2-2 5歳になって
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「ネロ様、おはようございます」
「おはよう、モネ。今日も清々しい朝だね」
俺はもう少しで5歳…というところまで成長した。
普通に歩けるようになったことは勿論、コミュニケーションも自由にとることができる。
俺のメイドである猫獣人のモネは17歳、出会った時よりも体の凹凸がはっきりとなり、グラマラスな美人に。この世界では割と早い年齢から結婚相手を見つけることが多いため、17歳…ともなると、そろそろ相手を探しても良いころ。
この国は多種族国家で、違う種族同士の結婚も可能だ。彼女に言い寄る男がいてもおかしくはないと思うのだが。
「モネ、少し髪を切った?」
「…!よくお気づきで!」
「毎日会っているからね。ちょっとした変化も見逃すはずがないよ」
「ああああありがとうございます!私っ、とても嬉しいです!」
恐らくは人間観察技術の賜物。
癖になり過ぎて、特に技術とは言えないまでになってしまったが。
朝起きたらまず、服を着替える。寝間着を脱ぎ、少しカジュアルな服装へと変身するのだが、この時普通の王族や貴族の子供は、脱いで着るまでの工程をすべて使用人にやらせるのだ。
しかし、流石にそれに慣れることはできず、早々と自分でするようになった。
毎回、手伝おうと手をわきわきさせているモネを尻目に着替えなくてはならないが、気にしなければ良いだけのこと。
初めて着替えをすべて自分でやると彼女に進言した時、世紀末のような表情をされてしまったのを今でも明細に覚えている。
流石に服を洗濯する…まで俺がやってしまうと、王族としての威厳があまりにも無くなってしまうため、脱いだものは彼女に渡している。
この辺は、塩梅が大切だろう。
「お願いするよ、モネ」
「承知しました、ネロ様」
俺から寝間着を受け取った彼女は、軽く一礼をして部屋を出る。
扉の外で、彼女が俺の服に顔面を突っ込んでいるのは知っているが、今更である。
そして、大きな部屋で一人になった瞬間に。
「【クリーン】【フレグランス】」
生活魔法の【クリーン】と【フレグランス】を発動させ、全身を一気にキレイにした後、香りづけをする。
香りはアンナの好きな花である薔薇を参考にし、他にも色々混ぜたものをつけている。時間が経つにつれて香りの変わる、地球の香水と同じ仕組みだ。
「うん、スッキリ」
王族は、清潔感を保ってなんぼだと思う。城内はともかく、外に出た際は多くの人々に見られるのが役目の一つであるから。
生活魔法を選んで、本当に良かった。
突然だが、俺が住んでいるエミリア王城は、東京ドーム何個分という表現を使うに正しい程の規模を誇る。
城ではあるのだが、要塞とも言える程に強固な作りと、複雑な区分けがされており、初めて城内を回った時はとても感心したものだ。
俺なら直にマッピングと暗記が可能だが、普通の人間なら難しいだろう。
ここが異世界だとしても、地球の知識と通ずるところはある。
同じニンゲンだという証なのではないだろうか。
朝はよく、エミリア城内を散歩することが多い。
王族が住むエリアよりは、騎士や魔法師、使用人が多いエリアを訪れる。
彼らと有効な関係を築くのも、今後のことを考えると大切なことだ。
俺がどういう人間か、そのキャラ設定を定着させる必要がある。
「ネロ様、おはようございます」
「おはよう、今日もお勤めご苦労様」
「はっ!身に余るお言葉です!」
通りすがりの騎士に挨拶すると、大体こんな感じ。
正義感に溢れ、堅物が多い…という印象を受けなくもない。
王族に使える、所謂近衛騎士という立場は、そういう者が適任なのだろう。
毎日、彼らから剣を教えてもらう時間が取られている。
エミリア国に代々伝わる剣術であり、型がしっかりとしつつ、十分に実践に役立つ技術であり、俺にとっては新鮮な経験。騎士を多く輩出する血統であるため、剣術の修行は必須項目だ。
「あ、ネロ様。今日もお散歩ですか?」
「今日は天気が良いからね。また今度、魔法を教えてほしいな」
「え~、ネロ様の吸収が早いせいで、すぐ置いていかれそうなんですもん!」
「それはきっと、教え方が良いからだよ」
