3-7 魔物化
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「【セイクリッドフラム】」
俺が使用したのは、火属性魔法【セイクリッド・フラム】。
この魔法は火属性魔法に属されているが、根本となっているのは生活魔法【クリーン】。対象に浄化の炎を纏わせる魔法だ。
呪いを祓うのは勿論、傷の治りが早くなるといった回復魔法の機能もある。
ネーヴェの時は【クリーン】を使ったが、ネロの姿でも矛盾が起きないように、火属性魔法として体現できないかと考え、この魔法を考案したのだ。
彼女を包み込む浄化の炎は、呪いを燃やし尽くすまで消えることはない。
俺の生活魔法に魔物化を浄化する効果があるのは、恐らくスピラ神の加護の影響だ。
エミリア王城に勤める者の中に、生活魔法のスキルを持つ使用人がいるのだが、彼らの魔法を目撃した際に自分の生活魔法とは魔法の質が根本的に異なることがわかった。
その違いは、俺の魔法にスピラ神が司る聖の属性が混じっていること。
聖の属性というのは、俺の火や風と同じように生まれつきの属性となる。
俺は先の二つしか適応していないため、本来聖が混じることなどありえないのだ。
そのため、人前で使えるためにはカモフラージュが必要。
「殿下…!娘は大丈夫なのですか!?」
「嗚呼、問題ない」
「ですが…!娘の身体に火が…!」
「よく見ろ男爵。衣服や布団は燃えていないだろう?」
焦る彼に対し、イヴァは冷静に説く。
彼女の言う通り、この魔法は病や呪いのみを燃やす。
普通の火みたいに木を燃やすことはできないのだ。
徐々に彼女を包んでいた火が小さくなっていく。
そして、魔物化していた部分が綺麗な肌へと生まれ変わっていく。
「嗚呼…!クラウディア!!」
「施術成功だな」
魔物化の症状が消え、そこにいたのは美しい少女。
クラウディア・ダターニュ…、確か俺と同い年。
こんな幼い身体で、蝕む病に耐え続けていたのか…。
今は眠っている様で、呼吸も安定している。
しかし、今後再発する可能性が無いとは言いきれない。
俺は懐からあるものを取り出した。
「ダターニュ男爵、これを」
「…これは?」
「自作のペンダントだ。先の魔法が込められた石を加工したもので、着けることで呪いの再発等を防ぐだろう。是非、彼女に着けてあげてくれ」
「そんな素晴らしい物まで…!」
「しかし、このペンダントの効力は半年間だけだ。半年後、また私がこの石に魔法を付与する必要がある」
「ネロ殿下…、ありがとうございます…!!」
彼は目に涙を浮かべながら、俺に頭を下げた。
娘は奇病で寝たきり、妻は病に伏してしまった。
彼は一人で、この男爵領を支えていたと言っても過言ではない。
「そしてダターニュ男爵。今回の治療の費用だが…」
「…はっ!何を捨ててでも私が全てを払います!」
「嗚呼、金銭じゃない。その代わりに私の頼みを一つ聞いてほしい」
「…といいますと?」
「半年後、私の6歳の誕生日会がエミリア王城にて開かれる。そこに、家族全員で参加してくれ」
「へ…?いえ!私は元々ネロ王子の誕生日会には参加する予定で…」
「一人で…だろう?私は家族全員でと言ったんだ。男爵は勿論、夫人にこのクラウディアも。是非、元気な顔を見せておくれ」
「ですが!それではお礼として…」
「…いいな?ダターニュ男爵」
俺の問いかけに対し、彼は一瞬目を丸くしてこちらを見た。
しかし、意味を理解したのか、再度深く頭をさげる。
「仰せのままにッッ!!」
「…半年後を楽しみにしている」
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「ネーヴェ、ミレーナ。今日もありがとう」
「お礼なんて言わないでください。私はやりたくて使用人をやってますから」
「私も自分の力が役に立って、とても良い気分だ。侍医イヴァの活動には満足しているよ」
夜、俺たちは王都の拠点に影で移動し、広間でくつろいでいた。
「ネーヴェ、早速だが聞いていいか?」
「ええ。何なりと」
「それじゃあ…、ネーヴェはあの呪いを誰に、何処で、どのようにかけられた?」
彼女の過去について、俺はある程度知っている。
しかし、呪いについては家族に裏切られたという情報で止まっていたのだ。
俺が続きを聞かなかったからというより、彼女が言いたく無さそうであったから。
彼女は自分の過去を語るとき、負の感情を多く抱いてしまう。
