3-4 意外な出会い
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「ティアはこの店に何をしに来たの?」
「私達も服を身に来たのよ。この店は質が良いからね」
「あら、そうだったの。私達も同じよ。ネロの6歳の誕生日に合わせて、服をみんなで選んでいたの」
「成程ね…」
彼女は周囲を一目した後、俺の近くに寄ってくる。
「…ネロ様、お疲れだとは思いますがあと少しの辛抱です。彼女は少々ブラコン気質でして、学校でもご兄弟の話ばかりでしたので…」
「ありがとう、ティア嬢。とても身に染みる労いを貰ったよ」
「え、ネロ!?私は良いお姉ちゃんだよね!?」
彼女には俺の気持ちが伝わっているようだ。
必死にアピールをするミランダに対し、俺と彼女は同じ目をしている。
「…あら?珍しい護衛を連れているわね?」
アンナはすこし奥の方に見えた彼らの護衛を見て、そう言った。
伯爵家が持つ騎士に紛れて、冒険者の装いをした男が一人混じっていたのだ。
「アンナ様、よくお気付きで。ヴェール!こっちに!」
ティアはその冒険者に声をかけ、こちらへ招いた。
俺達の前に進み、深い一礼をする。
「初めまして。私はAランク冒険者のヴェールと申します。『烈風』の二つ名で呼ばれる方が多いので、お好きな方で構いません」
緑色の長髪に碧眼の冒険者ヴェール…。
そう、俺の別の面である。
その中身はなんとアルミネだ。
彼女の特徴である白い角と尻尾は、『偽装の耳飾り』によって見えなくなっており、見た目は完全にヴェールである。
彼女は普段、ヴェールとして冒険者活動をする日が多い。
俺の代わりに依頼をこなしてくれるのだが、彼女自身がそもそも冒険者活動に興味があったようだ。
さらに魔法の適正が風であるため、彼女が適任であった。
「私があなたの真似をできないわけがないでしょう?」と自信満々だったので、ネロで忙しい時は彼女に頼んでいるのだ。
実際に俺とほぼ同じ話し方、人との対応をとるため、誰にもバレてはいない。
また、彼女のおかげで依頼をこなす速度が上がったため、Aランクに無事昇進することができた。
『烈風』という二つ名も後からついてきて、良い感じに顔を売ることに成功している。
「『烈風』って…、エミリア王国のAランク到達の最高記録を塗り替えた冒険者で合ってる?」
「その通りです」
ミランダの言う通り、最速記録もたたき出してしまった。
元々一位であった記録は知っていたため、更新を狙った部分もある。
「何故、彼を雇ったの?」
「シェミルが彼に勝負を持ち掛けたのよ。同じ風魔法を扱う者として…ってことで変に対抗心を燃やしてね。直談判をされた父が仕方なく彼に指名依頼を出したの」
俺はヴェールの眼を見る。
嗚呼、彼女の言う通りなのか。
それはちょっと災難だったな。
「勝負の結果はどうだったの?」
「コテンパンに決まってるじゃない。Aランク冒険者に勝てるわけがないでしょう。あなたはもっと謙虚にいくべきよ」
「いや…、俺は風魔法に自信が…」
「世の中は広いってこと。家の中で教師から褒められたとしても、一歩外に出ればいくらでも上がいるのよ」
「……」
若気の至りか。
しかし、幼い頃から勝負心があるのは良いことだろう。
「そういえば…、ネロ殿下も風魔法をお使いになりましたよね」
「そうだね。火が主力かもしれないけど、風魔法にも適正がある」
「…っ!なら俺と戦って…」
――ゴンッッ!!
