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1-4  俺は誰を殺せばいい?

いつも読んでいただきありがとうございます。


感想やいいね、ブックマーク登録等よろしくお願いいたします。

「それでは今から、ルーチェには力を授けますね。選択した3つのスキル…、【影魔法】【生活魔法】【予見眼】に加え、私から()()も与えさせていただきます」


「ありがとう、スピラ。よろしく頼むよ…、って加護?」


「私は()を司る神です。ですのでそれに関わる恩恵が多いですね。傷の治りが早かったり、老いが遅かったり…後は聖とは反対に属する闇への耐性も強くなりますよ!」


 それは俺が選んだどのスキルよりも強力なのでは?


「後は、人や動物といったあらゆる生物に好かれやすくなります!」


 それは…、どうなんだ?

 ありがた迷惑な恩恵じゃないだろうか。


「言うなればあなたはスピラ神の使徒です。そのくらいの力は与えさせてくださいな」


「断る理由は無いよ。ありがたく頂戴する」


 そう言って俺は立ち上がり、彼女の正面へと立つ。


 目を閉じ、全身の力を抜いてほしいとのことだ。


「それでは参ります。





――【スピラ・グエリエロ・フォルトゥナ】」





彼女がそれを口にした瞬間、俺は一瞬にして意識を手放した。









________________________________________








「…ん?」


「あ!目を覚ましましたか!半日ほど寝ていらっしゃったのですよ!」


 半日…、結構経っているな。


 最後の記憶は、彼女に能力を授けてもらって…。


「無事に成功ですよ!3つのスキルと私のご加護が、あなたの身体に宿りました!意識を失ったのは、そのための魂がまだ完全にはできあがっていなかったからです」


 嗚呼、確か魂だけがこの世界にいるといっていたな。


「既にルーチェさんは魔力を宿した身になっています。魔法も使うことができるんですよ!」


 ふむ。実感が全くない。

 特に以前までと変わった部分があるかと問われると…。


「その辺は練習してみないと何とも…」


「そういうと思いましたよ!ルーチェには、この空間で好きなだけ練習をしてもらいます!」


 そう言って、スピラは指をパチンっと鳴らす。


 直後、目の前にドアが出現した。

 一つではない、いくつものドアがザっと現れたのだ。


「おおっ!」


「驚きましたか?これも私の力…、神様の力なんですよ。それぞれのドアを開けてみるとわかりますが、様々な場所に通じています。森林地帯、砂漠地帯、山岳地帯、氷河地帯…。荒野や海のエリアも存在します」


「これらは、地球のどこかというわけではない?」


「地球でもなければ、転生先の異世界でもありません。すべて架空の世界…、バーチャル世界と捉えていただけるとわかりやすいかと」


 凄いな。つまりいろんな場所で実践の訓練ができるってことか。

 様々な環境に適応するのは、暗殺における基本前提。この場所でしか人を殺せない…なんてことはあってはならない。

 数十階もの高さのビルから地上にいる標的を暗殺する技術と、その逆の自分が地上から上の標的を暗殺するの両方が必要なように、どんな状況に陥ったとしても自分のやりたいことを押し通せる力が重要。

 

