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胸がキュンとしたら……


 全員の視線が一斉にこちらに向いたので、ルースはハッと我に返った。


「あ――失礼いたしました」


「いや、いい」陛下が促す。「なぜ使えると思うんだ?」


「それは、あの、私がそう考える理由は省いてもいいですか? ちょっとややこしいので、説明しづらいのです。ですがお嬢様の身に起きているであろう現象について、私の考えはお伝えできます」


「分かった。話してくれ」


「まず前提として、お嬢様は魔法を使える――このことを前提に話を進めていきます。しかもそれは並のレベルではない。ガーランド帝国でもトップクラスで、三本の指に入る力量のはずです」


 ゲームではそうだった。ここはそれとは違う世界なのかもしれないが、それでも氷帝ノア・レヴァントが『ソフィアには何かがある』と秘めたる可能性を見い出したならば、おそらくそのとおりなのだと思う。


 その力が氷帝の抱える深刻な問題を解決できるレベルなのかどうかは分からない。けれどとにかく、ソフィアの中に強大な魔力が眠っている可能性は高い。


 しかしこの説は、ソフィア自身が一番受け入れられなかったようだ。


「あのね、ルース。だけど私、十二歳の時、魔法の才能がないって判定を受けているのよ」


「原因はわかりませんが、その時の結果がエラーだったのではないですか?」


「でもぉ、普通に生活していて、『私、魔法を使えるな』って感じたことがないのよ。そんなことある? 能力のあるなしは、自分が一番分かるものだと思うんだけど」


 そのきざしがあれば、ソフィアだってもう一度魔力測定を受け直していただろう。けれどそれを感じたことは一度もなかったのだ。


「それは単なる思い込みなのかもしれませんよ」


「どういうこと?」


「無能力者という判定を受けたことで、お嬢様は『自分はだめだ。落ちこぼれだ』と思い込み、呪術的な縛りを自分自身に向けてしまったのでは? 不幸なことに、魔力が桁外れに強かったため、抑圧する力もそれに比例した。それがあまりに強固であるがゆえ、完全に隙なく封印され、お嬢様の中に強大な魔力が眠っていることを、誰も探知することができなくなった。皇帝陛下はお嬢様より上位能力者なので、硬い殻の下に眠る力の波動を感じ取ることができたのかもしれません」


 ルースの話を聞き、ノアが考え込んだのはわずかな時間だった。やがて彼ははっきりと意思を乗せてソフィアを見つめた。


「ルースの話は筋が通っている――先日、私が知覚したものも、今の話を裏づけると思う」


「……ということは?」


 ソフィアの声が揺れた。


「君は魔法が使える。探さねばならないのは、ロックを外す方法だ」


「お嬢様」ルースは眉根を寄せ、ソフィアに尋ねた。「初めて陛下とお会いした日に、何が起きたんですか? 同じ状態に近づければ、またロックを外せるかも」


「何が起きたんだと言われても」


「普段と違う精神状態になりませんでしたか?」


「普段と違う……?」


 ソフィアは呟きを漏らし、目の前にいる陛下を眺めおろした。彼はまだソフィアの手を握っていて、こちらをじっと見つめている。


 ――ソフィアはかぁっと頬が熱くなるのを感じた。彼と視線が絡むと、頭が混乱してくる。


「えっと……近くで見ると、あなたの瞳は海の深い青を思い出させるわ……」


「お嬢様、モジモジして訳の分からないことを言わないでください」


 はたからピシャリとルースのツッコミが入る。


「あーん、でも、雑念が混ざるのぉ!」


「お嬢様は異性への免疫がないですもんね」


「そんなことないですぅ!」


「お子ちゃまだから……」


「そんなことないもん!」


「陛下を前にして、ドキドキしたからロックが外れたんだったりして」


 この時ルースが何気なく口にした言葉が、解決のヒントとなった。


 図星を突かれたソフィアが耳まで赤くして、


「やーん、恥ずかしい! 言わないでぇ!」


 と可愛い声で叫んだのだ。


 シン……と部屋が静まり返る。ルースは真顔に戻り、まじまじとソフィアを見つめた。


「え? 本当に? じゃあ、お嬢様は胸がキュンとしたら、魔力が開放されるっていうこと?」



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