表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

未就学

作者: 寺崎 征十郎

目を閉じてしばらくした後、頭の上から彼の寝息が聞こえだして、抱きしめる彼の腕を押しのけて私は身体を起こした。

汗ばんでぺったりとくっついていた肌が彼から離れて、心のうちに覚えていた寒々しさが一層増した気がする。

そこら中に脱ぎ捨てた服を着て、私は彼の部屋を出た。


深夜の外気は彼の好みに合わせたおしゃれ着だけでは心もとなくて、誰もいないアパートの廊下を私はぶるりと体を震わせながら歩いた。

そろそろコートの一つでも用意しなきゃなと思いつつ、何度も歩いた自分の家への帰り道で今日も一人で考える。


彼と付き合い始めたのは高校生の頃。

吹奏楽部で同じ楽器を担当していた私に、彼から告白してきたのが始まりだ。

彼のことは特別好きというわけではなかったけど、嫌いじゃなかったし付き合うってどういうことなのか気になっていたし、断らなかった。

付き合ってみれば私も彼のことを好きになれると思っていたから。

でも、いつまで経っても私は変わらなかった。


初めてのデートの時。

楽しいか聞いてきた彼の横で、楽しいよと嘘をついた。

初めてのキスの時。

ドキドキするねと言った彼の前で、何も返さず口を塞いだ。

初めてのセックスの時。

気持ちいいかと聞いてくる彼の下で、無感情で喘いでみせた。


毎朝駅前で待ち合わせて大学に行く。

毎週土日は彼の部屋で過ごす。

毎月一回はデートに出掛ける。

そんな生活を進学してからずっと続けていても、私の感情は何も変わってくれない。

変わりたいと思ってすらいないのかもしれない。


きっと別れるべきなんだろう。

何とも思ってない相手なら、付き合っているだけ不誠実だと、私のまともな部分が言ってくる。

けれど、それと同じくらい相手のことなんてどうでもいいと思っている。

彼を手放してはいけないと、愛を理解できるまで一緒にいなければならないと、私の理性が叫んでいる。


だから私は仮面を被る。

彼のことが大好きでたまらない女の子でい続ける。

彼を好きになれるまで。彼に心の底から愛してると言えるまで。


そんな益体のないことを考えているうちに家に着いた。

外装のはがれたボロボロのアパート。

いくつかある部屋のうち、鍵のかけられていない部屋に入る。

誰もいない真っ暗な部屋で、もういない人に向けて私は一人呟いた。


「あなたが教えてくれれば、こんなに悩むこともなかったのにね。お母さん」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