2-13 解放
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「ここはどこ…?」
「わからない、何も感じない」
私達は今、なんらかの空間の中にいる。
ここが何処か…なんて全くわからない。
ただただ何もない、灰色の素材でできた空間。照明も無ければ太陽もないのに、視野は明るい。そんな不思議な所。
ただ一つ気になるのは、出入口と思えるドアが設置されていること。
あそこから出れば、ここが何処かがわかるかもしれない。
ここにいるのは、捕われていた奴隷が200名程度。
牢屋ごと、どこか別の空間へ移動したのだ。
――コンコンッッ
「失礼する」
扉を軽く鳴らして中に入ってきたのは、さっきの黒コートの彼だ。
フードを外し、口元の襟も崩しているため、彼の顔が露わになっていた。
黒い髪に黒い瞳の人族。
顔立ちの整った美少年だ。
この子は…、私より随分年下に見える。
「とりあえず、みんな現状を理解できていないと思う。でもまあ…、まずは要らないものを全部処分してしまおうか」
彼はそう言って、再び影を茨のように変形させ、私達を捉えていた牢屋を切った。
出やすいような形に加工されており、牢屋の中に入っていた奴隷達は、ただただ彼の言う通りに出ていく。
「よし…、そんじゃ次はその首輪だ」
彼はそう言って私達に近づいてきた。
たまたま、私が彼に最も近い位置にいたため、彼は私を選んだようだ。
目線が交差し、彼はこちらへと向かってくる。
「身体に触れても大丈夫か?」
「えっと…、見てわかる通り、私には呪いが…」
「嗚呼、なるほど。まずは首輪を外してからにしよう」
そう言って、彼は私の首元へと手を伸ばす。
彼が私を締め付ける首輪を観察してる中、私は彼の目を見ていた。
先ほどまでの金色の瞳とは異なり、今は漆黒の瞳だ。
「うん…。いけるなこれは」
「一つ良いか」
「ん?どうした?」
彼が観察を進めながら独り言を嘆いたその時、聖霊族のミレーナが彼へ話しかけた。
「この首輪は無理やり外そうとすると、対象者の首を死ぬまで締め上げる機能がある。むやみに触れるのは危険だ」
「それはわかっているし、無理やり開けるつもりはない。だって…」
――カシャンッッ
「…え?」
何か、金属が床へと落ちる音がした。
それと同時に、体の一部が極端に軽くなったような。
全身から、力がみなぎってくるこの感覚は…。
「なっ!!」
「うん、思っていた通りだな」
私を縛り付けていた忌々しい首輪は、いとも簡単に外れた。
嗚呼…、これで私の重荷が、一つ軽くなった。
「…泣いているのか?」
「…え?」
無意識のうちに、私は涙を流していたようだ。
指を目の下に添えなければ、その水分の出所が理解できなかった。
「ええ…、本当にありがとうございます…!この御恩は一生…」
「感動している所申し訳ないが、本番はこれからだぞ」
「え?」
「ちょっと手を借りる」
彼はそう言って、私の手を取った。
その瞬間、肥大化した魔物の爪と刃物のような鱗が、彼の綺麗な手に傷をつけてしまった。
いくつか切り傷ができ、血が流れている。
「…やめてください!手から血が出て…」
「大丈夫だ、直に治る。そんなことよりも…」
彼は私の静止を無視して、手を握り続ける。
感じることができるはずの、彼の体温は、堅い皮膚に覆われた私の肌には通らない。
「うん、うん。嗚呼…、なるほどな。よし…」
彼はそう言って、何かに納得をしたような表情を見せる。
「…どうかしましたか?」
「今から君の呪いを消す。苦しいとか、痛いとかあったら言ってくれ」
「えっ、消すって!?」
「まあ、ものは試しだ」
彼は目を閉じ、集中し始めた。
そして、魔法を唱える。
「…【クリーン】」
……。
…。
何か、私に変化が起きた?
「あなた…!顔が!」
「元に、戻ってる…」
「…え?」
近くに寄ってきたアルミネとミレーナが、そう嘆いた。
「よし、治ったな」
…あれ?
私の手は、こんなに温かかった?
