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お嬢様は魔法を使えるはず


 せめてトライしてみてほしい――そう乞われたソフィアは。


 慎重な足取りで執務机を迂回し、ノアが腰かけている椅子のところまで近寄って行った。隣に立って彼の端正な顔を見おろしながら、『まるでできる気がしないわ』と途方に暮れてしまう。


「――ソフィア」


 促すように、手のひらを差し出される。すらりと伸びた指は繊細なつくりであるけれど、それでもやはりソフィアのものよりもずっと大きくて、男の人の手だなという感じがした。それを意識したことで、滅多に動じないはずのソフィアがガチガチに緊張してしまう。


 彼女は大変人懐こい性格をしていたけれど、実はこれまで生きてきた中で、男性と親密な関係になったことが一度もなかった。


 これはお友達とするような、挨拶の握手とは違う触れ合いだわ……ソフィアは浮ついた感情よりも、緊張のほうを強く感じた。


 おっかなびっくり、彼の手にそっと自分の手を乗せる。


 一方、ノアは。


 ソフィアに対して抱いていたイメージ――『元気で物怖じしない女性』という人物像が、必ずしも正しくないことに気づかされていた。


 どう見ても彼女は男慣れしていない。触れた指先はとても冷たく、挙動もぎこちなかった。


 ノアは物柔らかな瞳で彼女を見つめた。そして接触により、変化が起こるのを待った。


「……な、何も起きない……」


 ソフィアが動揺した様子で呟きを漏らす。確かに何も起きなかった。


 まただめだったわ……ソフィアは胸を痛めた。


 こうして誰かの期待を裏切るのはこれで二度目だ。一度目はかなり大きな騒ぎになった。十二歳の時に魔力測定を受け、ソフィアには魔法を使う才能がないと宣告されたことで、家族はソフィアに失望し、冷めた怒りを向けた。これによりソフィアは家にいられなくなり、外国に渡った。


 長い年月を経てふたたびガーランド帝国に戻ってみて、それで何かが変わっただろうか? 変えることができただろうか? ――答えは『いいえ、何も』だ。


 今回ノアは『君ならできる』と期待してくれたけれど、やはり自分はそれに応えることができなかった。大抵のことなら笑い飛ばせるけれど、魔法に関することだけは別だ。ソフィアはしょんぼりして俯いてしまった。


「あの、陛下」ソフィアが元気のない声で呟きを漏らす。「私には魔法の才能がないんです。だから何も起きないのだと思うわ」


「そうは思わない。君は魔法を使えるはずだ」


 意外にも陛下はそれを否定する。


「でも」


「君に触れていると、確かに何かを感じる。けれどとても淡い――まるで硬い殻に覆われ、厳重に封をされているかのようだ。これはなんだ?」


 傍観していた侍女のルースは、思わず一歩進み出ていた。考えごとをしながら、ほとんど無意識のまま口を挟んでしまう。


「陛下は正しい……お嬢様は魔法を使えるはずです」



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