故郷①
ココネの亡骸。
それを飲み込み、満足げに鳴き声を響かせる雷竜。
その雷竜に、ジークは声をかける。
「また、呼ぶ」
ジークの声。
それに頷き、雷竜は空へと飛翔。
空高くへと飛び去っていく。
それを見届け、ジークは手のひらを地につける。
そして、呟いた。
「俺の故郷をココに。廃れた村を取り出す」
【収納物】
廃れた村×1
脳内に浮かぶその言葉。
それに意を表明し、ジークは村を取り出す。
轟く、地響き。
大地が振動し、文字通りジークは【廃れた村】をソコに取り出す。
焼けこげた家屋。
枯れた井戸。
朽ちた風車。
そして、散らばった黒く焦げた骨。
ジークの視界。
そこに広がる、変わり果てた故郷の姿。
「元に、戻す。俺が必ず」
呟かれる、ジークの声。
「まずは建物から、はじめよう。建物を建てるには、建築の知識が必要だ。街に行こう。建築の知識をもった人間を探しに。それが、終わったら。この故郷を壊滅させた奴等を、コロす」
建築知識とココネの魔力。
それがあれば、建築魔法を扱うことができる。
淡々と響く言葉。
そこには一切の感情も宿っていない。
双眸に蠢くは、闇。
風に揺らぐ、ジークのローブ。
そして歩みを進める、ジーク。
伸びるジークの影は揺らめく。
それはどこまで異様で、どこまでも深い闇に彩られていた。
〜〜〜
「騎士団の派兵?」
「あぁ。なんでもあの森を抜けた先に化け物が現れたらしい」
「本当かよ!?」
「勇者様のおかげで世界が平和になったってのに……今度は化け物かよ」
「でよ。その化け物ってのはあのココネ様を殺したらしいぜ」
「う、うそだろ」
酒場。
そこで人々は【騎士団の派兵】の報せを肴にし口々に、議論を交わしていた。
その様子。
それを酒場の端で水の入ったコップ片手に見つめる、一人のフードを被った人物。
素性はわからない。
しかしその口元は固く結ばれ、なにかを押し殺しているかのようだった。
〜〜〜
アレンの居る街とは違う街。
そこに、ジークはその姿を現していた。
賑やかな街並み。
行き交う人々。
その中で周囲を見渡す、ジーク。
っと、そこに。
「はいッ、はい!! この書物を解読できた人には特別にッ、あの建築人様とパーティーが組めるよ!!
魔法使いの知識ッ、それに自信がある人は奮ってご参加を!!」
そんな声が聞こえてくる。
ディアナ。
その名をジークは知っていた。
アレンに媚を売り、仕事を回してもらっていた建築人。
ジークのことを小馬鹿にし、「古臭い故郷」とジークの村をこきおろしていた建築人。
「ディアナ様とパーティー!?」
「あの一流建築人と!?」
「この前は確か……剣士を募集してたな。今回は魔法使いの知識ってことで魔法使いを募集してるんだな」
「旅にでも出るつもりか?」
ひそひそと響く、人々の声。
ジークはそれを聞き、その群れの中へと進んでいく。
そして。
「書物を。見せてくれ」
パーティー募集をかけていた老人。
その前に佇み、手のひらを差し出す。
パーティーを組むつもりなどさらさらない。
ジークの目的。
それはディアナの知識を収納し、帰らぬ人にすることなのだから。
「お兄さん。自信、あるのかい?」
「はやく。見せてくれ」
【収納物】
ココネの魔法知識×999999
それを取り出し、ジークは己の瞳に闇を瞬かせる。
「お兄さん、あんた」
「はやく。見せてくれ」
「……っ」
「はやく、見せてくれ」
ジークに気圧され、老人は書物を出す。
ジークはそれを受け取りーー
ぱらぱらとめくり、ほんの数秒で解読してしまったのであった。