普段のニコニコと使用人の責務を全うする彼女とは正反対。
だから、俺も普段は彼女の過去を聞くことはしないし、何かを連想させてしまうような発言もしない。
「私は以前、家族に裏切られたと言いました。具体的には、私の姉…、森王国フォレスタの第一王女と第二王女に嵌められたのです。理由は私への嫉妬。私は魔法の才があり、勉学も長け、見た目も整っている方でした。そのため、私が次期女王になるべきだという声が、所々から出るようになったのです」
「ふむ、道理だな」
「ある日、私は姉達に呼び出されました。場所はフォレスタ王城の敷地の中でも端の場所。何故そんなところで…という疑問はありましたが、私はその誘いに乗ってしまいました」
「俺でも行くだろうな」
「私もだ」
「ええ…、実の姉の誘いですから。しかし、警戒を怠った私が悪かったのです。今では絶対に不覚をとりませんが、あの時は後ろからの接近に気付きませんでした。後頭部に強い衝撃を受けたと同時に、私は気を失いました」
ネーヴェは悔しそうな表情を浮かべる。
その後に味わった苦しみを知っているが故だろう。
「そこからは…、申し訳ありませんが記憶が混濁しているのです。気づいたら醜い身体となり、森の中を必死に走っていました。何故私がこんな姿で、どこに向かって走っているのか、答えを導くことのできる疑問は何一つありませんでした」
【超嗅覚】からも、彼女が嘘を言っていないことがわかる。
本当に、その時の記憶が無いのだ。
「私の意識を奪ったのが姉なのか、別の者なのかはわかりません。しかし、彼女達に嵌められたということだけはわかりました」
「断言は難しいが、その可能性は高いだろうな…」
「その後、私はとある小さな村へと逃げ込みました。ローブで魔物化した部分を隠し、食事と寝床をなんとか恵んでもらったのです。とても…、優しい方々でした」
「そうか…、良い出会いがあったんだな」
「ええ。ですが、魔物化は進み、ローブでは隠しきれないほどに身体が変化していきました。その時、村にやってきたのがあの男達だったんです」
「…西の連中か」
「その通りです。村の人たちは全員殺されました。私は魔物化によって体内の魔力を上手く扱えず、魔法を行使できない身体でした。ただ…、私に食事をくれた彼らが殺され行く景色を見ることしかできませんでしたッ…!」
手を震わせ、唇を噛みながら、涙をこらえる彼女。
その様子を見たミレーナは、そっとネーヴェの近くに寄り添った。
そっと頭を撫で、狐の尻尾を背中へと回す。
聖属性の魔法を使わずとも、気配りで人を癒すことができるのが彼女だ。
ネーヴェは少し気が和らいだのか、少し笑顔を浮かべながら話を続ける。
「私は殺されず、首輪をかけられ奴隷となりました。慰み者として、醜い容姿を好む者もいる…と連れていかれたのです。その時に私を捕らえた男…、村の人々を殺しまわった男は、ご主人様が殺してくださりました」
…恐らく、彼女達の部屋にいた見張りのリーダーだろう。
背後に回って首を一刈り…だったと記憶している。
「えへへ…、あの瞬間のご主人様が一番カッコよかったです。後は私の呪いを消してくださった時ですね。背負っていた物全てを、ご主人様が無くしてくださったんですよ」
「そうか…、ネーヴェの役に立てたのなら幸いだ」
「第二の人生を頂いたのです。役に立つ…なんてレベルじゃありません!」
彼女の今の笑顔は、本心からきているものだ。
過去は消えなくとも、少しずつ新しい思い出で塗り替えられている。
そんな彼女を見ると、あの時に動いて本当に良かった…と思える。
「ありがとう、ネーヴェ。君にとって辛い過去だろうけど、貴重な情報をもらったよ」
「いいえ。私はご主人様…、そしてミレーナとアルミネに支えられて今があります。これからも何なりとお申し付けください」
少し目を赤くしながら、彼女は笑顔でそう言った。
嗚呼、本当に良い笑顔だ。
「旦那様。魔物化については情報を集める必要があるな」
「そうだな。直ぐに動けるわけではないかもしれないが、情報収集は努めていこう」
「そうですね。もう、私と同じ苦しみを味わう者を出したくありませんから」
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作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




