3-6 侍医イヴァ
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「ネロ・ディ・エミリア第三王子、そして皆々様。本日はわざわざご足労頂き、誠にありがとうございます…!」
「お出迎えありがとう、ダターニュ男爵。貴殿の大事な奥方のためなら、我らはいつでも動くよ」
「…ははっ!感謝申し上げます!」
ここはダターニュ男爵家。
エミリア王都から東に数十キロ移動したところにあるダターニュ領にある屋敷だ。
ここにいるのは俺の他に使用人のネル、護衛の騎士を数人。そして…。
「お初に目にかかるよダターニュ男爵。私はイヴァ。殿下の侍医をやっている者だ」
一礼とともに挨拶を述べた彼女は人族のイヴァ。
ではなく、俺の契約聖霊ミレーナである。
【偽装の耳飾り】によって耳と尻尾は見えなくなり、髪の長さも短くしている。
俺がプレゼントした眼鏡も相まって、普段とはまた違った雰囲気を醸し出している。
「イヴァ様のお噂はかねがね伺っております!流行病に苦しむ村を復興し、重病を患った子供を完治させ、エミリア王国の医療に最も貢献されている、麗しき美女だと…!」
「随分と大層な噂だな。私はネロ様に拾ってもらった一人の女に過ぎんよ」
オーバーに聞こえるかもしれないが、全部本当のことだ。
聖の魔法を利用して何かができないか…という彼女の悩みから俺が提案したのは、ネロの侍医。
つまり、お抱え医師になるというものだった。
王家に仕える医療班は既にいるのだが、イヴァは俺が王都でスカウトをした第三王子専門の医師という存在。
エミリア国王並びに家族の説得もすんなり行き、無事に俺の侍医となったのだ。
そこから約一か月、俺の公務と題して色々な場所に赴き、彼女の力を使って様々な治療活動を進めてきた。
一か月でこれほど大層な噂が流れるほどに頑張ったのだ。
おかげ様で今では国の各地から彼女に助けを求める声を頂いており、全部を回ることは難しくとも、少しずつ解決していこうと取り組んでいた。
「さっそく奥方の所へ案内してくれ。直ぐにでも彼女を苦しみから解放してあげよう」
イヴァの声により、俺たちは屋敷の中へと案内をされた。
普通は執り行われるであろう長々しい挨拶や食事は、前もって省いてもらうように言ってあるため、すぐさま患者の元へと向かう。
「ここが、彼女の部屋です」
「嗚呼、よろしく頼む」
部屋の中に入り、ベッドに横たわる男爵の奥方の傍へと向かう。
苦しそうにせき込む彼女は、立ち上がることは無理そうな様子。
「ネロ殿下、このような形での挨拶になり申し訳ありません…」
なんとか上体を上げようとする彼女を止める。
「楽にしてくれ、ダターニュ夫人。病人たるあなたに礼など求めるはずもない。元気になった姿をご家族に見せることだけを考えてくれれば良い」
「お気遣い感謝致します…!」
涙を流しながら、俺に頭を下げる彼女。
【超嗅覚】からも、彼女が本心でそう言っているのがわかる。
貴族の中で男爵というのは、最も下の身分。
さらにこのダターニュ男爵領は王国の中でも田舎の地方で、ダターニュ男爵は貧乏貴族だ。
この屋敷も築年数が経っており、使用人の数も圧倒的に足りていないことから、金銭面では既に限界を迎えつつあるのがわかる。
「ダターニュ夫人。私が今日、君を診るイヴァだ。さっそく身体を見せてくれないか」
「よろしくお願いいたします」
イヴァの言う通りに彼女は上半身の衣服を脱いだ。
俺の視界に彼女の美しい素肌が映る…ことはなかった。
何故なら、大量の包帯が巻かれていたから。
所々、血が滲んでいる場所すらあった。
「…何をして、こうなった?」
「薬草を取りに外に出かけた所…、魔物に遭遇してやられてしまいました」
「成程な…」
彼女を苦しめているのは、恐らく魔物にやられた傷から入った感染症の類。
傷口や症状を見る限り、魔物が毒を持っていたという可能性は低い。
ここの家は、回復魔法を行使する者すら足りていないのか。
それどころか男爵本人が巻いたかのような施術だ。
「ふむ。見た所問題はなさそうだな。さっそく治療させてもらうよ」
イヴァは夫人へ一歩近づき、彼女の手をとる。
「…【聖の息吹】」
