2-14 純粋
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「戦う…?」
「龍人族は、自分よりも強い者しか認めないの。だからあなたの実力を確認したい」
「俺のことなんか認めなくて良いぞ?さっき言ったように、君たちには二つの選択肢がある」
彼女達が食事中、俺は二つの選択肢を提示した。
故郷や家族の下に帰る。もしくはそのような所がない者は、平穏に暮らせる場所を俺が見つけるまで、俺が保護する。
この話をした時、彼女達にうち9割近くの者が喜んでいた。恐らく、前者の選択に喜んでいたのだろう。
戻りたかった場所に戻れるというのは、何よりも望んでいたことだろうから。
対して、後者を選ばざるを得ない者が数人。
彼女達は少し悲しげな表情を見せたものの、すぐに前を向いたという印象を受けた。
勿論、未だ絶望の淵に立たされているような者もいるが、時間が解決するのを待つしか、今の所方法が無い。
そして、これらに全く反応を見せなかった者。
ネーヴェ、アルミネ、ミレーナの3名だけが、俺の選択肢に全く靡かなかったのだ。
俺はそのことを知っていたため、3人が部屋を訪れた際、驚きはしなかった。
何かしらの相談をしてくるだろうな…とは予想していたのだ。
実際、ミレーナの契約してほしいという願いは二つの選択肢とは全くの別物。
そして、アルミネの願い。
戦ってほしい…か。
「私は、あなたの強さを知ってから選択したい。ここで間違えれば、私は一生後悔してしまう気がするの」
「どっちみち、俺との関わりは無くなるんだ。認められても認められなくても、変わりはない」
しかし、彼女はめげる様子を見せない。
次の瞬間、彼女は俺と合わせていた目線を下ろし、頭を下げた。
「お願い…!な…、なんでもする…からっ!」
いや、また顔真っ赤にしてまで言うことかね。
はあ…、このお願いは聞くしかないか…。
「…アルミネ、頭上げて」
「…え?」
「君の願いを聞くから、頭を上げてくれ。君は誇り高き龍人族の一人だろう?俺なんかに易々と頭を下げてはいけない。常に胸を張り上を見ている君こそ、本当の姿だろう」
「…うん」
「それじゃあ、場所を変えようか」
俺は彼女達3人を、普段の演習場へ案内した。
大規模な戦闘にも耐えられるよう、縦横の大きさは現実世界規模だ。
圧巻の景色に、彼女達も驚いている様子。
「ここは、俺が普段魔法を練習したりする所だ」
「こんな所で…、一人で?」
「最近は一人じゃないが…、戦うには良い場所だろう?」
「え、ええ」
さて、今から彼女と戦うことになったわけだが、この影の中で影魔法を使うのはチートすぎてご法度だろう。
属性魔法を駆使すれば、彼女相手でも問題ないと思う。
ある程度の距離を取り、戦闘の準備をするアルミネ。
やる気に漲っているようだが、何が彼女を突き動かしているのだろうか。
「私はいつでもいけるわ」
「俺もいつでもいけるよ。でも、そうだな…。こういうのは圧倒的に差を見せつけた方が、アルミネも納得するか?」
「…どういうこと?」
「アルミネだけじゃなく、ネーヴェとミレーナも。あと助っ人を一人入れて、俺にかかってきても良いぞ」
「何を言っているの?いくら自信があるからといって、こちらは私にハイエルフと聖霊族がいるのよ?それに助っ人って…」
「嗚呼、紹介するよ。アリア、出ておいで」
「はーい!」
俺の呼びかけに応じ、元気よく俺の懐から飛び出してきた。
彼女達には、明日にでも見せてあげようと思っていた。
傷ついた心にペットは必要だろう。彼女の可愛さは他人を癒すことなど容易い。
「…龍か?」
「この子はアリア。正真正銘のドラゴンだ」
「アリアだよ!よろしく!」
「ルーチェ様…、もしかしてあの屋敷で最後に現れたのって…?」
「その通りだ、ネーヴェ。最後、彼女にすべてを焼き払ってもらった」
「えっへん!」
子供ドラゴンの形態のまま、胸を張っている。
とりあえずこういう時は頭を撫でるのがベスト。
決して、威力調整をミスったこと等を口に出してはいけない。
「黒いドラゴン…。獄滅龍ファフニール…」
「ファフニール…?」
少し、アルミネの様子がおかしい。
アリアを恐れているような印象を受ける。
彼女には何もしていないはずだが…。
「ア…アリア様?」
…様?
「ん?どうしたの?」
「アリア様は、獄滅龍ファフニール様なのですか?」
「ちがうよ!ワタシはアリアだよ!」
「…へ?」
そう答えると思った。
しかしながら、獄滅龍なんてエミリア王城の書庫にそんな資料は無かった。
裏の所でも一切知りえなかった情報だ。
アリアの種族は、その獄滅龍ファフニールなのか?
「ルーチェ…、アリア様とは何処で出会ったの?」
「嗚呼。『降魔の卵』だ」
「なっ!!降魔の卵をふ化させたのか!?」
ミレーナは博識だな。
ネーヴェとアルミナは…、知らないようだ。
まあ、知らない方が良い話に違いない。
「一体、いくつもの贄を捧げたのだ?」
「ゼロだ」
「…は?」
「ゼロだ。俺一人でふ化させた」
ミレーナは俺の答えを聞き、顎が外れそうなほどに口を大きく開けて驚いている。
折角の自称良い顔が台無しだぞ。
「ミレーナ?何を驚いているの?」
「…嗚呼。【降魔の卵】というのは、莫大な魔力が必要なのだ。龍人族で言えば…、恐らく数百もの贄が必要だ。それを、一人で全部賄ったという話。驚かないわけがないだろう…?」
「…は?だってルーチェからは魔力が…」
魔力が?
