれる言葉。
「収納する。お前たちの首を」
瞬間。
レオナを除く騎士たちの首。
それが収納され、無数の血飛沫が騎士たちの首元から飛び散る。