3-5 決闘の行方
いつも読んでいただきありがとうございます。
感想やいいね、ブックマーク登録等よろしくお願いいたします。
「それではこれより、ネロ・ディ・エミリアとシェミル・ミフェンサーの決闘を執り行います。審判は私、使用人のネルが務めます」
ミフェンサー伯爵家が持つ騎士達が利用する闘技場のような場所を借り、俺とシェミルの決闘が行われることになった。
フィールドの真ん中ではネルが前口上を述べているが、俺とシェミルに敬称がついていないのは、決闘という場が身分の差など関係が無い、正々堂々と戦う場であるというアピールだ。
彼も先ほどは大層迷惑なこと口走ったが、貴族子息としての教育はしっかり受けており、この国の王子たる俺を相手にしたとて手を抜く気は一切無い様子。
王子だから怪我をさせないように…、なんて中途半端な考えは持っていないようだ。
こんな所で手を抜かれても、媚びを売ることにはならない。
まあ、それは相手の性格に依存する話か。
ここで、ミフェンサー伯爵家の特徴について少し述べよう。
ミフェンサー伯爵家は、エミリア王家同様に、騎士を輩出する家系だ。
エミリア王家の血も少し混じっているのが大きいかもしれない。
そして俺が相手をするシェミルも騎士タイプ。
その証拠に彼は現在、木製の剣を持っている。
そんな彼が何故、風魔法に自信があるのか。
単純な話、調子に乗っているのだろう。
ずっと剣を握らされていた彼は、最近になって魔法を学ぶようになり、少し浮足立っているのだ。
確かに、魔法剣士というスタイルはこの国に存在しており、騎士団と魔法師団のどちらにもそういう者はいる。
ヴェールもその一人であり、『烈風』という大層な二つ名も頂いていたため、彼の眼に止まりやすかったのだと思う。
魔法剣士は騎士と魔法師の欠点を補うことができる形であるため、確かに強力であると思われる。
特にタイマンの時は、手札が大いに越したことはない。
しかし、実際の所は才能に左右される部分が多い。
魔法剣士に挑戦するほとんどの者は、どっちつかずになってしまい、どちらかに突出した者に負けてしまうのだ。
「制限時間は10分。それでは…、始め!!」
決闘が始まった。
開始直後、彼は木剣を握りしめ、こちらへ走ってくる。
最初は剣で戦い、お互いが離れた時に魔法を放つ…という流れだろう。
魔法に自信がありながらも、彼は自分自身の戦い方の本質を見失ってはいないようだ。
さて、どう対応しようか…と模索していた所、ふと自分の右方向に目が行った。
「ネロ!負けるんじゃないわよ!!」
そこにいたのは、誰よりも大声で応援するアンナだ。
彼女は俺が騎士や魔法師との鍛錬をよく見ているため、ネロとしての実力は把握済み。
つまり、手を抜いているか否かを判別できるのだ。
彼女の性格上、このような決闘で手を抜くのは好まない。
俺がここで彼を様子見するような動きを見せるのは、悪手だろう。
ともすれば、手段は一つ。
ワンパンだ。
「「「ッ…!?」」」
俺が飛び出したと同時に、観覧していた全員が驚くような声を上げた。
然もありなん、初速が普通のそれではなかったからだ。
しかし、直にそのタネを理解した者もいる。
簡単な話、風魔法で自身の初速を上げただけだ。
【ウィンド・レ・アーリ】や、その上位版の【テンペスタ・レ・アーリ】ほど複雑で強力なものではない。
魔法剣士としての戦い方では初歩だろうが、この歳で体現できる者は少ないと思われる。
「何ッッ…」
一瞬にして、俺はシェミルの懐に潜り込む。
前進していた彼自身の速度も相まって、瞬間移動のような体感速度だろう。
俺は剣先を彼の鳩尾へと向ける。
そしてそのまま…。
「ガハッッ」
狙い通りに命中。
彼は気絶し、その場に倒れこんだ。
しかし、最後の瞬間に彼は剣を俺へ向けようという所まで反応していたのだ。
同年代で同じ反応を見せる者は、この国にはほぼいないだろう。
彼が将来有望な騎士であることは間違いない。
「――勝者、ネロ・ディ・エミリア!!」
ネルが終了の声をあげたところで、会場の静寂が終わった。
アンナとミランダが喜びまくっている声が一番大きい。
ルアミーナはニコニコしながら、俺に拍手を送っている。
「…ご主人様、お見事でしたよ」
「演技が…か?」
「ええ。それにしても、彼は良い騎士になりそうですね」
「嗚呼。将来、この国の騎士達を引っ張る存在となってくれることを祈るばかりだ」
ネルは俺に近づき、耳元で話しかけてきた。