 たとえ何処だとしても、自分の型に無理やり持っていく…、その力が必要だと俺は学んだ。


「ふふっ、また暗殺のことを考えてはいませんか?」


「あっ、そうだな。どうもそこを基準に考えてしまって」


「うーん、そうですね。これは依頼に条件を足さなければならないかもしれません…」


「条件?」


「ええ。仲間を沢山作るという条件を。都合よく、私スピラ神の加護によって、人に好かれやすくなっています。この際に友達を沢山作るのはどうでしょうか!」


「ええ…、動きにくくなるじゃないか」


「それは夜で良いんですよ!普段の生活では、普通の子供でいることも重要なことです!もちろん演技ではなく、素でコミュニケーションが取るべきです!」


 俺は別に、コミュニケーション能力が欠如しているわけではい。

 むしろ得意な方だ。潜入の類もいくつかやってきたし。


 しかし、それらはすべて演技。


 素で誰かと仲良くなるなんて…、そんな経験はあるだろうか。


「とにかく!依頼の条件に組み込みますね!私は上から見ているので、胡麻化したりはできませんよ!」


「ターゲットの暗殺さえできれば良いなら、俺はそれを守るとも限らなくないか?」


「だから、依頼の一部にしたんですよ。そうすればルーチェは、律儀に守ってくれるでしょう。あなたはそういう人ですから」


 成程ね。俺がそれほど真面目だと見たわけか。


 …まあ、その通りなのだが。


「まあ、善処する…って言っておくよ」


「ええ!せっかくの第2の生なんです。今までとは別の生き方も少しは経験してください。それでこそ、転生させ甲斐があるというものです!」


「そういうものなのかね…」


「そういうものです!」


 よくわからないが、条件として提示されたんじゃしょうがない。

 仲間を増やす…ね。転生してから考えてみよう。


「ここでは、どのくらいの時間を費やしていいんだい?」


「この空間は地球や異世界の時の流れに全く干渉しないので、いくらでも大丈夫ですよ」


「そっか…。それじゃあ半年くらいここでお世話になろうかな」


「何故半年なのか、聞いてみても?」


「俺が彼女に拾われて、初めて人を殺した時までに費やした時間だ。その期間は結構辛かったけどね」


「嗚呼、確かにそうでしたね…!わかりました。このドアは半年間、解放することにしましょう」


「ありがとう、助かるよ」


「お構いなく。それでは半年後にまた会いましょう。私は少しここから離れることにします。神様としての仕事が残っていますので」


「わかった。それじゃあ、半年後に」


「ええ。楽しみにしています!」


 そう言って、彼女は姿を消した。

 霧の中に紛れていくように、忽然と。


「さてと…」


 ようやく、一人になれた。


 考える時間が必要…、じゃないな。

 考えるより先に行動。自分の尺度で計り知れない事象が起きたら、もうワンサイズ大きい物差しに変えればよいだけのこと。


 神様だの、異世界転生だの。

 嘘じゃないとわかっているのなら、ただ呑み込むだけで良い。

 

 自己完結すれば、すぐに終わる話だ。


「半年間、ここで修行だ」


 彼女に拾ってもらった時のように、俺はスピラに拾ってもらった。

 

 ここからまた、始めよう。








________________________________________









「お久しぶりです、ルーチェ」


「久しぶり…でもないんじゃないか?」


 沢山のドアが並ぶこの空間、俺とスピラは再開した。


「え…、半年ぶりじゃないですか」


「確かにそうだけど…、ずっと俺のことを見ていただろ?」


「…何故それを?」


「魔力の使い方が上達していくにつれて、スピラが俺のことを観察しているのがわかるようになっていったんだよ」


「えっ!?私、神の力を使って見ていたんですよ!?感知できるものなんですか!?」


「できるも何も、できちゃったんだからしょうがないでしょう」


「成程…、これほど成長するとは思ってもみませんでした。魔力の量と質も、桁違いですね」


「隠蔽は結構拘っているのだけど…、スピラにはバレちゃうか」


「私、神様ですから!これで汚名返上ですね!」


 別に、汚名を被るまではいっていないと思うのだが。


 この半年間、俺はひたすら鍛錬し続けた。

 授かった3つのスキルはもちろん、魔力を使用した体の使い方を身体に染み込ませた。


 勿論、鍛錬に終わりというものは存在しない。

 いくら時間をかけても、足りるということはないだろう。


 しかしいつまでもここでお世話になっているわけにもいかない。


「火と風の魔法は…、転生して身体を手に入れてからかな」


「そうなってしまいますね。しかしルーチェならば、直にマスターしてしまうことでしょう」


「そうだと良いね…。努力は惜しまないでいくつもりだよ」


「ええ。期待しています」


 そう笑顔で答える彼女からは、何か寂しさを含んだ臭いを感じ取った。

 俺がこの空間にいるのも、残り僅かだから…かもしれないな。


 しかし、俺はそろそろ前に進まなくてはならない。


 最も重要なことを、俺は聞いていないから。

 

 俺には、彼女によって異世界へと転生する意味を知る義務がある。


「スピラ。最後に、暗殺の標的を教えてくれるかい?俺はこれから異世界へと転生して、誰を殺せばいい?」


 俺は彼女の目をじっと見て問うた。


 これは暗殺の依頼。


 依頼を受けるのは、これが最初で最後だろう。

 もう、十分な報酬を前払いさせてしまった。


「標的は……。








――私の姉です。










本話も読んでいただきありがとうございました。

作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522


先日スーパーの総菜売り場で、円盤餃子とアップルパイを見間違いました。

もう終わりかもしれません。

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