3-1 仲間と共に
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「ネロ様、おはようございます」
「おはよう、モネ。今日も晴れやかな一日になりそうだね」
いつも通りの朝。
起床後、朝のルーティンを終わらせた頃に、メイドのモネがやってきた。
彼女は猫獣人族で、俺が生まれた時から使用人として仕えてくれている。
「今日は、午前中に魔法と勉学の時間がとられていたかな?」
「その通りです。本日は騎士団長に予定があるらしく、午後はお休みとなっています」
最近は剣術指導の難易度が上がってきており、週に一度はエミリア王国の騎士団団長が直々に相手をしてくれるようになっている。
一介の騎士じゃ相手にならない…と褒められているが、近衛になってくるとそんな軟じゃないし、そもそもそこまでの力を俺は出していない。
本当に、彼らは褒め上手だ。いや、上げ上手か?
「わかった。午後はゆったり過ごすことにするよ」
「かしこまりました。そしてもう一つ、ネロ様にお話しがありまして…」
「どうしたの?」
「あの…、私の実家の方から帰ってくるように言われまして…。休暇を頂きたく…」
とても申し訳なさそうな様子で、彼女はそう言った。
彼女の心情は…、絶望に近いものだな。
もしや、結婚話か?
「婚約の話とかかい?」
「…!その通りです…!その…、勝手に婚約者を決められてしまいまして、後日相手の方と会うことに…」
「…そっか。休暇の件は大丈夫。だからモネは、自分にとって最も納得のいく選択をしておいで。もしもの時は、僕も相談に乗ろう」
「ありがとうございます!」
モネの実家は、代々エミリア王家に使える家だが、男爵家ということで、貴族の中では位はそこまで高くない。
だから王城の中では使用人に留まっているとも言えるだろう。
どこが彼女に話を持ち掛けているのか、調べる必要がありそうだ。
彼女からは、ネガティブな臭いで溢れている。
心が泣いているように見える。
「そのため、私の代わりにネロ様のお世話をする者をご紹介したく…」
「嗚呼、わかったよ」
「それでは、こちらに呼びますね。…入ってきなさい!」
おお、モネもしっかりしている面があるんだな。
そう彼女に感心していたところ、彼女の後方にある扉が開かれた。
「――失礼します」
中に入ってきたのは、モネと同じ使用人の服に身を包んだ女性。
優雅な一礼を見せ、俺の元へと歩みを進める。
「こちらが私の代わりとなる、新人のネルです」
「この度ネロ様の専属使用人となりました、ネルです。よろしくお願いいたします」
「嗚呼、よろしく」
「それでは、私はこれで失礼します。ネル、しっかりとネロ様の役に立つのですよ!」
「かしこまりました」
モネは彼女に仕事を引き継ぎ、部屋を出ていった。
これで、新たな使用人のネルと二人っきりに。
「――ネーヴェ、モネに婚約を申し込んだのは誰?」
「ラミア―ナ子爵家です。モネ様のご実家は男爵家。圧力をかけられているのは間違いないかと」
そう、彼女はネルではなくネーヴェ。
俺が解放した奴隷の一人で、種族はハイエルフだ。
ハイエルフ特有の長耳と彼女の金髪は、俺があげた『偽装の耳飾り』によって隠され、見事に地味な使用人の一人と様変わりしている。
彼女は元々、自国の第三王女というアッパーな立場であるため、一連の作法はお手の物。
元王女が使用人をやっているのはどうかと思うが、彼女はやりたくてやっているらしい。
楽しそうに俺に飲み物を届ける様子を見る限り、とても気が楽なんだろう。
「ラミア―ナ…、王家とは疎遠だな」
「その通りです。ご主人様のことをよく思っていない派閥の一つでもあります」
「嗚呼…、ラミア―ナも圧力をかけられているのか。確かあの辺のトップは…、グルミル公爵か?俺の使用人であるモネが穴とみて、仕掛けてきた可能性が高いな」
「お誕生日会に向け、ご主人様への注目は集まる一方です。同時に不信に思っている家もあるため、第三王子なら崩せると思ったのでしょう。しかしご主人様。これは好機です」
「…だな。今夜にでも動けるだろう」
「承知しました。ところで…」
「うん…?」
「とりあえず、抱き着いても良いですか?」
「理由を聞いても?」
「そのお姿が、あまりにも可愛らしいからです」
「なるほど。後でミレーナに脳を見てもらうと良い」
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モネが休暇を取り、新たな使用人のネル…もといネーヴェがやってきたその日の夜。
俺は拠点にて、着々と準備を進めていた。
拠点というのは、俺がヴェ―ルとして王都に買った家で、影の中に取り込んでいたものとは別の建物だ。
影の中で保護していた奴隷も王都内の孤児院へと送ったことでいなくなったが、3人の新しい仲間が増えたことから、地上に拠点を設けても良いのかな…と思ったのだ。
中は以前同様、俺の全力リフォームが行われ、最高の環境へと仕上げた。
