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2-11 陰は動く

いつも読んでいただきありがとうございます。


感想やいいね、ブックマーク登録等よろしくお願いいたします。

 私の名前はネーヴェ。

 

 エルフが統治する王国、森王国フォレスタで生まれた。

 私の種族はハイエルフ…、フォレスタの王家のみに受け継がれる種族。


 そう、私はフォレスタの王女…だった女。

 もうそれは過去の栄光だ。

 


 いや、栄光なんかじゃない。



 私は才能に恵まれた。


 氷属性という珍しい属性適正を持ち、魔法の腕前は幼いころから魔法師を倒せる程だった。

 勉学の成績もよく、同年代の誰よりも優秀だった。


 見た目にも恵まれた。

 王女たる母親譲りの、美しい金色の髪は私のお気に入り。

 顔立ちもよく、着飾る際は常に人々の目が私に集まっていた。


 いつしか、将来はこの国の女王になる…という話が周囲で浮かぶようになった。

 それだけ多くの人々からの期待を背負っていた。


 でも、私には姉が2人いた。

 

 私は3番目、第三王女だ。


 誰よりも優秀な私に対して、彼女達が嫉妬の心を抱かないはずがなかった。








「あなた…、ハイエルフ?」


「…え?なぜわかるの?」


「今まで会ってきたエルフとは、魔力の質がまるで違うわ。根本的な…種族そのものが違うみたいに。だからハイエルフかな…と思ったの」


「そんなあなたは、龍人族?」


「ふふっ、そうよ。この角と尻尾でわかっちゃうわね」


 彼女には、綺麗な純白の角と尻尾が生えていた。


 汚れているとしても、その奥には真っ白な髪と、美しい顔立ちが残っている…。


 いいな…、私と違って。


「あなたのソレは…、何かの呪い?」


「ええ。身内に嵌められて、こんな姿になっちゃったの」


 そう、私の身体は現在進行形で呪いに蝕まれている。

 身体の至る所が魔物化していくという、凶悪な呪いに。


 肌を見せないように、ローブで全身を隠しているつもりだが、肥大化した鋭い爪や、頬や首に生えた鱗までは、隠すことができない。


 私は…、この醜い姿が嫌いだ。


 あれだけ好きだった、母譲りの金色の髪も汚れた灰色に変わってしまった。

 私の好きだった色は、もう無くなってしまったんだ。


 死にたい。


 誰かに、私を殺してほしい。


「そう…、お互い大変ね」


「あなたは何故こんなところに捕まってしまったの?龍人族といえば、戦闘において敵はいないでしょう?」


「私も嵌められたのよ。龍人族は高値で売買されるから」


「…そう」


「この首輪には、流石の私も無力だわ。魔法も使えないし、力技もできない…。ただただ売られるのを待つだけよ」


 ここにいる奴隷達に着けられている首輪は、主人へ逆らうことが一切許されないもの。

 体内の魔力も分散され、魔法を発動することができない。


 本来、私達ハイエルフや彼女の龍人族は、魔力の含有量が生まれつき多く、戦闘において負けることはないのだ。


「他のみんなも…、もう衰弱しきっているわ。危険な状態の子だっている。見張りの数も多くて、動くこともままならない」


 目が虚ろな子。血を流している子。手や足が無い子…。

 五体満足の子は一人としていない。


 龍人族のこの子だって、よく見たら傷だらけだ。

 彼女を傷つけるなんて、どれほどの暴力を繰り返されたのだろうか。


 そして私たちが捕まっている牢は、複数の見張りがいる。

 出入口は勿論、私達のことも監視している。


 この首輪のせいで、魔法を一発くらっただけでも致命傷になりかねない。


「あなたは、諦めてないの?」


「空元気かもしれないわ。龍人族はプライドが高いから。ハイエルフも同じじゃない?」


「私は、早く死にたいわ。ここから逃げても、居場所なんて…」


 無い…、そう言おうとした時、別の方向から他の声が聞こえた。


「その呪い…、治せるかもしれないぞ?」


「…あなたは?」


 私達の会話に入り込んできたのは、小さな女の子だった。

 紫色の耳に尻尾…、この子は獣人族か。

 こんな幼い子まで、あいつらは攫ってきたのかッ…


「あなた…、獣人じゃないわね…?」


「…え?」


「ほう、よくわかったな」


「あなたもこの子と一緒。魔力が他の獣人族とは桁が違うわ」


「魔力が分散されているというのによく察知ができる。君の言う通り、私は聖霊族。獣人じゃない」


「…実在したの?」


 龍人族の子が驚いた様子を見せるが、私はついていけていない。


 聖霊族というのは、伝承上の種族。

 そう、認識していた。


「実在する。私という存在が何よりも証拠になるだろう。ここの連中には、獣人の雌としか見られていないがな」


