2-12 咆哮
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「侵入者だッッ!!表の奴らが全員やられた!!」
外から慌ただしく駆けてきた男が、そう叫んだ。
その声を聞き、周りの連中も立ち上がる。
「数はいくつだ!!」
「数は……
――あ?」
「「「…!?」」」
その男が、最後まで言葉を発することはできなかった。
徐々に頭の上半分がズレていき、全身が力なく崩れ落ちたのだ。
「誰だッッ!」
「侵入者来てるぞ!」
「構えろ!武器を持て!」
そう叫びだす男たち、
全員が武器を持ち、先ほど倒れた男の方向。
既に開かれた扉へと、注目が集まる。
コツコツ…と、靴が床を鳴らす軽快な音が響く。
まるで、死がそこから迫っているかのような圧。
その場にいた全員が息を呑んだ。
少しずつ、影が見え始める。
「誰だッッ!!」
そこから現れたのは、黒いコートに身を包んだ人物。
顔は良く見えない…。でも、目だけは良く見える。
何故なら、金色に光り輝く綺麗な瞳が闇の中で唯一の光だから。
「…魔力が全く見えない」
「…なんだ、あの聖の力は」
「アルミネ?ミレーナ?どうしたの?」
あの人を視界に入れた途端、横にいる二人がひどく動揺し始めた。
アルミネは、得体のしれないナニカを見るように。
ミレーナは、何か強大な力に恐れおののくように。
両者はそれぞれの反応を見せていたが、あの人に衝撃を受けていることに変わりは無かった。
「あり得ないの。魔力の完全制御なんて誰にも不可能なの。魔力を持ち合わせていない?いや、それはないわ…」
「なんだ、あの聖の権化は。長など比較にならないぞ…。まさにあの人物が聖そのものだ。何なのだ、あの生き物は…」
「…二人とも?」
「お前ら!一斉にかかれッッ!」
黒コートにもっとも近い人物が、そう指示を出す。
直後、その人に向けて大量の魔法が行使された。
火、水、土、風、雷…、属性魔法に加えて、スキルのような魔法、剣による斬撃。
彼らが持ち合わせるすべての武器が襲い掛かる。
「……綺麗な眼」
私は、無意識にそう零した。
あの金色の瞳は、未来でも見ているのだろうか。
その人は一歩たりとも動かず、すべての攻撃を避け、いなし、撃ち落とした。
足元から生えた、黒い鞭のような生物を使って。
「全員かかれッッ!!」
叫びに応じて、男たちが飛び出す。
だが、もう目の前にその人はいない。
「なっ、消え…」
全員には、その人が消えて見えたはず。
まるで、空間魔法による瞬間移動のように。
でも、私には見えた。
男の背後…、影の中から飛び出すその人を。
私をこの鳥籠の中へと縛り付けた、あの男の後ろに。
何よりも輝いて見える、金色の瞳がそこにあった。
「……え?」
刹那、男の首が刎ねられた。
自分が殺されたことに、理解が追い付いていないような声を残して。
本当に、無駄の無い動き。
洗練の先の先、美しさすら感じさせる舞。
集団を引っ張っていた存在が即座に倒されたことに対し、周りの男たちは一瞬、躊躇を見せた。
それを、あの人は見逃すはずはない。
「――【シャトー・エスピナ】」
…それは、とても耳に残る、男の声だった。
私の鼓膜を通り、脳に刻まれ、全身が震え上がった。
計り知れない、あの存在に私の細胞が反応した。
彼が唱えた魔法によって、影はまるでしなる茨のように伸びていく。
傍から見れば、とても凶悪なモノに見えるだろう。
でも、私にはそうは見えなかった。
私にとっての、希望に見えた。
茨は何よりも早く男達の身体を締め上げ、手足をあらゆる方向へ捻じ曲げ、首をへし折る。
この場にいた見張りの男たちが、全員倒された。
「やはり早いか。いや…、ちょうどいいな」
彼がそれを口にした時、背後から見張りの応援が到着してしまった。
数は、先ほどの倍以上。
彼は道中を無視して、まずここにやってきたのか。
「てめえ…、ナニモンだ?何をしに来た?」
彼の逃げ口を塞ぐように展開された敵の中から、一人が飛び出してきた。
アイツは…、今までの奴らより別格だ。
「ここに監禁された罪なき奴隷達を解放しにきた」
「へえ…、単独で乗り込んできたってわけか」
「一人で十分だ。あまりにもここの守りが温くてな」
「安心しな。お前が倒した連中はただの雑魚だ。正義の味方を気取ったお前には、ふさわしい墓場になるだろうなぁ!?」
「そうか?俺はお前らも含めて、温いと言ったつもりだったのだが」
「なんだと…?」
先ほどまでの無駄のない動きとは異なり、舌戦を始めた。
何かを待っている?
