2-7 冒険者登録
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俺は今、王都の街を一人で歩いていた。
午前中は剣術と魔法の修行を行い、午後は俺の勉学を担当する教師が休みとのことで、自由時間となっている。
たまにアンナや姉達と町に赴き、ショッピングに付き合わされたりするのだが、今日は一人でゆったりすると申し出た。
緑色の長髪に碧眼。腰に剣を携え、一式の装備に身を包む。
それが今の俺の見た目である。
先日マスターから買った『偽装の耳飾り』をさっそく活用し、髪と目を変化させた。
長髪にしたので、ネロやルーチェを想起するものは一人もいないだろう。
【フレグランス】を利用した香りの調整もしており、声帯も弄っているため、完全に別の人格を創り出している。
ちなみに、身長も胡麻化している。
以前と異なり、『偽装の耳飾り』のよるものなので、身ぐるみを剝がされたとしても問題はない。
本当に良い買い物をした。
「わっ…、かっこいい…」
「本当ね…。有名な方かしら…」
通りを歩いていた最中、そのような声がちょくちょく聞こえていた。
自分で言うのもあれだが、顔はかなり良い方だ。
ルーチェの時は顔が見えないようにしているが、ネロの時はメイドに囲まれることが多い。
親密になろうと心がけているため、あっちも容赦がないのだ。
さて、今日の俺の目的だが…。
ズバリ、冒険者登録である。
現在、エミリア王国第三王子ネロ・ディ・エミリアとルーチェの二つの面を持っているが、ここでもう一つ追加をする。
それが、冒険者としての面だ。
表でフレキシブルに動くためには、冒険者という肩書が最も適している。
ルーチェじゃ表に出れないし、ネロで縦横無尽に駆け回るなんて以ての外だ。
ランクが高い程、名を知ってもらう機会が多くなるため、昇格も狙っていきたいと思う。
下手に目立たない方が…と思うかもしれないが、冒険者としての立場を強く確立させることで、他の面へ連想しにくくさせる方が重要だ。
光が強い程に、影は視界に入らない。
今後の展開について思案していたが、目的地が迫ってきた。
冒険者登録は、基本的に冒険者組合という施設で行う。
この王都にあるのは、エミリア王国冒険者組合の本部。利用人数は支部とは比較にならず、24時間フル回転だ。
それほどに、冒険者という職業を選択する者はこの地に多い。
命をかける代わりに収入は多くなりがちなので、夢のある職業…というわけだ。
しかし、毎日誰かが何処かで亡くなる。それが日常茶飯事な厳しく残酷無比な世界とも言えよう。
リスクとリターンを天秤にかけた際、どっちに軍配が上がるのかは人それぞれだ。
俺に答えを出すことはできないし、自分の考えを押し付けてもいけない。
「冒険者登録をお願いしたいのですが…」
組合の中に入り、ロビーに立っていた受付嬢に声をかける。
俺が来てから、ずっと顔を見てきているのだが…。
「…ぽーー」
「あ、あの?」
「はっ!はい!別に見惚れてなんかいませんっ!」
「そんな質問していませんが…」
「…え?」
この人は新人さんだろうか。
俺相手に挙動不審がすぎる。
「冒険者登録はここで大丈夫でしたか?」
「あ!はい!ここで大丈夫ですっ!」
顔を真っ赤にしながらも、彼女は俺の求めていることを理解してくれたのか、書類の用意を始めてくれた。
「それでは、ここに記載をお願いします。任意記載の場所が多いのですが、できるだけ埋めてくださると、こちらとしても助かります」
「わかりました」
わかりました…と言いつつ、ほぼ嘘の情報で埋め尽くす。
職業は剣士というのが、一番的を得ているだろうか。
記載を終え、利用規約のような資料をざっと眺める。
冒険者というのはFからSまでのランクに分かれており、ランク昇格はこなした依頼の数や難易度、その他評判や実力など総合的評価によるところが大きい。
依頼は魔物の討伐や護衛依頼、日常的な雑務など様々で、ランクが上がるほどに高難易度の依頼を受領することができ、報酬金も跳ね上がっていく。