それぞれの個室や、談笑用のスペース、作戦会議用の部屋など様々。
「アルミネ、1時間後に動けるか?」
「ええ。ネーヴェからは聞いているわ。周辺の地図も頭に叩き込んである」
「既にネーヴェは、中の奴らに紛れて潜入中だ。俺と二人で表からかき乱すぞ」
「了解したわ」
俺とアルミナがこれから行く所は、王都の東側にある、とある商会の拠点だ。
表向きは大手商会だが、裏では東の角とつながっている。東の角にとっては、最大の取引相手といってもいい。
何故東を狙うのかというと、彼らがモネを崩そうとする側の親玉たるグルミル公爵と繋がっているからだ。
目的は単なる嫌がらせだ。総崩れはしないが、ダメージにはなるだろう。
彼らは西の奴ら程に残酷なことはしていないが、不正のオンパレードである。それらを上手く隠しつつ、表と裏のパイプとなっているのだ。
あの家を怪しむ者はいても、公爵という位置の強さ故、中々崩すことができないでいた。
グルミル公爵という人物のキャラクターは、一言で言ってお金好きだ。あと女好き。
得ることも使うことも大好きで、彼らの屋敷や服装にかかっているお金は、同じ爵位の中では断トツ。
一応、王家よりお金をかけない…という暗黙の了解はあるが、表に見えないところでバンバン使っているのだ。
俺が彼を初めて見た時、そこまで稼げるような人物には見えなかった。
そこで情報収集に努めた結果、東の角との結託が彼の資金を潤してたという結果に。
前グルミル公爵は、それはそれは素晴らしい人物であったそうだ。
彼の公爵領地の生活基盤をアップグレードさせ、領民からの信頼も厚かった。本人はどちらかと言えば倹約家で、女遊びもせずに、領民のためという意識が強かった。
彼の死因は病気と明かされているが、真相はわかっていない。前日までバリバリ働いていたというのだから、持病による急死とは考えにくい。
話が少し逸れてしまったが、公爵という位は爵位のなかでも上だ。だから、不満がある家もそこを崩す手段を持ち合わせない。
だからこそ、俺が動く。否、俺たちが動く。
「ふむ…動きとしてはこんなものか」
作戦の立案がひと段落し、俺はソファーに腰かける。
「ルーチェ、コーヒー飲む?」
「嗚呼、いただくよ」
アルミネは、カップを二つ取り出してコーヒーを淹れる。
俺と出会ってから初めて飲んだらしいが、彼女の口には合ったようだ。
俺はブラックだが、彼女はミルクを入れて飲む。
ネーヴェは俺と同じで、ミレーナは砂糖をドサッと入れるタイプだな。
なんとなく、キャラクターとリンクしている気がする。
彼女は淹れ終わったコーヒーを両手に持ち、こちらへやってくる。
正面に置かれたテーブルにそれらを置き、彼女もソファーに腰かける。俺の目の前にも別のソファーがあるのだが、俺の真横に残された丁度一人分のスペースへと。
「ずず……、はあ…。美味しいわ」
「アルミネは、特に俺の出す料理とかに反応を示すね。故郷の食事は口に合わなかったのか?」
「あなたの出すもの、作るものが美味しすぎるだけよ。私の故郷は生の食材を、火を通さずにそのまま食べるから」
「嗚呼…、確かに龍人族っぽいな」
「でしょう?大体、なんでも噛み砕けるしね。調理をするという過程を知らないのよ」
龍人族という種族は、この近くにいるという話を聞いたことがない。
遠くの山奥にいる…という噂程度だ。
彼女は長らく放浪の旅をしていたため、自分のいた集落の場所はとっくに忘れてしまったらしい。
「今日は何をしていたの?確か、午後は暇だったんじゃない?」
「ネロとして孤児院を回ってきたよ。もちろん彼女達がいる所も」
「そう…。あの子たちは…、あなたに救われた記憶が無いのよね?」
「そうだな。あくまで治療の一環としてトラウマを消したってところだ」
「…トラウマねえ」
「アルミネも治療を受けるか?奴隷の時の記憶なんて、消してしまいたいだろう?」
「…私はいいわ」
「そうか?まあ、アルミネ次第だよ」
「ええ。私は今の自分に満足しているし、これからの将来も楽しみよ」
「将来か…、龍人族は寿命が長いんだよな。ハイエルフに聖霊族もそうだったか。俺も長生きできれば良いんだが…」
「…あれ、ミレーナから聞いていないの?」
「何をだ?」
「あなたの老化、十数年後くらいに止まるらしいわよ。極端に老化が遅くなるといった方が良いかしら」
「…初耳中の初耳だ」
「聖霊と契約をするとそういう身体になるんだって。だから、私はずっと旦那様といるんだーってはしゃいでいたわ」
「無理やり契約を交わした上、寿命まで勝手に伸ばしたのか。本当にとんでもない奴だな」
「まあ、ミレーナらしいわね。あの子は今どこにいるの?」
「何故か俺の部屋で爆睡中だ」
「…だと思ったわ」
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作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