彼女の眼にも、彼が良い戦士として映ったのだろう。
「でも、流石にご主人様ほどではないですよ」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
俺を労うネルを背に、家族の元へと向かった。
アンナやミランダに揉みくちゃにされ、ついてきていた使用人や騎士の中には涙している者もいる。
そこまでオーバーなリアクションをされると困ってしまうのだが…。
「ネロ、こっちにおいで」
「…ルア?」
彼女達がワイワイやっている隙に、ルアミーナが俺に呼びかけた。
「ふふ…、よくできました」
俺が近づいたと同時に、俺に抱き着き頭を撫でる彼女。
一瞬びっくりしたが、とりあえず流れに身を任せた。
…今思い出したが、シェミルはルアミーナに気があるのだ。
彼女の前で彼をぶっ飛ばすのは、これっきりにしよう…。
________________________________________
「お疲れ、ルーチェ。とんだ災難だったわね」
「お互い様だろう。危うくとんでもない展開になりかけたな」
夜半、俺は拠点にて仲間達と談笑していた。
ネーヴェは自室で寝ており、ここにいるのはアルミネとミレーナだ。
アリアはいつも通り、俺の首元から顔だけを出している。
決闘を終えた後、シェミルはミフェンサー伯爵家の屋敷に運び込まれた。
約一時間後に目を覚ましたようで、俺に突かれた鳩尾が少し痛む程度の軽傷だったようだ。
彼はベッドの上で自分の負けを自覚し、涙を流していたらしい。
勝負に負けて不貞腐れるのではなく、悔しいという思いを抱けるのは、彼の強さに直結する芯の太さ故だ。
また、ミフェンサー伯爵家の人々からは、決闘後に感謝の言葉を貰った。
『愚息の相手をしたくださり、ありがとうございました…!』と頭を下げた伯爵の、子を持つ父親としての顔がとても印象的であった。
シェミルの突飛な発言から親の教育が甘いのではという感想を抱いたが、評価を見直さなければならないだろう。
…だが、ここで今日の出来事は終わらない。
ちょっと続きがあるのだ。
それは『嗚呼、この決闘は良い結果となったな…』と自己満足していたその時。
アンナの暴走が始まった。
『ネロ!ヴェールとも戦うのよっ!』という発言が、その場に響き渡ったのだ。
俺はその瞬間、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
でもよく考えたら、確かに彼女なら言いそうな言葉であった。
その後はネロVSヴェールを行う空気になりかけたが、ヴェールに扮したアルミネがストップをかけたのだ。
依頼に組み込まれていないから、その決闘を受け入れることはできない…と。
「今回は何とかなったけど、恐らくヴェールに王家が指名依頼を出すわよ」
「だろうね。ネロとの決闘と風魔法の指南ってところかな」
「戦うってなったらどうするの?」
「心ゆくまで俺をぶっ飛ばしてくれ」
現状ネロが出している力に、多少の土壇場覚醒のブーストを乗せたとて、ヴェールには勝てない程度に設定している。
そのため、もし決闘するとなれば俺は負けなければならない。
「それは良い機会かもしれないわね…。いつもやられっぱなしだから。たまにはそちら側にも立ちたいわ」
「旦那様はMなのか?なら私がSに…」
「ミレーナは黙っとれ」
「あるじ!えすとえむってなに?」
「アリア!そんな言葉は覚えなくていいから!ミレーナも変な言葉を教えるな!」
アリアはまだ、純粋な女の子だ。
たまに覚えた記憶のない単語が飛び出す時があるが、ぜひ彼女にはそのピュアさを大事にしてほしい。
「ところで旦那様、一つ相談があるのだが」
「どうした?」
「アルミネは冒険者ヴェール、ネーヴェはネロの使用人ネルとしての顔があるだろう?だから私も何かできることが無いかと思ってな」
嗚呼…、そういうことか。
確かに今の所ミレーナに任せている仕事は少ない。
「何か考えていたのか?」
「うむ。旦那様の抱きまく…「却下だ」」
「うっ…。まあ冗談はさておきィィ…」
冗談と言いつつ、割とダメージを受けているようだが。
「やはり私の武器といえば、聖の魔法。つまりは回復魔法だ。だから医療に関係する何かがいいだろう」
確かに彼女の言う通りだ。
何か妙案はあるだろうか…。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