「くぁ~!素晴らしい落とし文句ですね!」
これが、魔法師との会話。
騎士よりちょっと緩い感じだが、それでも実力者揃い。
『炎華』のアンナの息子ということもあり、魔法師と関わることも多い。
魔法の使い方について、いろいろ学んでいる。
独学で魔法を習得してきた俺にとっては、この世界に学問として定着している魔法の知識を吸収するのも、新たな発見を得る機会となっている。
自分では気づかなかったが、なるほど確かに…というものは、深夜に影の中で実験をしている。
「あらあら、ネロ様!今日も可愛らしいッッ!」
「ネロ様!私と手をつないで城を歩きましょうか!」
「…おっふ。あの服装もすんばらしい…」
このカオス軍団がメイド達。
俺が自分から頻繁に彼女たちに話しかけるため、ほかの王族達と比べて距離感がバグりつつある。
王族が使用人に雑談を持ち込む…というのは、やはり珍しいのだ。
しかし、友好関係を気づくのに手っ取り早いのはコミュニケーションだと、俺は知っている。いくつかの企業に潜入した際に得た経験が、ここで生きているといえよう。
一つ面倒なことがあるとすれば、一人のメイドに話しかけると、ほかのメイドが沢山集まってくることだ。
「ネロ様!おはようございます!」
「嗚呼!今日も良い香りがっ!」
「…とりあえず、私の胸に飛び込みませんか?」
ほら、いっぱい来た。
表現が悪いかもしれないが、ゾンビ映画並みだ。
彼らは大きな物音に反応しがちだろう?
俺の場合は雑談の声と【フレグランス】の香りが、彼女たちを引き寄せている。
「今から朝食だからね、この辺で失礼するよ」
そう、実はそんなにゆっくりしている暇はない。
毎日家族全員で朝食をとることになっているからだ。
――前世でも、これが日課だった。
臭いが強くなるほど、俺にとってはつらい時間へと…。
「…ネロ様、どうかしましたか?」
「…あ、なんでもないよ。それじゃあまたね」
…表情に出ていたか。気を抜きすぎだ。
しかし、どうも前世のことを考える表情が固まる癖がある。
これは無くす努力をしなくてはならないな。
そう考えながら歩いていたところ、広間が近くなってきた。
俺は第三王子であり、末っ子。
現状は一番下の立場であるため、最初に着いてなければならない…という文化はここには無いらしい。
しかし、謙虚さのアピールに少しは貢献するため、自分独自にルールとして律儀に守り続けている。
広間に入ると、既に数人の使用人が立っていた。
「「「おはようございます、ネロ様」」」
「おはよう、みんな」
入った瞬間に、全員から挨拶をされる。
今では慣れたが、最初は身体がびくっとしたものだ。
さて、次にやってくるのは…
「クローお母様。おはようございます」
「あらら。ネロは毎日、一番に来て偉いわね」
「まだまだ若輩者ですから。お母様方をお待たせするわけには参りません」
「ふふっ、本当にできた子ね。何故アンナから生まれた子供がこう成長するのか、とても謎だわ」
「――聞こえてるよ~~!」
俺の次にやってきたのは、クロー王妃と俺の産みの母親であるアンナ。
「あら、アンナ。私は別に何も言っていないわ。あなたがガサツな火力馬鹿なんて」
「付け加えちゃっているじゃないの!」
彼女たちが繰り広げているこの会話は、決して喧嘩ではない。
あくまで、仲良しの延長線上である。
「ネロ。是非、今のあなたを大事にしてね」
「ネロ!クローの話は半分にしておいて良いからね!いずれ私のような、立派な火属性魔法の使い手にしてあげる!」
「立派ね…。火力を間違えてメイドに怒られたのは、どこの誰かしら?」
「ギクッッ」
「お母様。先日、モネが零していましたが…」
「ネロまでッッ!?」
ガーンという効果音が似合いそうな表情をするアンナ。
クロー王妃や同じ側室のマリアナと比較すると、少々豪快といったところ。
しかし、俺は彼女のそんなところが好きである。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522
M-1を敗者復活戦から全て見ました。
YouTubeで一回戦からチェックする程に好きなのですが、今回も面白かったですね…。
まだその熱が冷めないので、アマプラで過去のM-1を見倒したいと思います。