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「ふッ桜……の季節ね」

先輩は屋上で缶コーヒーを飲みながら言った。

「もう散ってますがね」

「キミは夢がないな」

「先輩は現実を見て下さい」

屋上は静かだが風が少し強くて私は早く室内に入りたいのだが、格好つけたい先輩は屋上の手すりを背に缶コーヒーを飲みながら人生を語りたいらしい。

「新入生が楽しみだ……」

「もう入学してますよ」

「部員……」

「部活入ってないでしょうが」

「キミは私には何もないみたいな言い方をするな」

「学年1位の成績を持っていてそれ言いますか」

会話だけではポンコツな人だが、勉強だけはずば抜けてできる。

むしろ、勉強しかできない人なのだ。

「私は下から2番目の成績ですよ」

「勉強は得意不得意の世界なんだ。それで人間を計る方が本来間違っている」

「私もそう思いたいですが、1番わかりやすい数字ですからね」

ふたりの間に沈黙が流れる。

それは気まずさではなく、信頼が生み出す静けさだ。

「先輩……来年卒業なんですよね」

「ああ。留年しない限りな」

「私には先輩しかいなかったんですがね」

「不思議なものだ。いままで生きてきた中でひとつ下のキミが一番の親友になるとはな」

「お互い友達、いないですからね」

「どこでどう出会ったのか忘れたな」

「私は覚えてますよ」

入学した日、散った桜の木を眺めていた人がいた。

私はその人を見つめていた。

「先輩には散った桜が似合いますね」

「はは、冗談にしてはひどすぎるな。ケンカ売ってるのか?」

「いえ、ちょっと思い出したことがあったんで、つい、口に出てしまいました」

来年、この人が見る桜は咲いているのだろうか。

私はこの人と見る桜は散っているものが見たい。

それが私と先輩との出会いであり、一時の別れに相応しいと思ったからだ。

「コーヒーが切れたから学校の中へ入ろう」

「ええ」

優しく吹いてきた風が私たちの背中を押してくれた気がした。

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