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達成感と新事実

 目が慣れたツバキも、二人の元へ寄ってくる。

 近づきがてら、冒険者たちをそれぞれ踏みつけていたのは、用心のためか、或いは単なる性癖か。


「ひと段落、と言ったところね。お怪我はありませんか、依頼人様?」


 ツバキはフードを取り、胸元から金色の駒を取り出しながら、依頼人に言った。


 駒の存在が表すのは、『白銀の女騎士』である証。金色の輝きを確認した依頼人は、ヤマトたちが信頼出来ると判断した。


「お陰様で。……しかし、これは一体どういう? あそこで倒れている方々も、冒険者ではないのですか?」


 依頼人からしたら、わけのわからないことだらけだろう。


 突然野盗に襲われたかと思えば、その野盗と自分の護衛が手を組み始めた。

 更には時を待たずして襲ってきた第三勢力また、ギルドの構成員。……何が何だかわかるはずもない。


「まぁ、そうなりますよね……」


「ハハハハ」と苦笑を浮かべながら、アレキサンドラは兜を外す。


「その点につきましても、これから詳しくご説明致します」


 ツバキは依頼主に、今しがた起こったことを説明した。

 依頼を受けた冒険者たちが、マッチポンプを計画していたこと。そして自分たちは、それを食い止めたこと。

 真相を聞いた依頼主は、「そんなことが……」と、驚きを隠せないでいる。


「人々の助けとなるはずの我々が、よもやその為の財を己のものにしようとするとは……。『白銀の女騎士』の一構成員として、心より謝罪を申し上げます。誠に、申し訳ございませんでした!」


 深々と頭を下げるツバキとヤマト。つられるように、アレキサンドラも頭を下げる。


「いえいえ! そんな……頭を上げて下さい! 少なくともあなた方は、悪しき行いを食い止めようとしてくれたのでしょう? 私にだって、それくらいの分別は付きます」


「お心遣い、感謝致します」。ツバキたちは頭を上げる。


「ギルドへの報告は、依頼主様に任せようかと思っております。真実を報告するのも良し。面倒ごとを避ける為、黙っておくのも良し。されどクエスト失敗という点は、お間違いないようお願い致します」


 真相をギルドに報告し、その結果倒れている冒険者たちが降格処分や除名処分になったとしたら。

 理不尽な怒りを覚えた彼らが、報復に出てもおかしくはない。


 依頼主もそんなツバキの意図を察したようで。


「私としては、大ごとにする気はありません。結果はどうであれ、ここまで護衛していただいたのは事実ですし」

「賢明なご判断かと」


「しかし、これからどうするべきか……」。気を失っている冒険者たちを見ながら、依頼主は呟く。


「問題ございません。己のしたことは己で責任を取る、それこそが『白銀の女騎士』の暗黙の了解でございまして」


「若干6名、遵守しなかった者たちもおりましたけど」。ツバキは仕方なさそうに言う。


「これより目的地までの道中、我々三名があなた様の護衛を務めさせていただきます。勿論これはクエストでも何でもないため、報酬は不要です」

「無償で護衛……そういうことですか!?」

「然り。……実力を心配されているのでしたら、それもまた不要であると保証致します。ここにいる騎士はホワイトの新人ですが、私はゴールド。そしてこの男は最高位、プラチナであります故」

「プラチナ? それにその和装。……ということは、あなたがヤマトさん!?」

「……そうだ」


 一年前。バロッサとの戦いの結果は、王国中に知れ渡っている。


 ヤマトがプラチナなんて大層な男ではなく、ただの敗北者であることは、周知の事実だ。

 バカにされるか、或いは自分だけ外して欲しいと要求されるか。ヤマトからしたら、どちらにせよ受け入れるつもりなのだが。


 目を瞑るヤマト。彼の手を、依頼主はガシッと掴む。


「!?」


 ヤマトは驚き、目を見開く。依頼主の瞳には……彼に対する嫌悪や侮蔑など、一切なかった。


「あなたがヤマトさん!? お会いできて光栄です!」

「……は?」


 代わりに向けられる、尊敬の眼差し。

 予想外どころか、あり得ない反応にヤマトは困惑していた。


「お会いできて光栄? お前……俺の負け戦を知らないのか? バロッサの靴を舐めたという醜態を」

「知っておりますとも! しかし、それが何だというのですか!」

「……?」


 全くもって、意味がわからない。ヤマトはアレキサンドラやツバキに、助けを求める。のだが。


『クスクス。クスクスクスクス』


 口元に手を当て、笑う二人。わかっていないのは、ヤマトだけだった。


「……アレク?」

「ヤマトさん。ヤマトさんは、バロッサに負けたことを気にし過ぎなんですよ。そりゃあヤマトさんの功績だけを見て、理解したつもりでいた人たちはあなたをバカにするでしょう。でも、あなたの本当の強さに惚れた人間は、たった一度の敗北で見限ったりなんてしません」


 自分が、ツバキが、メリアが、ビロッドが……メサイアが、そうであったように。


「バロッサだって、世界中の人間に好かれているわけじゃないでしょう? それと同じで、ヤマトさんが全ての人間に嫌われているなんてことはないんですよ」


「そうですとも!」。依頼主が、握ったヤマトの手を上下に動かす。


「私が慈善活動に勤しんでいるのは、メサイアさんの信念に心を打たれたからです! そしてヤマトさん。あなたがその活動に尽力したことも、重々理解しております!」


「「尽力した」じゃなくて、「している」ですけど」。譲れないのか、アレキサンドラが小言を挟んだ。


「……」


 ヤマトは依然として、言葉が出ずにいる。

 自分が認められている。あんな恥ずかしい姿を晒しても、まだ信じてくれている人たちがいる。勿論そのことは嬉しいのだが、それ以上に、メサイアの信念が受け継がれているのだと思うと、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのだ。


「……ありがとう」


 ヤマトの謝辞に、真っ先に反応したのはアレキサンドラで。


「いえ、仲間ですから!」


 仲間……。


 メサイアを失って、ヤマトは一人で戦い続けていた。強くなろうと考えてきた。何百回も何千回も何万回も、ひたすらに刀を振り続けていた。

 そして――負けた。


 でも今は違う。アレキサンドラが、ツバキが、仲間がいる。そしてヤマトはバロッサに負けたが、ヤマトたちはまだ負けていない。


(メサイア。これもまた、一つの愛の形なのだろう?)


 復讐心に取り憑かれていた自分がバロッサに遠く及ばないのも、無理がなかった。


 依頼主が、ヤマトの手を離す。


「しかしだからこそ、残念極まりないんですよね」

「ん? 何がだ?」


 ヤマトが聞き返す。


「いえ、ギルドに依頼を出しに行った時、小耳に挟んだんですけど……」。そんな出だしで、依頼主はある衝撃の事実を告白した。


「『白銀の女騎士』、なくなってしまうみたいですよ?」

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