「聖霊族のあなたが、何故こんなところにいるの?」


「…この首輪のせいだ。この首輪は私の聖とは真逆の存在。私の聖じゃ全く歯がたたなかった。近くにあるだけで、身体が動けないほどにな…」


 彼女は悔しそうな表情を浮かべ、唇を噛む。


「そんなことあるの?」


「恐らく一族でも私だけ。極端に聖に特化してる上に未熟。私は出来損ないだから。ほら、傷も治せない」


 彼女はうす汚れたローブを少し開く。

 無数の生傷が残る、痛々しい肌が目に入る。


 …可哀そうという感想を抱くだけで、何もできない自分に腹が立つ。

 たとえ首輪が無くとも、呪いに蝕まれた私の身体は魔法を使えない。


「あなたの呪い、聖霊族の長になら治せるかもしれない」


「え?」


「恐らく、呪いが強力すぎて私では治せないな。否、長にしか治せないものだと思うぞ」


「そう…」


「諦めるところじゃない。ここを出たらそれを治すと思え」


「そうよ、まだ諦めるべきじゃないわ。私も諦めない。龍人族は諦めが悪いんだから」


「…うん」


 彼女達の言う通り、まだ諦めてはいけないのかもしれない。

 

 私には、もう女王になって国を導くなんて願いはない。

 私を陥れた姉妹に復讐したいなんて愚かな考えも無い。



 ただ一つだけ。



 私には夢がある。



 それは幼い頃から、心に抱いていた夢。



 いつしか、叶うその時が来ると信じていた、あの夢を。



 私は、それを実現させたい。




「うん、良い目になった」


「自信は持てた?」


「ええ…!ありがとう」


「あ、そうだ。名前はなんて言うの?私はアルミネよ」


「ミレーナ。聖霊族のミレーナ」


「私の名前は……」





「――侵入者だッッ!!表の奴らが全員やられた!!」





 私の名前を最後まで口にすることは出来なかった。







――でも大丈夫よ、ネーヴェ。


 後に、彼女達とはいくらでも話せるようになるから。


 私を救い、導いてくれる。


 彼が来てくれるから。









________________________________________









「アリア、準備は良いか」


「うん!」


「作戦の決行は2分後。3分ですべてを終わらせる」


「うん!」


「俺が言ったこと、覚えているな?」


「しゅうそくと、かくさん!」


「嗚呼。収束と拡散だ。何をどう壊したいのかを考えるんだ。俺の壁を打ち抜くなら、限界まで収束させろ。一点突破の矛は、必ず盾に穴を開ける。対して大軍を相手にするなら、拡散させて規模を広げろ。巨大な大楯は、数ある矛を吹き飛ばす」


「わかった!」


 彼女の返事を聞き、俺は頷く。


 コートの裾を整えて口を隠し、フードを被りなおす。


 念入りに練った作戦は、予定通りに決行する。

 敵の人員は想定通りで、動きに変化もない。


 今回は、とにかくスピード命。


「それじゃあ、アリア。俺は先に行く。後は頼んだぞ」


「まかせて!ばっちりだよ!」



「【シャトー・トランス】」



 彼女を外へと配置し、俺は影の中に潜る。


 アリアの返事はとても子供っぽいが、俺の言うことには忠実だ。

 指示した通りに、完璧に動いてみせてくれる。


 それだけ、従順な女の子だということだ。


 だからこそ、彼女の見せ場は作ってあげたい。


 俺はその下準備をするだけだ。



「現場に到着。15秒後、表の50人を一斉に消す」



 奴隷達が監禁されているのは、没落貴族が手放した屋敷の地下だ。

 そこを大きく広げ、数百人を牢屋の中に閉じ込めている。


 見張りの数は外に50、中に150といった構成だ。

 危険人物はちょくちょく混じっているが、計画を変更させる要因にはなりえない。


 

 5秒前。



 5,4,3,2,1―――



 ――0



(【シャトー・エスピナ】)


 俺は見張りの死角から飛び出し、彼らの足元にある影から魔法を発動させる。


 背後から、影が茨のように形となって襲い掛かり、彼らは叫ぶ間もなく、首を絞めつけられ絶命に至る。


(【シャトー・アビス】)


 直後、死体が地に倒れる前に、影の中へ格納。


 血を出していないため、臭いでバレる可能性も無い。


 ここまで、作戦開始から10秒。




「ちょっと早いか…?」

 









本話も読んでいただきありがとうございました。


作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522

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