3-2 白龍の風
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夜半、俺とアルミネは王都の一角にある見晴らしの良い建物の屋上から、街並みを見下ろしていた。
彼女も俺と同じように黒いコートに身を包み、フードを被ることで顔を見えないようにしている。
さらに『偽装の耳飾り』によって彼女特有の白い角と尻尾は見えないため、見た目は完全に人族である。
「予定通りの配置だ。計画の通りに進める」
「わかったわ」
俺たちの前にあるのは、今回襲撃する商会の拠点の一つ。
「中に潜入したネーヴェによると、やはり裏のルートで仕入れた品が大半らしい」
「そりゃ値段も安くなるわけだわ。危険なブツも入ってきてそうね」
「その通りだな。そして提携先の東の角への流出も多額。結局はグルミル公爵の益にもつながるというわけだ」
「この一件後、公爵への直接攻撃はどうするつもり?」
「ネーヴェが得た内部資料を治安部隊に流す。家が潰れるまではいかないと思うが、公爵という位は剥奪だろう」
「それで、モネって子も安泰というわけね」
「そこは何とも言えないが…。圧力をかける理由は無くなるな。あとは彼女がもしその人を気に入ったのなら、迎え入れてもらえれば良い」
「彼女はあなた狙いじゃないの?」
「…ちょっと違う感情だと思う」
彼女が俺に抱いているのは、恋愛感情ではない。
所謂、推しという感情。
こじらせて、好きな男が見つけられていないだけだ。
彼女は重症である。
「…時間だな」
「ええ」
「あ、ちょっと待て」
「どうしたの?」
「襟が少しズレている」
俺は彼女のコートの形を整える。
彼女は少し大雑把な部分があるのだ。自分の見た目にも全く拘りがない様子。
素材は完璧なのだから、是非とも少しは気にかけてほしいものだ。
「…ありがとう」
「どうも。さあ、潜るぞ」
彼女に合図を出し、足元の影が俺達を瞬時に包み込む。
「――【シャトー・トランス】」
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「健闘を祈る。奥で会おう」
「ええ」
私は彼の暖かな手を離し、影の中から飛び出す。
まずは、門番らしき2人を仕留める。
彼は私を死角から放ってくれたため、今が好機だ。
(【テンペスタ・レ・アーリ】)
魔力を放出するのではなく、内に凝縮させる。
私自身が、魔力という大きな力の中心となるように
そして、風へと変化。
私自身を凝縮させた風魔法で包み込む。
私は龍人族の中でも、魔力は多い方だったわ。
どこにあったかも忘れてしまった私の生まれ故郷では、次期首領という立場として幼い頃から育てられてきた。
あの頃から異常に戦闘能力が高く、大人もぶっ飛ばしていたから。
でも、私の集落は山奥。
ほかの誰とも交流の無い、変化を嫌うような生活に私は飽き飽きしていた。
だから、私は飛び出してきたの。
追ってきた者は、全員追い返した。
私が授かった風魔法は、同じ龍人族の中でもひと際強力なものであったし、生まれつきの才もあって撒くのは簡単だったわ。
でも、私の魔法の使い方は雑。
広範囲に高威力の魔法をぶっ放すだけで十分だった。
そんな戦い方で、彼には勝てるわけが無かった。
彼の魔力に驚いて気絶してしまったけれど、後日改めて私と戦ってもらったの。
結果は惨敗。私の魔法発動の隙をつかれて、首元にナイフを当てられた。
彼が戦う時にしか発現させない、あの綺麗な金色の瞳に見つめられながら。
そこからは、彼から戦い方というものを学ぶ日々。
無駄の無い、ただただ標的の命を奪うためだけの動き。
すぐに絶命させる業もあれば、敵の足を止めて二撃目で決める業もあり、何よりも彼の中に存在する引き出しの量が異常だった。
勿論、正面からの戦い方も彼は熟知していた。実際に私は完膚なきまでたたきのめされたしね。
そして、私の戦い方は変わりつつある。
今もなお進化し続けているんだ。
たぶん、彼に追い付きたいんだと思う。
右手に剣を握りしめ、私は飛び出す。
標的まで残り0.2秒…。
…0。
彼らは、私の接近に気付かずに絶命した。
私は振り向かず、再度駆けだす。
時間は決められている。
無駄をなるべく省いて、奥へ進まなくては。
地図は頭の中に入っている上、得意の魔力感知によって索敵もできる。
纏う風のトップスピードを維持しながら、最適ルートを突き進む。
正面…、敵数3。
「ん…?」
「――遅いわ」
