表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

欲深き冒険者への天誅

 お芝居の強襲だとしても、全てが嘘というわけにはいかない。やはりある程度は現実味がなくてはならないもので。

 野盗を演じる以上、街中で大々的に戦闘を繰り広げるわけにはいかず、かといって迂回ルートがある道や隠れる場所のない道なんかも不適合。

 つまるところ、今回の任務においてはこの山越えを狙うことこそが、最良の手だといえた。


 恐らくマッチポンプを計画している冒険者たちは、ここでことを成すだろう。ヤマトたちは、そう考えていた。


「だからこそ、俺たちもここで計画を実行しようと思う」


 ヤマトはパーティーメンバーであるアレキサンドラとツバキに、そう言った。


 ヤマトたちが現在いるのは、例の冒険者たちが越える予定の山中。の、とある木の上。


 特に葉が生い茂っている木を選んだ為、真下にでも来ない限り、外から彼らの存在が認知されることは、まずない。

 ヤマトは道を挟んで反対側の茂みに目を向けた。


 談笑しながら茂みに隠れる、三人の冒険者たち。アレキサンドラは、その三人に見覚えがあった。


「あの人たち……ギルドにいました」

「そういう手はずになっているからな。……俺は覚えてないけれど」


「まったく」。ツバキは呆れたように、ヤマトを見た。


 いつもならいざ知らず、茂みの中の冒険者たちは、今日は襲う側である。それも命の危機にさらされることなんて、絶対にあり得ない。

 故に彼らは、油断も隙も大ありなのだ。話に夢中になっていて、自分たちに向けられている敵意に気が付かない程に。

 これでは冒険者失格である。


 場面は戻り、木の上では。

 アレキサンドラが何やらヤマトの顔を、先程から凝視していた。


「何だ?」

「いえ。ヤマトさんが編笠をかぶっているところ、初めて見たなーって。ほら、私を助けてくれた時は、かぶっていませんでしたし」

「あの時は相手がケルベロスだった。でも、今回は違う」


 敵は同僚。しかも見方を変えれば、ギルドの邪魔をしていることになる。

 素顔や正体がバレることだけは、避けなければならないのだ。

 だからヤマトは編笠で、ツバキはマントのフードで、アレキサンドラは兜で頭部を隠している。


「アレクも、兜だけは絶対に取られるんじゃない」

「はい、わかりました」


 アレキサンドラは、力強く頷く。

 彼女の覚悟を確認したヤマトは、今度はツバキに顔を向けた。


「で、敵の人数とジョブは?」

「あとついでに階級も、でしょ? ……護衛を務めている側は、(シルバーランク)の女騎士と(シルバーランク)の魔術師、そして(ゴールドランク)のヒーラーという三人のパーティー。対して襲う側は、(シルバーランク)の召喚術師に(シルバーランク)の女魔術師、そして(ゴールドランク)の騎士……こちらも三人パーティーね。総じて六人といったところかしら?」


 ゴールドランクを含む上級冒険者が、全部で六人。

 アレキサンドラは鎧の胸部にはめてある白い駒を触りながら、ゴクリと息を飲んだ。


「俺はギルドに顔を出していないからわからないんだが……強いのか?」

「強いからゴールドになったのよ。……でも、私の記憶が正しければつい先月昇級したばかり。あなたや私が遅れをとるはずもないわ」

「そうか。……時に、アレク」

「ひゃいっ!?」


 いきなり声をかけられ、アレキサンドラは声を上ずらせる。

「落ち着け」と、ヤマトはそんな彼女をたしなめた。


「そう言われても……私はホワイトなんですから、ゴールドの先輩方を相手にするとなると、緊張もしますよ。……それで、何ですか?」


 用があったから、ヤマトはアレキサンドラに話しかけたのだ。


「さっきのツバキの話、きちんと聞いていたか?」

「はい」

「では、尋ねよう。六人の敵の中で……真っ先に倒すべきなのはどいつだ?」

「戦術ですか。そうですねぇ……」


 考えるべきなのは、階級と職業。階級は悩むまでもなく、一択。

 となれば騎士かヒーラー……。悩んだ末、アレキサンドラが出した答えは、


「ゴールドの騎士ですね。一番の戦力を叩くことで、他の五人の戦意を喪失させる。戦わずして勝つというところでしょうか?」

「敵自身ではなく、敵の心を折る……成る程、面白い発想だ。しかし、今回のケースにでは、騎士より前に倒すべき相手がいるな」


「ヒーラーだ」。どうやらアレキサンドラは、惜しいところまでいっていたようで。

 しかしヒーラーを率先して倒すべき理由は、彼女の考えるそれとは異なっていた。


「階級なんて関係ない。はじめは兎に角ヒーラーを戦闘不能にする。どんなに敵倒しても、ヒーラーが健在である限り何度でも復活してくる。何度も、何度も、何度も、何度も……。まるでゾンビのように、な」


 倒れても復活を幾度となく繰り返されては、流石のヤマトやツバキも危うくなってくる。


「ヒーラーは護衛担当だったよな?」


「えぇ」。ヤマトの問いに、ツバキが答える。


「ということは、依頼主を中心として前衛に女騎士、中衛にヒーラー、後衛に魔術師というのがセオリーだな。……厄介だ」


 なにせ前から攻めようが、背後から奇襲を仕掛けようが、金のヒーラーに辿り着くには銀の女騎士か銀の魔術師を倒さなければならない。


「女騎士か魔術師か……どちらの方が倒しやすいでしょうか?」


 奇襲を仕掛けられ、かつ防御力の低い銀の魔術師だろうか? それとも、遠距離攻撃を使用しない銀の女騎士?


「自分から考える傾向は、悪くない」


 悩むこと自体は褒めたヤマトだったが、彼女の回答に関してはどちらも「違う」だった。


「前でもなければ、後ろでもない。勿論右でも左でもな」


 ヤマトは人差し指を、ピンと天に突き出す。そして普通なら脳裏にもよぎらない場所を口にした。


「上だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