いや、これは…。
彼の手が…。
「ふ……」
「…ふ?」
「ふぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」
「おおおおお!?」
私は、自分が何をしているかが、わからなかった。
ただただ、目の前にあった彼の胸に、本能で飛び込んだ。
私の涙は、留まることを知らなかった。
私を蝕み続けていた忌々しい呪縛は、一瞬のうちに消え去ったのだ。
私を抱きかかえる、この優しい彼のおかげで。
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「…申し訳ありませんでした」
「いや、大丈夫。本当に大丈夫」
俺の目の前には、顔を真っ赤にしながら俯く女性。
エルフ族…の上位種族、ハイエルフ族だろう。
長耳に美しい金髪、桁外れの風貌が特徴。
彼女から保有する魔力から言って、エルフとも一線を画している。
あいつらは、本当にどこで彼女を拾って来たんだか。
そして、彼女が俺に対して何を謝っているかというと、人目も憚らずに俺の胸でわんさか泣いたからだ。
恥ずかしさが限界突破し、顔が真っ赤になっている。
しかし、気持ちはわかる。
彼女にとって、あの呪いはさぞ辛いものだっただろう。
だから、別に気にしなくても良いのだが…。
「あの…、なんでもしますから」
「そうか、じゃあ気にしないでくれ」
「いえ、私はあなた様のためなら、なんでもします」
「うん。じゃあなんでもしてもらうってことで、気にしないってことを実行してくれ」
「それは…、難しいです」
うん。顔真っ赤だもんね。
こればっかりは、時間が解決してくれるだろう。
「そして…、君たちは何をしに来たんだ?アルミネ、ミレーナ、そしてネーヴェで合ってたかな?」
俺が使っていた生活空間を、屋敷の中にあるドアに繋げたのだ。
彼女達の身に何かがあった際に、すぐに駆け付けられるようにと。
エルフの彼女…、ネーヴェの首輪を外し、呪いを解いた後は、その場にいた全員の首輪を外したのだ。
その際、【クリーン】を使って汚れはきれいさっぱりにしたのだが、それでも湯に漬かりたいのが性というものだろう。
彼女達を影の中にある屋敷の中に入れ、まずは大浴場に入ってもらったのだ。
女性しかいないため、俺はすぐさま撤退。
彼女達200人分のご飯を作りに調理場へ向かった。
前世で培った料理テクと魔法を駆使し、ダイニングキッチンを一人でフル活用して、全員分の料理を完成。
一人ひとりがお腹いっぱいになるまで、料理を提供した。
余談だが、風呂も食事も、ほぼ全員が泣いていた。
さぞ苦しかったのだろう。
その苦しみが少しでも和らぐのなら、俺も動いた価値が少しはあったのかもしれない。
後は、全員を寝室に割り振り、無事就寝というわけだ。
その際、何かあれば俺の部屋に来るようにと言ったのだが…。
皆がすぐに夢の世界へと旅立っていった中、この3人が俺の所を訪れたのだ。
「まず、私からいいか」
彼女はミレーナ。
紫色のショートカットヘアに狐の獣人特有の耳と尻尾。
歳は俺より少し上くらいの見た目だ。
幼い犬獣人族の子供に見えるが…、中身は少し異なるな?
「嗚呼。ミレーナは…、聖霊族だな?」
「やはりわかるか」
「資料で見たことはあった。ほとんどは勘だが」
聖霊族。聖を重んじる伝承上の種族だ。
俺をこの世界へと転生させたスピラが聖を司る神であるため、彼女からもその力の一端が感じ取れる。
そこから、聖霊族だと予想したわけで。
「なるほど。流石だ」
「たまたまだが…。どうしたんだ?」
「単刀直入に言う。私と契約してほしい」
「契約…?」
「聖霊族は一生に一人、自分の契約者を定めることができる。その契約者になってほしい」
初耳だ。
そんな情報は、どこにも載っていなかった。
「その契約ってのは、具体的には?」
「そもそも、契約は契約者が聖霊に頭を下げて頼むものだ。契約することで、契約者は聖霊の力を借り、恩恵を得ることができる。でも、私と貴殿との契約は逆。私が貴殿の下につき、貴殿の力を私が借りる」
「…それでミレーナは良いのか?本来の在り方と違う形じゃないか。聖霊有利の立場を貫くべきじゃ?」
「私は貴殿と契約したい。貴殿の力になりたい。貴殿に尽くしたい。貴殿のために生きたい。貴殿と一緒に…「ちょい待ち」」
凄い剣幕で訴えられたため、俺が一方的に押される展開になってしまった。
一度、呼吸を整えよう。
「…ミレーナの願いはわかった。だが、俺にメリットはあるのか?」
「…私の身体を自由にできる?」
「しないわ」
「私、こう見えて可愛い方」
「こう見えてってどういう意味だよ」
「大丈夫。毎日ご奉仕する」
「結構だッッ!」
彼女の眼が血走っている。
俺の【超嗅覚】も彼女の本気度をビンビン感じている。
これは…、一度保留で。
彼女は置いておこう。
「ミレーナの契約の件は、保留ということで…。次はアルミネで良いか?」
アルミネ…、龍人族の女性だ。
白い髪に、角と尻尾。
シャンと胸を張った姿勢や、少しキリっとした目つきから、彼女の龍人族としての誇りの高さが伺える。
「ええ。私もあなたにお願いがある。っとその前に、名前をそろそろ聞いても良いかしら」
「あれ…、言っていなかったか?」
「ええ。言い辛いのかと思って、誰も聞かなかったのよ」
「成程。一応ここでは、ルーチェという名前で通っている。気軽に呼んでくれてかまわない」
「わかったわ、ルーチェ。まずは、私含め、皆を奴隷から解放してくれて、本当にありがとう。ルーチェがいなかったら間違いなく死人も出ていただろうし、私もどうなっていたかわからないわ」
「それはもう気にしなくて良い。俺はやりたくてやっただけだ」
「うん…、それはわかっているわ。それじゃあ私からもお願いがあるの」
「言ってみてくれ」
「――私と戦ってほしい」
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