彼女が発する聖の魔力が、夫人の全身を包み込む。
光り輝くそれは、傷口を塞いでいき、彼女の顔色を元へと戻していく。
数秒後、光が収まった。
「うむ。施術終了だ」
「ダターニュ夫人、具合はどうだ?」
「…身体が軽くなりました…。さっきまでが嘘のようです!」
「嗚呼!良かった!」
俺の横にいた男爵が彼女の元へと走っていき、二人は厚い抱擁を交わす。
病に伏せた彼女にとっても、待ち望んだ瞬間だろう。
本当はしばらくそのままにしておきたいが、そういう訳にもいかない。
「ダターニュ男爵。そろそろ良いかな?」
「…はッ!お見苦しい所をお見せしました!」
「問題ない。これからも是非、彼女を大事にし続けてほしい。ところで一つ質問があるのだが、何故夫人は薬草が必要だったのだ?」
「それは…」
言いにくいのか、男爵は俺の質問に対し、少し言い淀んだ。
「ネロ殿下、イヴァ様」
対し、俺達の名を呼んだのは、ダターニュ夫人。
「不躾なお願いで申し訳ありませんが、私達の娘も診ていただけないでしょうか…!」
「ご子女がどうかしたのか?」
「数年前から奇病に侵され、寝たきりになっているのです。この領の森で採れる薬草によって、少しだけ症状が和らいでいるように見えましたので、定期的に私が採ってきていました」
「他の医師には診せたのか?」
「大金を払い、数人の医師に診てもらいましたが、お手上げだと言われました。こんな病は見たことがないと」
この家にお金が無いのは、娘にお金を使っていることも原因か。
できることなら、彼女も治して帰りたい所。
「イヴァ、いけるか?」
「問題ない」
俺の問いに対し、彼女は笑顔で返答した。
「それではダターニュ男爵。ご子女の元へ案内してくれ」
「はっ、畏まりました!」
夫人が寝ていた部屋のさらに奥。
屋敷の中でもっとも端にある部屋へと、俺達は招かれる。
その中には、先の部屋のようにベッドが一つ。
誰かが布団を被っているように見える。
「クラウディア。お客様が来たから、少し顔を見せておくれ」
男爵は優しく声をかけ、布団をはいでいく。
ゆっくりと、眠っている彼女の姿が露わになった。
「これは…」
「ほう…」
「なッッ…!!」
その場にいた者は、三者三様の反応を見せた。
最も大きな反応をしたのは間違いなくネーヴェだろう。
然もありなん。
「魔物化か」
「その通りです。おおよそ2年前、彼女は窃盗団のような者達に誘拐されました。騎士達を総動員し、彼女が洞窟に一人でいるところを発見されましたが、既に身体の一部はこのような姿になっていました。そこからは、ただただ悪化していくのみで…」
「本当に普通の窃盗団だったか?」
「わかりません。結局は金品を盗まれたわけではなく、彼女だけが狙いだったようです。その後は捜索を行いましたが、犯人を見つけることはできていません…」
「そうか…」
魔物化。
ここにいるハイエルフのネーヴェの身体を蝕んでいたものだ。
彼女は呪いだと言っていたが、それも定かではない。
表と裏の両方で情報を集めたが、そのような病も呪いも見つからなかった。
一つだけ言えるのは、普通に生活するうえで発生する現象ではないということ。何か、外部的な要因によるものであるのは確かだ。
彼女もあの時のネーヴェ同様、肌は魔物の堅い鱗のようなもので覆われ、至る所から獣の毛が生えている。
彼女の美しいはずの顔は…、原型を留めていない。
「…イヴァ、ここは俺が行こう」
「わかった」
俺と契約したことによって、彼女にも治せる力がついているだろう。
しかし、ここは経験者である俺の方が確実だ。
「男爵、ここで君が見たものは全て墓まで持っていくように。絶対に外部に漏らすな」
「…へ?」
「ダターニュ男爵」
「はっ…はっ!了解でありますぞいっ!」
「よろしい」
不意を突かれたことで口調がおかしくなっているが、まあ良いだろう。
俺は彼女の近くへ行き、ネーヴェの時と同じように手を取る。
俺の魔力で彼女の身体をゆっくりと包み、体内に存在する不純物を捉える。
よし…、いける。
「――【セイクリッドフラム】」
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