2-4 降魔の卵
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俺は盗賊を襲撃した際に得た『降魔の卵』を両手に持ち、移動をしていた。
移動先は、【シャトー・アビス】内に存在する別の空間。
魔法や戦闘の訓練で使用する用途の、何をしても大丈夫という場所だ。
この卵は、俺の手には余る物だ。
しかし、もしも外に再度流出させた場合、さらに多くの血が無差別に流れることになり、ふ化させようと躍起になる馬鹿も出てくる。
そのため、ここで卵をふ化させ、産まれた魔物を倒す。そうすれば何事も無かったことになる。
ちなみに、割ってオムライスでも作ってしまおうかとも一瞬考えた。
俺の力では倒せない場合のことも考え、影魔法を利用した封印魔法もいくつか用意しており、俺が亡くなった後も影の中に閉じ込め続ける魔法も持っている。
命を引き換えに…なんて美学は一切持ち合わせていない。ただ、目的を遂行するための手段の一つとして並んだだけだ。
先の盗賊との戦闘において、魔力は1%も使用していないため、全力戦闘も可能。
【予見眼】も準備、火と風魔法も場合によっては使うと思われるが、影の中では俺の独壇場だ。
「あとは、俺の魔力で足りるかどうかだな」
卵を床にゆっくり下ろし、両手をそっと添える。
少しずつ、魔力の注入を開始。
…。
…。
「4分の1は飛んだな」
…。
…。
「えっ、もう少しで半分…」
と零したその時、空気が一変した。
卵からあふれ出る膨大な魔力により、空間が激しく揺れ動く。
俺は少し卵から距離をとり、様子を見る。
少しずつ、卵にヒビが入り、殻の欠片がポロポロと落ちていく。
カタカタと、微振動しているようだ。
あ、割れる…。
戦闘態勢を取…「ピキィィィィィィッッ!!!」
「…は?」
卵の中から生まれたのは、一匹の雛鳥。
黒い毛に覆われた、四足歩行の赤ちゃん鳥。
…四足歩行?
「ピキッッ!」
その子は俺の姿を目視した瞬間、俺の元へと駆けてきた。
とりあえず俺は両手を前に持ってきて、雛鳥を迎える体勢をとる。
勢いよく走りだし、俺の手の上にぴょんと乗り移った雛鳥を、俺は顔の前へと持ってくる。
手に顔をスリスリしたり、指を甘噛みしてくるソレを、とりあえず無視して俺は観察を。
最初は雛鳥だと思ったが、四足歩行の時点で鳥とは言い難い。
生まれたての鳥と比較すると、既に目は開いているし、漆黒の体毛も生えそろっている。そして頭には2本の角のようなものがあり、お尻には黒い尻尾も。
「成程、君は龍か」
「ピキ?」
【超嗅覚】…、危険な臭いはしない。
この子に宿る魔力の波も一定、この魔力は俺のものに似ているな。
どうする、殺すか?
いや、でも今の所は特に何も…。
「はぁ…」
とりあえず、様子を見るか。
「ピキ?」
俺はこの子の頭を撫でながら、色々諦めがついてしまった。
死闘をする気満々だったのだが、完全に興がそがれてしまったからな…。
そういえば龍の赤ちゃんは、何を食べるのだろうか。
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――キィィィン!!