「いっつーー!!」
「なにネロ殿下に勝負吹っ掛けようとしてるの!誰彼構わず挑むのはカッコ悪いわよ!」
シェミルの脳天に、ティアの良い一撃が入った。
相当痛かったようで、彼は頭を押さえてうずくまっている。
良いお姉さんを持ったな…。
「ネロ!」
突然、アンナが俺の名を呼んだ。
何故だろう、凄く嫌な予感がする。
振り向くのが怖い。
「どうしましたか、お母様…?」
「シェミル君と戦ってあげなさい!!」
嗚呼…、言うと思った…。
腰に手を当てて俺の名を呼んだ時点で、何を言ってくるかなんて確定だ。
彼女の後ろに潜んでいた使用人や騎士達は、一斉に頭を抱えている。
「ライバルを持つのは良いことよ!彼なら良い相手になるでしょう!」
「アンナ様…、今回はシェミルが先走ったことによるものですので、あまり深く考えずに…」
「いいえ、ティア。若い男の子は戦ってこそよ!」
「え、ええ…」
ティアもちょっと引いているじゃないか。
ちなみにこのシチュエーションで、主に二つの要点がある。
一つ目は、シェミル君に罪が問われる可能性があること。
家の身分が上の者に対して敬語を使わず、かつ勝負を挑むというのは御法度中の御法度。
まして相手が俺…、王家に連なる者であるため、死罪もあり得る。
二つ目は、俺がこの勝負を断ることはほぼ不可能であること。
断るイコール逃げであり、王家の名が傷つくからだ。
本当に、彼は余計なことを言ってくれたな。
ここに俺とミフェンサー伯爵家以外の者もいたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
今回は私事ということで罪には問われないが、例えば俺が両親に泣きつきでもすれば、一発で彼の首が飛ぶ。
少し彼の両親は子供に甘すぎるのではないだろうか。
「わかった。シェミル殿、私でよければ是非戦おう」
しかし、俺がこう言わないと何も始まらないのだ。
俺は心にも思っていないことを笑顔で言う。
「なっ…」
「良いのですか!?」
「よく言ったわ!流石我が息子よ!」
あなたが種を撒き、水どころか農薬まで撒いたんだろうに。
「二言は無いよ。この後すぐにでも大丈夫だ」
少しだけ口調を崩して伝える。
別に俺は怒っていない…ということをアピールしておかないと、あっちは気が気じゃないだろうから。
本人たちだけでなく、護衛の騎士までもが大量の汗をかいているのがここからでもわかる。
そりゃ嫡子が勝手にこの国の王子に喧嘩を売ったんだから冷や冷やもんだろう。
生きている心地がしないかもしれないな。
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「ネロ殿下、この度は我が愚息がご迷惑をおかけしました。本当に、本当に申し訳ありません…!」
場所は移り、ここはミフェンサー伯爵家。
現在、俺の目の前ではミフェンサー伯爵本人とその奥さんが、俺に頭を下げている。
「頭を上げてくれミフェンサー伯爵。父とは幼い頃からの仲だと聞く。是非楽にしてほしい。今回はシェミル殿のお誘いに対し、私が了承したのだから」
「寛大な措置…、誠にありがとうございます…!」
子供たちが服を買いに出かけたと思ったら、王女と王子を連れて帰って来たのだから、彼の胃は爆発寸前だろう。
決闘の件だが、王城のどこかで…という話にもなった。
しかし、アンナがバッサリと切ったのだ。
敵陣に切り込んでこそよ!という脳筋丸出しの意見によって。
普通は、俺が外で決闘に負けたとなると、その噂が貴族達に広がることで舐められてしまう。そのため王城でやるのが筋ではある。
だが、俺もアンナに賛成だ。
俺の家族、近衛の騎士に魔法師、そして使用人といった王城に勤める大人数の前で負かしてしまうのは彼の精神上よろしくない。
次は負けない…と対抗心を燃やしてもらうには、ミフェンサー伯爵家で戦うのがベストだろう。
俺は彼の心を折りたい訳じゃない。ただ学んでほしいだけだ。
「同じ年程の者と戦ったことがあまりないため、私自身とても貴重な機会だ。是非、こちらこそお願いしたいくらい。今回はよろしく頼むよ」
「はっ…!」
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