まずは手前の一人の首を剣で刎ねる。
魔力を剣にも纏わせることで、私の身体の動きと連動させた動きが可能になる。
一切の違和感もない舞こそ、最速。
「なっ」
「野郎ッ!」
少し後方にいた二人が、敵の存在を認識。
腰に携えた剣を抜こうと、手を動かし始める。
嗚呼、遅いわ。
「――【テンペスタ・レイ】」
私の両の手から放たれた、高密度に圧縮した風。
それは的確に敵の首を落とし、即死へと追い込む。
これは、アリア様から習ったもの。
アリア様はルーチェの【シャトー・プリズン】を破るために、彼のアドバイスを元にできるようになったと言っていたけれど、そう簡単にできるものじゃないわ。
元々、大規模な高威力魔法を得意としていた私にとって、それを一本の線に凝縮するというのは考えもしなかった上、あまりにも逆の考え方。
魔力を操作するという過程を怠っていた私には、難しいものだった。
「おいッッ!3階の見張りの誰か!応答しろ!」
「なんだ!?急に連絡が途絶え…」
「なっ、ぐはッッ…」
さらに複数の敵を、コートに閉まっていたナイフを投擲。
嗚呼…、1本狙いから逸れたわね。
この小さな武器…、暗器を使う戦い方も今までの私とは真逆。
最初は少し抵抗があった。
でも、彼に言われたの。
私の魔法は、巧みな技術によってどんどん美しくなる…って。
そんなこと言われたら、やるしかないでしょう?
さて…、テンポを上げましょうか。
「【フォルテ】」
他の階の異変に気づいてから数秒だけど、私の行く先に敵が集まりかけている。
やはり、その辺のゴロツキとは訳が違うわね。
元々目的地には30人ほどはいたけれど、今はその倍くらいが集まっている。
そりゃ…、頭の部屋に集まるわよね…!
感知によると私のスピードよりは遥かに遅いけれど、後ろから追ってもきている。
完全に狙いがバレているわね。
このままじゃ、私はこの先で囲まれるけど…。
思考を巡らせていた所、私の視界に一人の使用人が現れる。
「…良いタイムですよ」
「当たり前よ」
「ここはお任せを」
「頼んだわ、ネーヴェ」
先に潜入していたネーヴェに後ろは任せる。
氷魔法を得意とする彼女にとって、狭い空間はお得意だ。
彼女の魔法も無駄がどんどん無くなっているため、一直線の戦場で私が彼女に勝つのは厳しいかもしれない。
私の後方から、極寒の冷気が風に乗ってくる。
彼女も派手に凍らせているようね。
「お前ら!来たぞ!」
「総員放て!」
「近接は陣をくめ!」
私の目的地…、この商会の頭の場所へたどり着いた。
中は今までと異なり、だだっ広い空間。
周りには、裏で取引された品物が並んでいる。
「貴様ァァ!!何者だッッ!!」
「答える義理はないわ」
私は身に纏っていた魔力をさらに高める。
風は嵐となり、私のフードごと髪をかき上げた。
その時、私の顔が露わになったことで、男達の注目が集まる。
「…女ッ!?」
「来るぞ!」
「お…、お前ら、かかれ!!」
嗚呼。
とってもありがたいわ。
上を疎かにしてくれて。
「――【シャトー・ヘルエスピナ】」
影の茨が上空から降り注ぐ。
地獄という表現は、安直なようで最適だろう。
暴力の権化とも言えるその力は、男たちを貫き、圧し潰す。
誰一人、死を自覚せずに息絶えた。
「アルミネ。良い動きだった」
惨劇をものともせず、少し遅れて上から降りてきた彼が私を労う。
暗闇でよく輝く彼の金色の瞳は、黒へと戻っていく。
あれだけの威力の魔法を放ったというのに、発動の瞬間がわからなかった。
あの速度も、目の端が捉えたとして反応できるものじゃないわ。
「貴方もね。新しい魔法を使うって言っていたけど…、だいぶ派手にやったわね」
「茨を太くしたらどうなるんだろうと思ったのだが…。使う場所は見極めなくちゃいけなさそうだ」
彼は火と風の適正を持つ。
でも、今使ったのはそれとは異なる…、スキルの【影魔法】。
とても強力に見えるが、あれは使い手が彼だから。
影という属性以外の不安定な存在を幾千もの生きた茨のように扱う彼の技術は、参考にしてはいけないと思う。
「…私も同じような魔法ができるかしら?」
「アルミネの方が向いているかもな。【テンペスタ・レイ】を数百本集めた柱を、何本か生むイメージだ。収束のイメージは作りやすいんじゃないか?」
…簡単に言わないでほしいわ。
まだまだ私は勉強中よ。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