「…ネロ様、本日はこの辺にしておきましょう」
「嗚呼。今日もありがとう」
「ネロ様、こちらで汗をお拭きください」
「ありがとう、モネ」
エミリア城内にある、近衛騎士向けの訓練施設。
その一角で、俺は剣術を習っていた。
「ネロ様は剣の腕も抜群ですな。この調子ですと、ご兄弟の皆さまにもすぐに追いつくかと。学園の卒業後に騎士団はいかがですか?」
「皆の教え方が良いからだよ。僕は騎士というのは…、想像できないな。後方でビクビクしながら、魔法で援護させてもらうよ」
「御冗談を。既に一介の騎士では相手になりませんぞ。我ら近衛騎士は、ネロ様のご成長を非常に嬉しく思っています」
「ありがとう。また明日もよろしくね」
「はっ」
今ちょうど、今日の分の鍛錬が終わったところである。
この前の時間には、魔法師団の所にお邪魔をして、魔法をレクチャーしてもらった。
そして、剣術の時間を終え、少し休憩を挟んだ後に、講師を招いて座学の時間が始まる。
ハードスケジュールに見えるが、苦痛に感じることは一切無い。
王子の一人として、このくらいの教育を受けるのは普通のことだろう。
剣も魔法も勉強も、優秀と褒められるレベルには留めている。
暗殺をしていく上では目立たずに、ずっと陰にいるのもアリだが、第三王子という肩書ではその選択が難しい。出来損ないとして、逆に目についてしまう可能性がある。
優等生、性格、愛嬌良しで顔立ちの良い、銀髪の第三王子…という輝かしい光を創り出すことで、夜に動く自分…、ルーチェとの差別化を図る。それが最適だと俺は考えた。
これら二人の人物を同一に連想する者なんて、出てこないだろうから。
「次は…、東の塔で勉学か」
生活魔法を使って全身の汚れを消し去り、次の場所へと移動する。
少し歩くと、色とりどりの花が並ぶ庭へと着く。
近くに誰も…いないな。
「アリア。出ておいで」
「ピィッッ!」
俺の胸元から飛び出してきたのは、『降魔の卵』から生まれた龍。
正確には、俺の影の中から飛び出してきた。
「ちょっと自由時間だ!好きなだけ遊んでおいで!」
「ピィッッ!」
名前はアリア。性別は雌だ。
既に翼で飛ぶことができ、小さな図体でも中々の速度が出る。
彼女の羽ばたきによって花が飛んでしまうため、俺が風魔法によって彼女周辺の風を調節している。
彼女としては、好きなだけ羽を広げて飛べているだろう。
基本的には俺の影の中に住んでいるが、時たま自由に飛ぶ機会を与えている。
影の中の広さはほぼ無限だが、それでも閉鎖的な空間に変わりはない。
彼女は龍なのだから、ずっと中にいるのも流石に息苦しいだろう。
いずれ彼女が大きくなったら、背中に乗せてもらいたいものだ。
「アリア!そろそろ時間だよ!」
「ピィィィ!!」
龍というのは知能が高いようで、俺の言うことを理解できている。
今から帰ると言えば、すぐに戻ってきてくれるのだ。
「アリア。今日の夜まで会えないから、おとなしくしているんだよ」
「ピッ!」
そう言って彼女は、俺の胸元の影へと戻っていった。
今の所、彼女に危険はない。
俺のことを親と認めているらしく、言うことを忠実に守ってくれている。
恐らくだが、ふ化の際に注入する魔力の影響が大きい。
純粋な俺の魔力のみを受けて産まれた彼女は、無差別に災害を起こすようなことにはならない…と思われる。
しかし、いつでも殺す準備は出来ている。そうならないことを祈るばかりだ。
そしてアリアに戻ってもらった理由だが…、時間が迫っていたからではない。
俺のいるところに、とある人物が近づいてきたからだ。
「やあ、ネロ。花を見ていたのかい?」
「これは、テオお兄様。こちらの庭が綺麗だと思い、少々眺めていたところです」
彼はテオ。エミリア国王とクロー王妃の間に産まれた第一王子で、俺の兄にあたる人物だ。
彼と第一王女である姉の二人は、王都にある学園の上級生にまで進級し、今は長期休みで王城に戻ってきている。
普段は、学園の近くに存在する別荘に住んでいるのだ。
エミリア王家の血を色濃く受け継いでいるのは、彼の金色の髪が物語っている。
それ以外の見た目は…、爽やかイケメンといったところか。
彼の笑顔の背後には、いつも華が咲いて見えるようだ。
「お父様にお母様、騎士の者からもネロの話は聞いているよ。毎日頑張っているそうだね」
「自分はまだまだです。いずれお兄様、お姉様方の背中が見えるよう、努力してまいります」
「あまり無理はしないように。ネロが気負うことは何もないのだから」
「お兄様もお身体に気を付けてください。少々疲れが溜まっているご様子ですから」
「やっぱりわかってしまうかい…?どうも僕の方はやることが山積みでね…」
このまま行けば、次の国王は彼だ。
恐らく、国政といった様々な勉学を叩き込まれているのだろう。
数年後には自分が国を背負っている…という重圧もある。
そういう臭いが、彼からするのだ。
危うく、学園の生徒会長もやる羽目になりかけたが、そこは第一王女の方が背負ってくれたらしい。
しかし、副生徒会長の役職に就いてしまっているため、結局忙しくなっているだろう。
別れ際に彼の体内の魔力を弄らせてもらった。気休め程度だが、少しは疲れが減るだろう。
本話も読んでいただき、ありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522