依頼を受ける際はこちらが前金を払い、失敗したらそのお金は没収…という仕組みだ。
ここで稼ぎが大きい程、裏で得た金品を孤児院等に回すことができるため、できるだけ多くの依頼をこなしたいところである。
「書き終えました」
「それでは確認しますね。名前は…、ヴェールさんですね!剣をお使いになられるんですか…!」
「ええ、剣術に一番自信がありまして」
「カッコいいですね…!あっ、ところでランクの方はいかがしますか?腕試しの方をしていきます?」
「ええ、ぜひお願いします」
彼女の問いに答えた後、促されて行きついた先は、闘技場のような場所だ。
この冒険者組合の裏手には、このような訓練施設が豊富に備わっている。
前世で言うジムのような所もあり、意外と本格的なのだ。
これから行われるのは、腕試し…という名の決闘。
冒険者組合に所属する冒険者と戦うことができる機会を与えてもらえるのだ。
何故そんな機会を設けてもらうのかというと、冒険者ランクの飛び級が目的だ。
本来一番下のFランクから徐々に上げていく必要があるのだが、登録の際に申し出ることで現役の冒険者と戦い、実力でランクを判断してもらうという仕組みがあるのだ。
ほとんどの冒険者がここで腕試しを申し出て、本物の彼らにコテンパンにされる、所謂登竜門のような場所でもある。
「今から対戦相手を探しますが、ヴェールさんが希望するランクはありますか?」
「そうですね…。今呼べる方の中で、一番高いランクでお願いします」
「…!わかりました」
傍から見たらただのビッグマウスだが、事情があるため仕方のないこと。
高ければ高い程、俺としては助かるのだが…。
数分を一人で待っていたところ、先ほどの受付嬢が駆けつけてきた。
「見つかりました!相手はBランクの方ですが、よろしいでしょうか?」
「わかりました、ありがとうございます」
Bか…、妥協ラインだな。
「もう少しで到着しますので、準備を進めてください」
「わかりました」
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「おお!随分な色男だな!」
前世よろしく、準備体操に勤しんでいたところ、大声が闘技場中に響いた。
「お、本当だな」
「ゲルマ、やりすぎないようにね。あの顔に傷一つでもつけたら、私がぶっ飛ばすから」
「私もそれが心配ですね…」
中に入ってきたのは、4人組だ。
男2、女2の構成で、男が近接、女が遠距離といった見た目。
なるほど、パーティーを組んでいるのか。
実際ソロでの冒険者なんてほんの一握りだ。
上のランクにいけばいくほど、質の良い高ランクパーティーが並ぶ。
彼らは、中々死線を共にくぐっていそうな雰囲気だ。
「ヴェールです。よろしくお願いします」
「おっ!礼儀正しい男は好きだぜ!」
俺の数倍はあると思われる大きな手と握手を交わす。
嗚呼…、これは剣を握っている手。
「ヴェールちゃんは一人なの?良かったらこの筋肉ダルマの代わりにうちに来ない?」
「ここのリーダーは俺だろうがッッ!」
「ええ~、私は色男が良い~」
「お前の食費…払わんぞ」
「あ、それは困るわ」
「結局飯かよッ」
受付嬢から補足の説明を受けたが、彼らは全員がBランクの冒険者で構成されたベテランパーティーで、この筋骨隆々なリーダーはゲルマという。
もう一人、短剣を2本腰に下げた男性がソルト。俺を勧誘してきた女性が、攻撃魔法を主とするデリア。最後に支援系の魔法を担当するおっとり目の女性がラティアだ。
非常にバランスの良いパーティーだと思う。
「俺は力加減が苦手なのだが…、それでも大丈夫か?」
「ええ。是非本気でお願いします」
「ほう…、冷やかしじゃねえな。そんじゃ楽しもうか!」
胸を借りるつもりで挑もう。
まずはここで勝って、Bランクに上がるために。
本話も読んでいただきありがとうございました。
作者 薫衣草のTwitter → @Lavender_522




