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3-8  整う基盤

いつも読んでいただきありがとうございます。


感想やいいね、ブックマーク登録等よろしくお願いいたします。

 俺の誕生日会まで、あと一か月という所。


 貴族社会に出ていなかったために表舞台の人脈という資源がなく、ルーチェとしての基盤もままならなかったのが約一年前の話。


 しかし、冒険者ヴェ―ルの面を作ったり、ネーヴェ、アルミネ、ミレーナの3人を仲間に入れたり、侍医イヴァによる医療活動に力を入れてきたことで、俺の周辺環境は大きく変化した。


 まず、俺の顔と名前を知る貴族が、既に多くいるということ。


 これは偏に、侍医イヴァの活躍が大きい。


 ダダーニュ男爵を始め数多くの貴族の所を回ったことで、彼らに恩を売ることができた。


 俺達が訪れた所は医師に多額の金を払えない者が多かったため、あまり裕福でない家が多い。


 そのため医療行為に対する報酬としては、ダターニュ男爵の時のように誕生日会への出席や、その土地の特産品を少し頂く程度に留めた。


 というか、それ以上のものは普通にいらなかった。


 普通、王子が来た際は土地をあげて歓迎し、最大限のもてなしをしなければならないのだが、それらすべてを省くように前もって断りも入れておいた。


 長々しい挨拶やパーティーといった式典も全カット。


 理由はもちろん、そこにかかる費用も馬鹿にならないから。


 勿論、単純に面倒だからという点もある。


 丁重なもてなしをしなければ我が家の品格が…と気にする暇も無さそうな家を選んだ節もあるので、より円滑に活動を進めることができたと言えよう。


 そして、これらの活動による恩恵は非常に大きく、貴族社会における俺の味方はドンと増えた。


 以前は、俺の髪色や魔法師の血に対する声が散見されたが、今ではかなりの少数派。


 元々王家と懇意にしていたミフェンサー伯爵家とも接する機会があったため、俺の誕生日会は何の問題もなさそうだ。


 マスターから裏における第三王子の情報も得たが、特に食い違いはなかった。


 約一年間、少々ハイペースでの活動であったが、良く立ち回ることができたと思う。







――というわけで、今日はルーチェとしての活動はおやすみ。


 影移動で拠点に移動し、自室のベッドでくつろいでいた。


 今は部屋に完全に一人で、普段から俺の懐に潜んでいたアリアはいない。


 実はこの屋敷を買ったと同時に、広間にアリアの寝床も用意したのだ。


 最初は渋っていたが、ネーヴェ達の案で俺の衣服を大量に詰めたところ、大喜びでその寝床を使い始めた。


 え、それでいいのか?と疑問に思ったが、彼女が非常に喜んでいる様子なのでこれ以上疑問を抱くのも無粋だろう。


 それで安眠生活が楽しめるのなら、俺は嬉しい限り。


 寝るドラゴンは育つのだから。


 また俺が屋敷にいる間、ネロがいるはずの所には影魔法で作ったダミー人形を置いている。


 今の所バレていないし、俺の部屋に誰かが入った瞬間に【シャトー・トランス】で移動する算段もついている。


 さて…。今日は珍しく、多めの睡眠をとろうか…。




――コンコンッ




「誰だ?」


「私よ」


 俺の部屋を訪れたのはアルミネだ。


 風呂上りなのか、彼女が部屋を入った瞬間に俺の鼻腔を花の香りが通った。


 既に寝間着に着替えており、長い白髪はゴムで結び、普段の凛とした恰好とは異なる少しラフな姿。


 彼女が一人で俺の部屋を訪れるのは珍しい。


「どうした?」


「まだ起きてると思って、来てみただけよ」


「嗚呼。今日は特に動く予定が無かったから、今から寝ようと思っていたところだ」


「あ、そう…。それじゃあ失礼したわ…」


 そう言って、彼女は部屋を出ていこうとする。

 

 しかし、俺は彼女の足を止める。


「アルミネ」


「…ん?」


「一緒に寝るか?」


「…へ?」









________________________________________









 俺のベッドには、二人分の体重が乗っていた。


 仰向けになっている俺の傍らで、アルミネは反対を向いて横になっている。


 彼女の長い白髪は、とても良い香りがする。


 既に十数分が経っているが、俺は眠れないでいた。


 彼女も同様。興奮と困惑が入り混じった感情が、彼女の頭をぐるぐるとかき乱していた。

 