「…ここは空気が悪い」
突然、彼は右手を上へと掲げた。
「今日は、とても月が綺麗だった」
直後、掲げた掌から、黒い閃光が放たれる。
天井に大きな穴を開け、屋敷の屋根をも貫く。
彼を中心に、月日が私達を照らした。
…本当に、本当に綺麗な月。
「何だその力はッッ「…すまない」」
「――もう時間だ」
GUOOOOOOOOO!!!!!
大地を揺るがすほどの咆哮。
その場にいる全ての者が耳を手で塞ぎ、恐怖する身体を押さえつけた。
必死に顔を上に向け、その発信源を探す。
そこにいたのは…。
「……アリア、放て」
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「あるじ!あるじ!わたしのかつやく、みてくれた?」
「嗚呼、最前列でみていたぞ」
「わたしの、ぷりずん100まいぬきぶれすは、どうだった?
「とても美しかった。良いブレスだったよ」
「きゃふーーー!!!」
無事に作戦が成功し、俺たちは影の中に戻っていた。
先ほどまで大人ドラゴン形態であったアリアは、子供の姿に。
俺から褒められたのが嬉しかったのか、とても興奮した面持ちだ。
確かに、アリアは大活躍だった。
賞賛するに値する。
でも、プリズン100枚抜きの規模とは聞いていなかった。
思っていたよりも早めに奴隷の所へ到着してしまったため、どこかで時間を稼ぐ必要があった。
そこで軽めの舌戦を挟み、その隙に【シャトー・プリズン】の壁を屋敷の外四方に張りまくったのだ。
彼女が気持ちよく撃てるように上は塞がず、天井に大穴も開けておいた。
しかし、何故か変な臭いがしたため、壁の枚数を予定よりも増やした。
厚みも増し、完璧な体制を整えた…つもりだった。
ギリもギリ。本当にギリだった。
あと一枚無かったら、周辺の建物も木端みじんである。
俺は別に、無差別に街をぶっ壊すつもりはない。
「しゅうそくをがんばったの!どんなほこも、やぶるたてになるんだって!」
「うん。恐らく矛と盾が逆だな」
「ワタシは、あるじのほこになる!」
なるほど。
そういう思いから、土壇場で収束をさせたのか。
しかも、練習以上の成果を。
先ほどまであった屋敷は、完全な更地になっている。
それどころか、彼女のブレスによる熱で、溶けている部分もあるだろう。
流石に王都中が気づいたようで、表はひっちゃかめっちゃかだ。
王城もドタバタしている。
夜中だというのに、騎士団と魔法師団が収集され、いまから動員する…といったところ。
非常に申し訳ない。
でも、このくらい派手にやらないと、彼女の気が済まないのではと思ったのだ。
漆黒のドラゴンが王都の上空に現れた…という噂も流れるだろうから、もうアリアをネロの従魔に認定する作戦は吹っ飛んだ。
彼女は俺の…、ルーチェの相棒というポジションで決定。表には出さず、俺が彼女の面倒を見ていく。
「アリア、魔力の消費はどうだ?」
「ん?ぜんぜんだよ!あるじからならった、しょうえねだよ!」
魔力の省エネ。
燃料が尽きた車が動かなくなるように、魔力が尽きた者は途端に不利となる。
彼女にはその危険性を知ってもらいたかったため、魔力の削減について教えた。
言うのは簡単だが、実行するのは難しい。
魔力に使われるのではなく、魔力を使うという絶対的立場を確立しないと、節約なんて段階には踏み込むことができないからだ。
アリアは、自分の魔力を既に物にした上で、使用量の絶妙な調整を行っている。
やはり、とんでもない成長スピードだと思う。
さて、反省会はこの辺にしておこうか。
彼女達を放っておくことはできないから。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