嗚呼、感じ取れていないのか。
今の所スピラにしか見抜かれていないから、魔力制御の精度は高いとみて良さそうだ。
「あるじ!まりょくをみせたほうがいいよ!」
「それもそうだな」
アリアの言う通りだと思い、俺は魔力の隠ぺいを解除した。
外に放出するわけではないが、アルミネであれば十分に読み取れるだろう。
「……ぴっ」
「ぴ?」
あれ、なんかアルミネが白目に…。
――バタッッ
……。
…。
失神してんじゃねえか。
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「申し訳ないわ…」
俺の目の前には、ベッドの上で顔を真っ赤にしながら俯く龍人族が一名。
「大丈夫だ、気にするな」
「もう、お嫁にいけない…」
「問題ない。俺は何も見ていない」
「だって…、下着が変わって…」
「大丈夫だ。俺は関係ない」
そう、俺は関係ない。
俺の魔力で少し漏らしてしまったなんて、俺は知らない。
少しフリフリとした新しい下着を俺が用意した…という記憶があるかもしれないが、知らない話だ。
履かせたのは俺じゃないから、関係ない。
「あの…、生意気言ってごめんなさい…」
「気落ちしすぎだろう?それに生意気だと思った瞬間は一切無かった。アルミネの言うことは全て正論だ」
「う、うん…」
先ほどまでの凛とした彼女は消え、落ち込むただの女の子になっている。
彼女といい、ネーヴェと言い、本当に気にしすぎだ。
そも、俺とはすぐに会わなくなるのだから。
「ルーチェ様、一つ質問いいですか?」
俺の後ろにいたネーヴェが、そう語りかけてきた。
彼女は俺のことを『ルーチェ様』と呼ぶのだが、これも大げさすぎる。
それをツッコみたい気もあるが…、彼女からは真剣な質問が飛んできそうだ。
俺はアルミネからネーヴェへと視線を移し、彼女の眼をしっかりと見つめる。
「どうした?」
「何故、捕われていた私達を助けたのですか?」
「特に理由は無い。たまたま通りがかっただけだ」
「それはありません。『罪なき奴隷を解放しにきた』と、明確に言っていました」
「あの時は時間を稼ぎたかったからな。会話の内容に意味は無いよ」
「それでは…、ルーチェ様が成されることに私は力になれますか?」
「質問の意味がわからないが…。ネーヴェ、そしてほかの二人も。君たちが直面していた危険は消え去った。だから安心して、自分の好きな道を歩んでいけばいいんだよ。」
そう、彼女達の危機は去ったのだ。
後は自由に過ごしていけば良い。
また攫われるかも…という心配か?
そこまで俺がカバーするのは少し難しいが…。
「…わかりました」
どうやら彼女の中で、答えが出たようだ。
「そうか」
「ルーチェ様は、さきほど二つの選択を提示されましたね」
「そうだ。ネーヴェにも戻るべき国があるだろう。明日にでも送り届け…「不要です」」
そう言って、彼女は俺の正面へとやってきた。
椅子に腰かける俺よりも下の位置に、彼女は跪く。
突然の行動に、俺は目を見開いた。
「私は、三つ目の選択肢を選びます」
「…は?」
「ルーチェ様の歩む道を、私は一生歩んでいきます。あなたに私の全てを捧げます」
「いや…」
「いやも何もありません。私はもう決めています。私の場所はあなたの下です」
「俺は、好きで勝手にやっているだけだ。ネーヴェには関係が無い…」
そう、関係が無い。
彼女達は本来、俺と交わるはずの無い陽の当たる世界の住人。
陰で血を浴びる俺とは、真逆の存在だ。
だから、そんな彼女達を俺の道へ引きずり込むのは…
「――あるじ、なんで?」
「…え?」
突然、俺の胸元からアリアが飛び出してきた。
一体、どうしたんだ?
「あるじは、いつもがんばってる。ざいにんを、わるいひとを、この国からいなくなるように」
「……」
「ワタシをひろって、そだててくれたのは、あるじだよ?このこたちも、ワタシといっしょ。あるじが、すくったいのちなんだよ?」
「それは、そうかもしれないが…」
「ワタシはあるじのことが、だいすきだよ!でもね、やくにもたちたいの!あるじが、ひとりだけでせおっているにもつを、ワタシもせおいたい!」
「アリア…」
…この子はそんな思いを抱いていたのか。
対して俺は…、何を考えていた?
危険だと判断した時に、いつでも殺すことができる準備だ。
彼女を利用して、俺の立場をどう確立させるかだ。
…対して、あの人は。
彼女は、俺のことを利用しようなど思っていたか?
否。
俺を拾い育てた彼女にそんな詭計はなかった。
汚れた心など持っていなかった。
「――ふむ、今だな」
「は?」
素っ頓狂な声が漏れたが、考えを巡らせる時間は与えられなかった。
俺の目前に、彼女の顔が迫っていた。
「この際だ、思い切っていかせてもらうよ」
「…え?」
次の瞬間。
俺の唇に、彼女のやわらかいものが押し当てられた。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