「…アルミネ」


「…何よ?」


 俺が声をかけると、彼女は身体を少しビクンとさせた。


 話しかけられると思っていなかったようだ。


「眠れないのか?」


「いいえ…、今すぐにも眠れるわ」


「そうか」


「あなたは?」


「すぐに眠れると思ったんだが…、これは寝れそうにないな」


「…なんで?」


「生まれてこの方、人と一緒に寝た記憶が全く無くてね。どういうものかと思ったが…、どうも脳が起きてしまって」


「生まれてって…、あなたまだ6年経っていないじゃない」


「ふふっ、それもそうだな」


 俺が物心ついた時、既に俺以外の家族全員が表で活躍していた。


 記憶が無いのではなく、本当に寝たことが無いのだと思う。


 恩人の彼女と共に寝たこともないな。


 そもそも、彼女の皮膚に触れたことがあっただろうか。


 彼女の体温を感じたことがあっただろうか。


「ルーチェは…、年相応な部分が全く見当たらないわね」


「そうか?」


「当たり前でしょう?6歳なんてまだ善悪の区別がつかない奴だっているわ。王子としての教育を受けてきたにしても、考え方が大人すぎよ」


 確かに俺の行動に、6歳児らしいものなんて一つも無い。


 王子の時はそれらしい演技をこなしているが、ルーチェとヴェールの面を知っている彼女達にとっては異質な存在に写っているだろう。


 転生のこと…、言うべきだろうか。


「なんで…」


「…ん?」


「なんで、一緒に寝ようって誘ってきたの?」


「嗚呼。そうだな…」


 何故、彼女にこんな誘いをしたのか。


 これには明確な理由があった。


「最近、アルミネと共にいる機会が減っていたからな」


 ネーヴェとミレーナは、第三王子たる俺の側近として一緒にいる。


 対してアルミネは、外で動く際はヴェールとして冒険者活動をするのが大半で、単独での行動が多かったのだ。


 ミレーナがイヴァとして行動を初めて1か月程度が経つが、彼女の心情の中には、寂しさが目立つようになった。


 あとは…、少し別の感情。


 重い…、鉛のようなドロっとした何かを、俺の【超嗅覚】が捉えていた。


 どす黒いモノに変貌する前に、ケアをしておきたかった。


「一人だけにしてしまうことが多くて…、申し訳ない」


「…別に気にしてないわ。私は長い間、一人で放浪していた。今更寂しさなんて感じるわけないでしょう」


 ネーヴェから聞いた。


 奴隷として捕まっていた時、自分を励ましてくれたのは彼女だったと。

 

 ミレーナから聞いた。


 俺に追い付くがために、誰よりも鍛錬に励んでいるのは彼女であると。


 彼女はとても、意思が強い。


 だから強がって見せることが多く、本心が別であることを俺は知っている。


「俺にできることは少ないが…。アルミネのためなら何だってするからな」


「…ええ。わかったわ」


 俺は他人の心が読める。


 だが、()()()()()だ。


 他人に親身になって寄り添うのは…、少し苦手だ。


 俺は不器用な人間だから、何を求めているのかを直接言ってくれないと、わからないことが多い。


 多くの人と絡むようになった今世から、特にその欠点が浮き彫りになった。


「ルーチェ」


「どうした?」


「…そっち向いて寝ても良い?」


「…嗚呼。いいよ」


 仲間というものを得たからには、俺も成長しなくてはならない。


 少しずつ、仲間の想いに寄り添う人間になれるように。









________________________________________









 翌朝、俺は目が覚めた。


 ゆっくり体を起こそうと思うが、何故か身体が動かない。


 まるで、俺の上に誰かが乗っかっているような。


 俺はやけに膨らんだ布団をはいだ。


「…え?」


「…すぅ」


 そこにいたのは、まさかのミレーナだ。

 

 何故か、彼女は俺の身体の上で爆睡をかましている。


 そういえば、アルミネは…。


「…あれ?」


 彼女が寝ていたはずの方に顔を向けたが、姿が見当たらない。


「…む?おはよう、旦那様」


「おはよう、ミレーナ。そんなことより、何故お前はここにいるんだ?」


「昨夜、部屋に侵入したからに決まっているだろう」


「それはそうなんだが…。横に寝ていたアルミネは?」


「嗚呼。変態雌龍人は床に落としておいたぞ」


「はい!?」


 俺はベッドの下を見た。


 そこには、床でぐっすり寝ているアルミナの姿。


 随分と…、幸せな夢を見ているような表情だ。


「おい!アルミネ!」


「えへへ、ルーチェ良い匂い…。一生離さない…。…うう?」


「アルミネ、おはよう」


「あ、ルーチェだぁ。おはよ…はいぃ!?」


 随分と寝ぼけている様子だったが、ようやく現状を理解した様子。


「なんで私、床に寝てるの!?ミレーナはなんでルーチェの上にいるの!?」


「それはこいつが…」


「私は旦那様と熱い夜を過ごしていたんだ」


「熱い夜ですって!?」


「いや、違…」


「嗚呼…。二人で危うい一線を何度も反復横跳びしたよ。ほら、これがその証拠だ」


 そう言って、彼女は被っていた布団を完全にはいだ。


 すると、彼女の身体が…。


 服を着ていない!?


「…なっ!?」


「甘い愛の言葉も、私の耳元で何度も囁いてくれたんだ。『ミレーナ。ずっと俺の傍にいてくれ』とな…」


「そんなこと言ってな…」


「わ…私はそんなこと言われていないわッッ!」


「私は旦那様の正妻だからな…。やはり愛の重さが違うんだろう。ふふふっ、旦那様は私のことが好きすぎるんだ…。その重い愛に、私はさらなる愛で応える…。さあ、旦那様。第二ラウンドといこうかッッ」


「ええい!ルーチェから離れなさい!」


「嫌だね!私は立派なきつねうどんになるんだッッ!」


「どういう意味よ~~!!!」


 嗚呼、平和だ。


 二度寝しても、大丈夫だろうか。


 決して、現実逃避などではない。


 断じてない。












本話も読んでいただきありがとうございました。


作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522

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