収納するモノ⑥
しかし、ジークの表情は変わらない。
頭を抱え、震えるココネ。
その姿に同情など抱かない。
「雷竜。あいつを喰らえ」
「グォォオン!!」
ジークの命。
それを受け、ココネを見定める雷竜。
それに、ココネは顔をあげ懇願し続けた。
「たッ、助けて!! お願いします!! わッ、わたしはただアレンに命令されてただけなの!!」
「ほ、本心では貴方のことを尊敬してた!! ほッ、ほんとよ!? いくら酷いことをされてもずっと我慢してる貴方の姿ッ、それにわたしは感銘を受けてた!!」
ぽたぽたと流れる、涙。
ココネの幼い顔。
そこに滲む、ジークに対する懺悔。
「ね? だから、お願い。ジーク、わたしを許して」
言いつつ、ココネは自らの懐に手を差し入れる。
そこには、転移の翼が忍ばせてあった。
"「ほら、負け組。わたしの渾身の演技だ。幼いわたしの涙。それを見てなにも思わない? そんなことあり得ないっしょ。ふふふっ。ちょっとでも隙を見せてみろ。この翼でディルクの元に転移し、魔力を吸収してやる。少しでも魔力が戻ればこっちのモノだ」"
内心で呟き、嘘の涙を流し続けるココネ。
ほら、負け組。
さっさと隙をーー
「おい」
「は、はい」
頭上から降り注ぐ、ジークの声。
それに視線を上にあげる、ココネ。
潤んだ、幼いココネの両目。
それを見据え、ジークは吐き捨てた。
「収納する。お前の目を」
刹那。
「!?」
ココネの両目。
それが闇に包まれ、消滅。
同時に、ココネは勢いよく立ちあがる。
そして。
「め。目ッ、メ!! わたしの、目がァ」
眼球の消えた目の窪み。
そこを抑え、絶叫するココネ。
「見えないッ、ミえない!! くそッ、ぐそ!! ゴミッ、負け組ぃ!! このわたしに何をしやがったァ!! このッ、ココネにィ!! なにをしやがった!!」
「てめぇの汚ねぇ涙なんて見たくもねぇんだよ」
絶叫しながらふらつく、ココネ。
それを見据え、ジークは呟いた。
それにココネは歯軋りをしーー
「……ッ」
懸命に自身の懐を弄る。
転移の翼。それを握りしめる為に。
しかし、掴み損ねはらりと地に落ちる転移の翼。
「どこだッ、どこにいった!!」
四つん這いになり、転移の翼を探すココネ。
その姿。そこには、ない。
魔法使いココネの威厳に満ちた面影など一切。
「雷竜」
「……」
「あのゴミを」
ジークの言葉。
それに頷き、雷竜はココネを咥える。
叫ぶ、ココネ。
「くそッ、このわたしがぁ!! このわたしがッこんなところでぇ!! 負け組にッ、ジークにッ、ヤられるなんて認めない!! 魔王でさえこのわたしにッ、かすり傷ひとつつけることさえできなかったのにィ!!」
ベキッ
「へぐ……ッ」
雷竜に噛み砕かれ、ぶらんと垂れさがるココネ。
ベキッごきッ
口元から血を滴らせ、内臓を垂れ流し、ココネは雷竜に咀嚼され続ける。
そしてそのまま、原型を留めぬ程に噛み砕かれココネは雷龍に飲み込まれてしまったのであった。